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魔法学園<二年生>編
262 適任者 03
「ごめんなさいね。ディナーのお時間にお邪魔しちゃって」
魔法学園のみんなと一緒にディナー会場となる小広間へ向かっている途中に第五補佐官が知らせてくれたのがアニーア王国の女王の来訪だった。
一国の女王が前もっての連絡もなしに直接乗り込んできたとなると普通はもっと慌てるものだが、第五補佐官は実に落ち着いた様子だった。
とてもいいと思う。
いついかなる時も落ち着いた対応ができるというのは大切なことだ。
アニーア王国の女王の突然の来訪の理由はわかっていたため、私はディナーにお誘いした。
「ハンスギア王国の宰相が再びリヒト様との中継ぎをして欲しいなんてわがままを言うものですから」
「女王はハンスギア王国の味方なのでしょうか? リヒト様のご迷惑も考えずにこのような時間に連絡もなし会いに来るなど」
アニーア王国の女王の言葉に即座に反応したのはナタリアだ。
私の隣に座るカルロまでブンブンと首を盾に振っている。
ナタリアとカルロはかつて私が思っていたようなお互いを思い合う関係ではなかったようだが、やはりよく気が合っているように思う。
「ひとつの国を守っていく女王という立場はしたたかに、利益を得る機会を逃さぬように動かなければいけないものなのです。ナタリア様」
オーロ皇帝の孫娘であるナタリアを尊重しているものの、アニーア王国の女王の眼差しはナタリアを値踏みしているようだった。
「ナタリア様、私の心配をしてくださりありがとうございます」
私はナタリアに微笑んだ。
それから、夕食の長テーブルに着くみんなに視線を向ける。
「皆さんも付き合わせてしまってすみません。皆さんもハンスギア王国の件でご協力いただいたので、アニーア王国女王との面会は皆さんと一緒にと思ったのですが、これ以上ハンスギア王国との件に巻き込まれるのは迷惑ということでしたら、晩餐の後にアニーア王国女王と話し合おうと思います」
アニーア王国の女王がオーロ皇帝のお気に入りと噂のある私に好意的であることは知っているが、それでも女王のしたたかさを警戒して、他国の王子王女を巻き込むことにしたのだ。
みんなには申し訳ないが付き合ってもらいたい。
「リヒト様、このままお話を続けてください」
「そうです。我々はリヒト様のお役に立ちたくて来たのですから」
「リヒト様に見放された後の宰相や補佐官長のことも気になりますし」
見放したのは事実だが、そうはっきり言われると微妙な気持ちになる。
微妙な気持ちにはなったものの、私はそれを笑顔の下に隠して、アニーア王国の女王に向き直った。
「それで、女王の毛皮のショールが気になるのですが?」
「さすがリヒト様、気づいてくださったのですね。こちらは以前にハンスギア王国の王妃からいただいたヴィソンの毛皮ですの」
アニーア王国とハンスギア王国は隣国同士なので交流があり、式典か何かで会うこともあっただろうし、何かを贈り合うこともあったのだろう。
しかし、それをわざわざ身につけて来たというのは明らかに意図したものだろう。
私がヴィソンや他の魔獣のためにハンスギア王国の王妃や国王を氷の山に置き去りにしたことはすでに知っているはずだ。
「女王は今後も同様の狩りが行われると考えて私に警告をしに来たのでしょうか?」
「リヒト様は理解が早くて本当に助かりますわ」
女王は私ににこりと微笑み、その微笑みだけで、私のこれ以上ハンスギア王国の内政には関わらないという考えを変えさせようとしている。
「今後もリヒト様はヴィソンの保護を行うつもりです。そのヴィソンを狩る者がいるならば、我々が鉄槌を下します!」
カルロがそう力強く宣言した。
他の生徒たちも同意を示しているが、ハンスギア王国の内政には全く関係のない我々が今後もそのような活動を行えるだろうか?
「それはいつまでですか? 新しい王族が立ってからもその活動を続けることはできるでしょうか?」
女王が鋭く切り込んでくる。
「おそらく、リヒト様は魔獣の保護活動は行うけれど、これ以上の内政干渉は行わないという方針なのでしょう。それは面倒な問題に関わりたくない場合には正しい判断です。リヒト様はまだ子供ですし、エトワール王国は決して大きな国でもなければ、帝国の中で古参というわけでもありませんから、他国に干渉するよりは自国の経済や戦力を安定させることに力を注ぐべきでしょう。しかし、魔獣の保護活動を行いたいのであれば、内政干渉しないというのは得策ではありませんわ。それはご理解いただけますね?」
女王の言葉は正しい。
私は自分の考えの甘さを認め、頷いた。
「確かにそうですね。これまで魔獣保護を行なってきたのは魔法学園の生徒の皆さんの国でしたから、その国の国王や上級貴族の方達も協力的でした。しかし、ハンスギア王国をこれから治めていく者が私に協力的だとは限りません」
むしろ、その逆である可能性が高いだろう。
私は彼らの王と王妃を氷の山に置いてきたのだから。
「むしろ、美しいヴィソンの毛皮を贈ることで、各国と良好な関係を築こうとするかもしれませんね」
私は自分の浅はかさに頭痛を覚えた。
魔法学園のみんなと一緒にディナー会場となる小広間へ向かっている途中に第五補佐官が知らせてくれたのがアニーア王国の女王の来訪だった。
一国の女王が前もっての連絡もなしに直接乗り込んできたとなると普通はもっと慌てるものだが、第五補佐官は実に落ち着いた様子だった。
とてもいいと思う。
いついかなる時も落ち着いた対応ができるというのは大切なことだ。
アニーア王国の女王の突然の来訪の理由はわかっていたため、私はディナーにお誘いした。
「ハンスギア王国の宰相が再びリヒト様との中継ぎをして欲しいなんてわがままを言うものですから」
「女王はハンスギア王国の味方なのでしょうか? リヒト様のご迷惑も考えずにこのような時間に連絡もなし会いに来るなど」
アニーア王国の女王の言葉に即座に反応したのはナタリアだ。
私の隣に座るカルロまでブンブンと首を盾に振っている。
ナタリアとカルロはかつて私が思っていたようなお互いを思い合う関係ではなかったようだが、やはりよく気が合っているように思う。
「ひとつの国を守っていく女王という立場はしたたかに、利益を得る機会を逃さぬように動かなければいけないものなのです。ナタリア様」
オーロ皇帝の孫娘であるナタリアを尊重しているものの、アニーア王国の女王の眼差しはナタリアを値踏みしているようだった。
「ナタリア様、私の心配をしてくださりありがとうございます」
私はナタリアに微笑んだ。
それから、夕食の長テーブルに着くみんなに視線を向ける。
「皆さんも付き合わせてしまってすみません。皆さんもハンスギア王国の件でご協力いただいたので、アニーア王国女王との面会は皆さんと一緒にと思ったのですが、これ以上ハンスギア王国との件に巻き込まれるのは迷惑ということでしたら、晩餐の後にアニーア王国女王と話し合おうと思います」
アニーア王国の女王がオーロ皇帝のお気に入りと噂のある私に好意的であることは知っているが、それでも女王のしたたかさを警戒して、他国の王子王女を巻き込むことにしたのだ。
みんなには申し訳ないが付き合ってもらいたい。
「リヒト様、このままお話を続けてください」
「そうです。我々はリヒト様のお役に立ちたくて来たのですから」
「リヒト様に見放された後の宰相や補佐官長のことも気になりますし」
見放したのは事実だが、そうはっきり言われると微妙な気持ちになる。
微妙な気持ちにはなったものの、私はそれを笑顔の下に隠して、アニーア王国の女王に向き直った。
「それで、女王の毛皮のショールが気になるのですが?」
「さすがリヒト様、気づいてくださったのですね。こちらは以前にハンスギア王国の王妃からいただいたヴィソンの毛皮ですの」
アニーア王国とハンスギア王国は隣国同士なので交流があり、式典か何かで会うこともあっただろうし、何かを贈り合うこともあったのだろう。
しかし、それをわざわざ身につけて来たというのは明らかに意図したものだろう。
私がヴィソンや他の魔獣のためにハンスギア王国の王妃や国王を氷の山に置き去りにしたことはすでに知っているはずだ。
「女王は今後も同様の狩りが行われると考えて私に警告をしに来たのでしょうか?」
「リヒト様は理解が早くて本当に助かりますわ」
女王は私ににこりと微笑み、その微笑みだけで、私のこれ以上ハンスギア王国の内政には関わらないという考えを変えさせようとしている。
「今後もリヒト様はヴィソンの保護を行うつもりです。そのヴィソンを狩る者がいるならば、我々が鉄槌を下します!」
カルロがそう力強く宣言した。
他の生徒たちも同意を示しているが、ハンスギア王国の内政には全く関係のない我々が今後もそのような活動を行えるだろうか?
「それはいつまでですか? 新しい王族が立ってからもその活動を続けることはできるでしょうか?」
女王が鋭く切り込んでくる。
「おそらく、リヒト様は魔獣の保護活動は行うけれど、これ以上の内政干渉は行わないという方針なのでしょう。それは面倒な問題に関わりたくない場合には正しい判断です。リヒト様はまだ子供ですし、エトワール王国は決して大きな国でもなければ、帝国の中で古参というわけでもありませんから、他国に干渉するよりは自国の経済や戦力を安定させることに力を注ぐべきでしょう。しかし、魔獣の保護活動を行いたいのであれば、内政干渉しないというのは得策ではありませんわ。それはご理解いただけますね?」
女王の言葉は正しい。
私は自分の考えの甘さを認め、頷いた。
「確かにそうですね。これまで魔獣保護を行なってきたのは魔法学園の生徒の皆さんの国でしたから、その国の国王や上級貴族の方達も協力的でした。しかし、ハンスギア王国をこれから治めていく者が私に協力的だとは限りません」
むしろ、その逆である可能性が高いだろう。
私は彼らの王と王妃を氷の山に置いてきたのだから。
「むしろ、美しいヴィソンの毛皮を贈ることで、各国と良好な関係を築こうとするかもしれませんね」
私は自分の浅はかさに頭痛を覚えた。
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