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周遊編
86 オルニス国 01
翌日から私とカルロは帝国を周遊する旅の計画を始めた。
護衛で一緒に来るグレデン卿にも行きたいところがあるか確認すると「美味しいものが食べたいです」と言われたので、料理が美味しい国には長めに滞在することにした。
基本は転移魔法で移動するので毎日エトワール王国の自室に帰ってもいいのだが、それではあまり旅をしている感覚は味わえないと思ったので、私は最低でも一泊くらいは訪れた国に泊まることにした。
魔塔にも出向き、魔法使いたちに訪れるべき国、見るべきものなどを聞いて回る。
そうして旅の準備を進め、施設の子供たちにはしばらく来られないことを伝えた。
彼らは非常に残念がってくれたが、何かお土産を見つけたら届けることを約束すると楽しみだと皆目を輝かせた。
テオなどはいつか自分も一緒に旅に出たいと言った。
私とカルロの旅が終わる頃には風魔法の一つでも放てるようになっているとテオは約束した。
テオが一番得意な属性は風属性だったのだ。次に火属性の魔法だ。
準備に最も時間がかかったのは旅する平民に見えるような衣装作りだった。
わざわざ仕立てなくても、下町の者たちに頼めば用意してくれると言ったのだが、私の衣装作成を担当しているデザイナーが謎のやる気を見せて旅人風のおしゃれな衣装を作ってくれた。
しかし、それを着ていって本当に平民に見えるのかどうかはかなり怪しいと思った。
知っている者が見れば最高級品の生地が使われていることがわかるだろう。
しかし、私が微妙な気持ちで衣装を眺めていると準備の進捗を見に来た魔塔主は最初に訪れる予定のオルニス国ならば特に問題はないと言った。
私たちがオルニス国へと向かう前に城に留まって基礎学習を行なっていたライオスの帰路の準備を進めて、前もって騎士団長と話し合っていたように騎士と使用人をつけて見送った。
ライオスが公爵邸に戻ってからも学習を続けられるように、私は乳母にライオスのための教師の手配も頼んだ。
教師がライオスを狙っている者たちの魔の手にかかると悪いので、ライオスの屋敷に泊まり込みで働ける者がいいだろう。
屋敷の中にいてくれればエトワール王国の騎士たちが守ることができる。
私とカルロは最初に一番気になっている天空都市と言われるオルニス国へと向かった。
オルニスは都市国家でエトワール王国よりもかなり小さな領土しかない。
それというのも、オルニス国は切り立った山の上にある国だからだ。
オルニスの住民たちはエルフの末裔だというが、この点はあまり期待しないで向かうことにした。
ドワーフたちも人間たちとの混血が進んでドワーフだとは気づかない見た目をしていたのだから、エルフだってその可能性がある。
期待しすぎるとがっかりするので、私は期待せずにオルニスへと行くことにしたのだった。
ちなみに、転移するためにはその土地の風景を知っておく必要があるので、結局は魔塔主に旅の同行をお願いすることになった。
映写の魔導具の映像を見たり、風景画を覚えてその土地へ転移できるかも試したのだが、結果は、転移魔法が発動しなかった。
どうやら転移のためには風景だけでなく、その土地の魔力や空気感というか匂いというか、肌で感じるその土地の雰囲気みたいなものを認識しておく必要があるようだ。
映像や風景画ではそういったものは一切わからないため、魔法が発動しなかったのだ。
それで結局、各国を回っている魔塔主を頼ることになったのだ。
魔塔主がいれば私とカルロ、そしてグレデン卿を一気に運んでくれるからラクだし、万が一誰かに見られるようなことがあっても私の魔法もカルロの魔法も知られることがない。
結局は一番安全で確かな方法が魔塔主だったのだ。
「さぁ、着きました。ここがオルニスです」
魔塔主の言葉に周囲を見渡すと私たちは塔のてっぺんのようなところにいることがわかった。
山の上にある都市国家の塔のてっぺんのため、非常に高い位置で都市国家全体を見渡せるだけでなく、山の下の森の景色までよく見渡せた。
街の建物はガラスを多用しているのか透明のものが多く、陽の光を反射してキラキラと輝いている。街全体がまるで水晶の塊のようで非常に美しかった。
街の建物だけでなく、私たちがいる塔それ自体もガラス張りのような作りだった。
その様子はまるで前世の高層ビルのようだった。
「このような山奥なのにガラス製作の技術に秀でているのですね」
私がそう言えば魔塔主は「ガラス?」と首を傾げた。
そして、街を見回して、合点がいったというように「ああ」とひとつ頷いた。
「あれはガラスではありませんよ。水晶です」
「……水晶? あの全てが水晶ですか?」
あのようにいくつもの建物を建てるにはどれほどの水晶がいるのだろう?
世界中の水晶を集めても足りないのではないかという気がするが。
「ここには、水晶の鉱山があるということですか?」
それも、かなり大規模な。
「違います」と魔塔主は笑った。
「エルフが開発した魔導工学で水晶が作り出せるのです」
私はこの時、初めて魔導工学という言葉を知ったが、魔塔主曰く、ドワーフが魔力と技術で素晴らしい刃物を作り上げるのも魔導工学と言えるそうだ。
エルフが魔法と独自技術で作り上げた水晶は魔石に近く、魔力伝導に優れているため、建物に使用することによって寒暖差の大きいことの土地でも建物内は非常に快適な温度に保たれているそうだ。
素晴らしい技術力に私が感心していると、複数名の足音が近づいてくるのがわかった。
「足音が近づいてきますね」
グレデン卿が私とカルロを守るために足音がする方向へと一歩前へと出た。
普段は人がいなさそうな塔のてっぺんに複数人が走って近づいてくるなど不自然だ。
私たちとは全く関係のない要件で階段を駆け上がってきていることを願う。
「ローゼンクロイツ様! お戻りになりましたか!」
塔を上り切った者たちが言った言葉に私は魔塔主をまじまじと見る。
ローゼンクロイツは魔塔主の名前だ。
どうやら、オルニス国は魔塔主がちょっと立ち寄った程度の国ではないようだ。
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