不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【幼児ブロマンス期→BL期 成長物語】

はぴねこ

文字の大きさ
108 / 292
周遊編

107 星鏡のレイラ 後編

「まさか、リヒトがレイラのことを知っているとは」

 そうワインを燻らせたのはオーロ皇帝だった。

『星鏡のレイラ』のことを魔塔主から詳しく聞く前に、魔塔主は場所を移した。
 魔塔主はすぐにでも転移魔法を使おうとしたが、個室を使わせてくれた食事処の店主を困らせるわけにもいかないので、会計を済ませて馬車でジムニを情報ギルドに送り届けてから転移魔法でオーロ皇帝の城まで転移したのだ。

 誰にも気など遣わない魔塔主はオーロ皇帝の執務室へと転移した。
 執務中だったオーロ皇帝だったが、私と魔塔主の姿にすぐに執務を止め、ネグロにワインとつまみを用意させた。

 昼間からワインを飲むのはどうかと思ったが、「いいワインが手に入ってな」と嬉しそうにしていた。
 我々の姿に執務を中断したのは重要な話があると察したわけではなく、単にワインを飲むための休憩時間の口実にされただけのようだ。
 私たちには紅茶が用意され、魔塔主は早速あの病気になりそうなほど甘いお菓子を食べている。

「レイラが現れたのは今から百年以上も前のことで、異世界から来た者がルシエンテ王国時代の危機を救ってくれたと伝え聞いている」

 そう言って、オーロ皇帝はちらりと魔塔主に視線を向けた。
 百年以上前であっても、きっと魔塔主は今の姿だっただろう。
 しかし、魔塔主がレイラという人に会ったことがあるのかどうかよりも気になることが私にはあった。

「レイラとは神獣ではなく、人だったのですか?」
「其方が見ていたものでは神獣と言われていたのか?」
「はい」
「そうか。レイラもこちらに来る前には本でこちらの世界を一部分だけ切り取ったような話を読んでいたそうだ。そこにもレイラの前に訪れた異世界の者の名前があり、天の子とあったそうだ」

 つまり、この世界には定期的に異世界から誰かが訪れ、訪れる人物は自分の世界でこの世界のことを前もって知っているということのようだ。

「一度に二人も来たという記録はないけれどな」
「これまでの人たちが転移者ならば、転生者の私と憑依者のドレック・ルーヴはそれとは関係のない存在ではないのですか?」
「そうかもしれませんし……両方とも星鏡の可能性も、片方だけが星鏡である可能性もあるでしょう」

 魔塔主の言葉に私は首を傾げた。

「星鏡というのはなんですか?」
「星を映す鏡。つまり、運命を知る存在だ」

 私の疑問にはオーロ皇帝が答えてくれた。
 この世界では、星と運命は同義だ。

「つまり、前の世界でこの世界を覗き見てきた者のことなのですね?」

「はい」と魔塔主が頷いた。
 それならば、魔塔主が言うように、私とドレック・ルーヴが二人とも星鏡という可能性もあるのだろうか……

「さらに、これまでの星鏡は前の世界で知ったこの世界の運命を変えている」

 オーロ皇帝の言葉に私は嫌な予感を覚える。

「リヒト様は、すでに従者君の運命を変えていますよね?」

 魔塔主の微笑みがやけに恐ろしいものに見えた。
 これまで星鏡だった者は神の具現化のように讃えられてきたそうだ。
 オーロ皇帝が面白そうに「公表するか?」と言ってきたが、私は全力で首を横に振った。

 確かに、転生者である自分が星鏡なのかもしれないし、ドレック・ルーヴかもしれない。
 けれど、これまでとは違う形でこちらに来てしまっているわけだから、星鏡ではないのかもしれない。
 ただの偶然……そんなことがあるかどうかはわからないが、あるかもしれない……
 ということにして、公表は断固拒否した。

 オーロ皇帝も魔塔主も完全に面白がっている。
 全く、神が具現化したような特別な存在を迎えている人々の様子ではない。

 揶揄われて悔しい気持ちもあるものの、重々しくされなくて気が楽だったのも確かだ。

「もしかして、魔法学園を作ろうとしているのも前世のそのゲームが原因ですか?」
「はい。本来、カルロとナタリアが出会って恋をするのは魔法学園でしたから、舞台を整えようとしたのです。前世の記憶からすればあるはずの魔法学園がないので、それならば作ってしまおうと……」

 私の説明にオーロ皇帝は顎鬚を撫でた。

「あまり舞台にこだわる必要はないかもしれんぞ」
「どういうことですか?」
「おそらくだが、大事なのは舞台ではなく、登場人物ではないか? すでに、そなたはそのゲームとやらの登場人物と何人も会っているのだろう?」
「そうですね……」

 カルロ、ナタリア、ライオス、ヘンリック、それから、ジムニとゲーツ・グレデン。
 セリフはないが、グレデン卿とドレック・ルーヴだ。

「その後もそなたは登場人物と出会うだろうし、何らかの運命を変えることだろう」

 前世ではカルロのことを幸せにしてあげたくてゲームをしていたので、正直、他の登場人物の背景事情など気にしたことがなかった。

「カルロ以外の子供たちが何らかの問題を抱えていたとしても、私は気づいてあげられないかもしれないです」

「それでもだ」とオーロ皇帝は言った。

「お前はきっと、他の者の運命を変えるだろうし、すでにエトワール王国という国を大きく変えているではないか」
「それに伴って、未来が変わった者たちは沢山いるでしょうね」

「それはそれとして」と魔塔主が言葉を続けた。

「舞台は重要ではないかもしれないですが、魔法学園は作ってください」

 私は魔塔主は魔法学園創設に積極的ではないと思っていたのでそれは意外な言葉だった。

「いいのですか? 魔塔の魔法使いたちの負担が増えますよ?」
「その、魔塔の魔法使いたちの中に楽しみにしている者たちがいるのです。リヒト様がどんな魔法学園を作るのか」
「そうなのですか?」
「あ、もちろん、彼らは嫌になったら教師の仕事とかさっさと辞めちゃうので、そこのところはご了承ください」
「何とも無責任ですね。まぁ、その方が気楽に仕事の依頼ができますが」

 ワインを味わいながら思案していたオーロ皇帝も言った。

「帝国としても魔法学園で帝国傘下の国の王子王女の情報が得られた方がいい。それに、学園内で複数の国の王子王女が親しくなれば、その分御しやすくもなる」

 これまでは各国の王室が個別に魔塔に依頼して魔法使いを家庭教師として雇っていたのだ。
 そうなると、才能のある子供や帝国にとって危険要素のある子供の情報を得るためにはオーロ皇帝が部下に命令を下して調査を行う必要があったが、魔法学園に子供たちを集めるのならば、わざわざ国ごとに調査員を差し向ける必要はない。
 魔法学園に報告書を命じるなり、調査員を少人数、学園に忍び込ませるだけで簡単に情報を得ることができるのだ。
 もちろん、魔法学園への入学を希望しない国はそれの限りではないが、それでも調査員と調査費用の大幅な削減が期待できるだろう。

「オーロ皇帝のために魔法学園を作るのではないのですが?」
「学園の建築はこれからだろう? 出資してやろう」

 私は素直にお礼を言っておいた。

「ついでなので、理事長に名前を使ってもいいですか?」
「それは嫌だ。行事のたびに呼び出されては面倒だからな」

 目立つことが好きそうだからいいかと思ったのだが、それは断られてしまった。
 面倒な役職者選びが一つ減るかと思ったが、そう簡単にはいかぬようで残念だ。




感想 30

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。