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周遊編
108 老けてる? (ジムニ視点)
ドレック・ルーヴとようやく会う気になったリヒト王子について来たら、とんでもない話を聞くことになってしまった。
リヒト王子には前世の記憶があり、前世では52歳で死んじまったというのだ。
52歳っていえば、宿屋のオヤジとか、肉屋のオヤジとかと同じ年齢のはずだ。
あのガタイが良くて、客であっても部屋でうるさくしたり暴れた時には身ぐるみ剥いで宿から追い出すオヤジと、肉捌くためのデカい包丁がやけに似合ってて、人の一人や二人やっちまってそうなオヤジと同じ年齢だ。
え、あれがあの小さな体の中に入っているのか?
俺は困惑し、それ以降のリヒト様の話をちゃんと聞くことができなかった。
いつの間にか食事処から出て、情報ギルドに戻ってきた俺をゲーツがすごく怪訝そうな眼差しで見てくる。
「なんかあるだろうとは思ってお前をリヒト様につけたけど、お前がそんな状態になるって一体何があったんだ?」
ゲーツの言葉に俺は思わず全てを話しそうになったが、リヒト様に決して話すなと言われていたことを思い出して直前で止まった。
「い、言えない……」
「すげーな。秘密を黙っているのも、嘘を吐くのも表情ひとつ変えずにできるはずのやつが、そんな顔するって……俺もリヒト様が秘密にしたいことは聞かないって決めてたけど、めちゃくちゃ気になるじゃん」
ゲーツはリヒト様と兄であるグレデン卿の前では貴族社会にいた頃の話し方に戻るが、俺や下町の奴らの前だと俺たちと同じ話し方になる。
「俺だって話して、このモヤモヤを共有してーよ!」
「何? そんななんか腑に落ちない秘密なのか?」
「いや、腑には落ちるんだよ。あ~だからかぁ~って納得はできるけど、嫌なんだよ! なんかすごく嫌なんだよ!!」
俺はまるでガキの我儘みたいに、純粋な気持ちを繰り返した。
あの見た目の中にアレが入っているのかもしれないと思うと、脳がものすごく拒否するのだ。
「気になるけど、聞いたら聞いたでそんなんなるかと思ったら聞きたくないような気もしてきた」
そこでゲーツは話題を変えようと思ったようで、「ああ、そういえば」と言った。
「これからリヒト様に関わってきそうなユスティーツ公爵家の情報が集まってきたから、また書類をまとめておいてくれ」
「ああ。わかった」
ゲーツが渡してきた情報ギルドのメンバーが書き殴ったメモの束を俺は受け取り、ざっと目を通した。
俺は王都にいる貴族の顔は大体把握しているから頭の中でユスティーツ公爵の姿を探す。
王家を守る誇り高い騎士の家系で、剣術に打ち込んでいる間に婚期が遅れ、年齢の割には子供がまだ小さいのだと公爵家に勤めるメイドが噂していた。
その公爵は婚期が遅れたことがさして問題になることもないほどの美丈夫だった。
メモにはそんな噂を含めた様々な情報が書かれ、その中にはユスティーツ公爵の年齢もあった。
「52……」
まだ40半ばのような見た目をしていたが、そうか、あの美丈夫は52歳なのかと、俺の中のモヤモヤが何かとてつもない安堵感に吸収されていくのを感じた。
あの美丈夫のような52歳ならば、リヒト様の中にいてもそれほどの拒否感はない。
数日後、いつものようにカルロ様やグレデン卿を連れてきたリヒト様を捕まえて、俺が真剣な顔で「ご質問があります」と伝えるとリヒト様も神妙な表情で頷いて二人で話す機会をくれた。
「この前は驚かせてしまいましたね」
リヒト様は眉尻を下げて微笑んだ。
ほら、この表情、あの筋肉隆々なオヤジたちとは決して重ならない。
「それで、何が知りたいのですか? 私が魔塔主に説明した前世の話はほとんど聞いていませんでしたよね? 話せることは全てお話しするつもりです」
寛容なリヒト様の言葉に俺はお礼を言った。
「リヒト様はどのような52歳だったのでしょうか?」
俺の言葉にリヒト様がその瞳を瞬いた。
「そんなことが知りたいのですか?」
「最重要事項です!」
俺の圧に怯んだようで、リヒト様は困惑しながらも教えてくれた。
「そうですね……普通の冴えないおじさんでしたよ?」
冴えないリヒト様とか全く想像できないけど、しかし、リヒト様の自己評価はいつも低いから、あまりこの話は信用できないだろう。
「あの、見た目のことを聞いてもいいですか? 髪の色とか、肌の色とか、体型とか、そういう部分です」
「見た目ですか?」
「ユスティーツ公爵みたいな美丈夫でしたか?」
そう聞くとリヒト様は笑った。
「あんな美丈夫は元の世界ではなかなか見ませんでした。モデルとか俳優みたいですね」
モデルや俳優というのがどのようなものかは知らないが、あれじゃないとなるとやはりオヤジたちのような……
「見た目で言うなら、ジムニが一番近いかもしれません」
「……は?」
「髪の色は黒で、肌の色は今くらい焼けているジムニの肌よりもうちょっと薄めた感じで、体型は……細さとか身長はジムニくらいですが、残念ながら筋肉はもっとなかったですね」
リヒト様は本当に残念そうに肩を落とした。
「……とにかく、細身だったということですね?」
「まぁ、そうですね」とリヒト様は頷き、俺はほっとした。
あのオヤジたちとはどうやら違うらしいということに、心からほっとした。
ほっとはしたが、なんだろう、今度は違うモヤモヤが心の中に生まれている。
「なぁ、俺ってそんなに老けて見えるか?」
リヒト様たちが帰った後、俺は思わずゲーツに聞いた。
リヒト王子には前世の記憶があり、前世では52歳で死んじまったというのだ。
52歳っていえば、宿屋のオヤジとか、肉屋のオヤジとかと同じ年齢のはずだ。
あのガタイが良くて、客であっても部屋でうるさくしたり暴れた時には身ぐるみ剥いで宿から追い出すオヤジと、肉捌くためのデカい包丁がやけに似合ってて、人の一人や二人やっちまってそうなオヤジと同じ年齢だ。
え、あれがあの小さな体の中に入っているのか?
俺は困惑し、それ以降のリヒト様の話をちゃんと聞くことができなかった。
いつの間にか食事処から出て、情報ギルドに戻ってきた俺をゲーツがすごく怪訝そうな眼差しで見てくる。
「なんかあるだろうとは思ってお前をリヒト様につけたけど、お前がそんな状態になるって一体何があったんだ?」
ゲーツの言葉に俺は思わず全てを話しそうになったが、リヒト様に決して話すなと言われていたことを思い出して直前で止まった。
「い、言えない……」
「すげーな。秘密を黙っているのも、嘘を吐くのも表情ひとつ変えずにできるはずのやつが、そんな顔するって……俺もリヒト様が秘密にしたいことは聞かないって決めてたけど、めちゃくちゃ気になるじゃん」
ゲーツはリヒト様と兄であるグレデン卿の前では貴族社会にいた頃の話し方に戻るが、俺や下町の奴らの前だと俺たちと同じ話し方になる。
「俺だって話して、このモヤモヤを共有してーよ!」
「何? そんななんか腑に落ちない秘密なのか?」
「いや、腑には落ちるんだよ。あ~だからかぁ~って納得はできるけど、嫌なんだよ! なんかすごく嫌なんだよ!!」
俺はまるでガキの我儘みたいに、純粋な気持ちを繰り返した。
あの見た目の中にアレが入っているのかもしれないと思うと、脳がものすごく拒否するのだ。
「気になるけど、聞いたら聞いたでそんなんなるかと思ったら聞きたくないような気もしてきた」
そこでゲーツは話題を変えようと思ったようで、「ああ、そういえば」と言った。
「これからリヒト様に関わってきそうなユスティーツ公爵家の情報が集まってきたから、また書類をまとめておいてくれ」
「ああ。わかった」
ゲーツが渡してきた情報ギルドのメンバーが書き殴ったメモの束を俺は受け取り、ざっと目を通した。
俺は王都にいる貴族の顔は大体把握しているから頭の中でユスティーツ公爵の姿を探す。
王家を守る誇り高い騎士の家系で、剣術に打ち込んでいる間に婚期が遅れ、年齢の割には子供がまだ小さいのだと公爵家に勤めるメイドが噂していた。
その公爵は婚期が遅れたことがさして問題になることもないほどの美丈夫だった。
メモにはそんな噂を含めた様々な情報が書かれ、その中にはユスティーツ公爵の年齢もあった。
「52……」
まだ40半ばのような見た目をしていたが、そうか、あの美丈夫は52歳なのかと、俺の中のモヤモヤが何かとてつもない安堵感に吸収されていくのを感じた。
あの美丈夫のような52歳ならば、リヒト様の中にいてもそれほどの拒否感はない。
数日後、いつものようにカルロ様やグレデン卿を連れてきたリヒト様を捕まえて、俺が真剣な顔で「ご質問があります」と伝えるとリヒト様も神妙な表情で頷いて二人で話す機会をくれた。
「この前は驚かせてしまいましたね」
リヒト様は眉尻を下げて微笑んだ。
ほら、この表情、あの筋肉隆々なオヤジたちとは決して重ならない。
「それで、何が知りたいのですか? 私が魔塔主に説明した前世の話はほとんど聞いていませんでしたよね? 話せることは全てお話しするつもりです」
寛容なリヒト様の言葉に俺はお礼を言った。
「リヒト様はどのような52歳だったのでしょうか?」
俺の言葉にリヒト様がその瞳を瞬いた。
「そんなことが知りたいのですか?」
「最重要事項です!」
俺の圧に怯んだようで、リヒト様は困惑しながらも教えてくれた。
「そうですね……普通の冴えないおじさんでしたよ?」
冴えないリヒト様とか全く想像できないけど、しかし、リヒト様の自己評価はいつも低いから、あまりこの話は信用できないだろう。
「あの、見た目のことを聞いてもいいですか? 髪の色とか、肌の色とか、体型とか、そういう部分です」
「見た目ですか?」
「ユスティーツ公爵みたいな美丈夫でしたか?」
そう聞くとリヒト様は笑った。
「あんな美丈夫は元の世界ではなかなか見ませんでした。モデルとか俳優みたいですね」
モデルや俳優というのがどのようなものかは知らないが、あれじゃないとなるとやはりオヤジたちのような……
「見た目で言うなら、ジムニが一番近いかもしれません」
「……は?」
「髪の色は黒で、肌の色は今くらい焼けているジムニの肌よりもうちょっと薄めた感じで、体型は……細さとか身長はジムニくらいですが、残念ながら筋肉はもっとなかったですね」
リヒト様は本当に残念そうに肩を落とした。
「……とにかく、細身だったということですね?」
「まぁ、そうですね」とリヒト様は頷き、俺はほっとした。
あのオヤジたちとはどうやら違うらしいということに、心からほっとした。
ほっとはしたが、なんだろう、今度は違うモヤモヤが心の中に生まれている。
「なぁ、俺ってそんなに老けて見えるか?」
リヒト様たちが帰った後、俺は思わずゲーツに聞いた。
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