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周遊編
110 オルニス国再び 01
魔塔主とオーロ皇帝に前世の話をしてからというもの、私の中身が50代だと分かった二人はよく私を揶揄うようになった。
そして、私が否定しても、彼らは私のことを星鏡だと思っているようだった。
二人に前世のことを話すんじゃなかったと、少しやさぐれた私はカルロを連れて海や古代都市、塩湖を回った。
私がグレデン卿を連れて転移し、カルロが私の影を通れば三人で転移できるから魔塔主の同行は不要だと伝えたにも関わらず、魔塔主はしっかりと勝手についてきた。
カルロたちがいるから前世のことや星鏡のことを言われることはなかったが、目が合うたびに少しニヤリとされているような気がして、私はムッとしてしまった。
そんな私を気遣ってカルロが「大丈夫ですか? 魔塔主を消しましょうか?」なんて言ってくれるものだから非常に可愛い。
カルロが怪我でもしたら大変なので断ったが。
実力的には私とカルロが力を合わせて戦ったところで魔塔主に勝つことなどできないだろうが、心情的にはカルロがこの世界で一番最強なのだ。
きっとカルロならばその可愛さでこの世界を全て浄化することだって可能だろう。
そんな風にちょっとやさぐれつつ、カルロの可愛さに癒されながら旅を続けている間に再び誕生日が来て、私は9歳になった。
8歳の誕生日は事件があったというか、事件を引き起こしたというか、騒動の中でのパーティーだったが、9歳の誕生日パーティーは実に平和に終わった。
今年もヘンリックの友達たちの輪の中に入れてもらったが、ヘンリックが私の護衛騎士になる話が具体的になってきたようで、いつ頃からヘンリックが私の従騎士になるのかとかそんな話で少年たちは盛り上がっていた。
私はただ微笑んで、従騎士の決定やその時期は第一補佐官に任せていると伝えた。
事実その通りで、私はヘンリックが従騎士になることについて不満もなければ希望もなかった。
そして、9歳になった私は再びオルニスへと来ていた。
小麦や砂糖の交易のためだ。
私がオルニス国でうっかり小麦や砂糖などを輸入してはどうかと漏らしてから2年、エトワール王国にはたびたびオルニスから嘆願書のようなものが届いていた。
我が国からオルニスに運ぶのは大変だし、我が国は輸出できるほど小麦は作っていない。
砂糖なんて砂糖きびができる環境じゃないから、鎖国状態の間に少し作っていたてんさい糖しかなく、それは小麦よりもさらに少ないから輸出は無理だと何度も断ったのだが、オルニス国としては我が国とどうしても交易を行いたいというのだ。
魔塔主がエトワール王国との交易であれば多少は協力するような発言をしたために、オルニスは交易相手を制限されてしまったのだ。
そして、現在は魔塔主が我が国にいるため、あわよくば、またオルニス国に帰ってきてくれるのでは? と期待しているのだろう。
何度も届く嘆願書のような交易を申し込む書信に父王はとうとう、「リヒト、魔塔主に仲介をお願いできないだろうか?」と言った。
ということで、私は再び、オルニス国を訪れていた。
最初と同様、オルニス国の人々は非常に喜んでくれた。
「おかえりなさいませ! ローゼンクロイツ様!!」
「おかえりなさいませ! リヒト様!!」
魔塔主の名前はわかるが、今回は私の名前まで叫び、感動に咽び泣いていた。
この国は首長である魔塔主が数100年留守にしていても国政が乱れることもなく正常に営まれてきたはずだが、それでも首長がいないということは国民たちに不安を与えていたのだろうか?
だから、こんなにも情緒が乱れているのだろうか?
「魔塔主、彼らにはメンタルケアが必要なのではないですか?」
「鎮静効果のあるポーションを開発しようというご提案ですか?」
その瞬間、魔塔主がエルフたちに容赦無く鎮静剤の注射を打ち込む姿が想像でき、私は瞬時に首を横に振った。
「今宵も歓迎の宴を開きますから、楽しみにしてください」
私たちを客間に案内してくれた首長代理が満面の笑顔でそんなことを言った。
「私と私の従者、そして護衛騎士にはお酒を出さないでくださいね」
前回の失敗を踏まえて私がそうお願いすれば、首長代理は何度も頷いた。
「心得ております! 今宵は果実水をご用意しましたからご安心ください!」
そう。確かに、首長代理はそう言っていたのに、私が宴の席で交易について首長代理や他の者と話している間に、グレデン卿が潰れ、カルロが果実水の瓶を抱えてご機嫌になっていた。
「一体、これはどういうことですか?」
じとりと首長代理や給仕の者を見やると、彼らはすぐに調査に乗り出してくれた。
そして、原因は今宵も張り切って厨房に入っていた女性たちだと判明した。
彼女たちは男性たちが作った果実水をこっそりと味見して、味気ないと結論づけて神の酒を加えたそうだ。
何をしてくれているのだと私は思わず厨房にいたという女性たちを睨みつけてしまったが、どういうわけか彼女たちは顔を青くするどころか赤らめた。
彼女たちは10代後半に見え、私はすぐに睨むのをやめた。
いくら失敗があったからと言って、中身52歳のおじさんが10代の若者を睨みつけるというのはなんとも大人気ないと思ったからだ。
私は前回同様、魔塔主にカルロとグレデン卿を部屋に運んでもらい、ポーションを飲ませて二人を寝かせた。
翌日、昨夜中断してしまった交易についての話をするために首長代理の元へと向かっていると、「あの、リヒト様」と控えめな声がかけられた。
声の方へ視線を向けると、果実水にお酒を入れてしまったというエルフの女性たちが立っていた。
エルフの見た目の年齢は当てにならないので、実際の年齢がいくつなのかはわからないけれど、エルフたちの中ではおそらく若い方だろう。
「なんでしょうか?」
「リヒト様には決まったお相手がいるのでしょうか?」
唐突な質問に私は驚いた。
「いえ、おりませんが……」
何せこの体はまだ9歳だ。
エルフのようにわかりにくい見た目ではないし、私が人間であることなど知れ渡っているはずなのに、なぜそのような質問をしたのだろうか?
いや、王族ならば、この年齢でも婚約者がいてもおかしくはないのか?
オーロ皇帝も繰り返しナタリアとの婚約の話を持ち出すし。
「では、私はいかがでしょうか?」
「いかがでしょうか?」という言葉の意味がわからなくて、私は首を傾げた。
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