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番外編2
【番外編】かわいいひと(ヘンリック視点)
リヒト様の護衛として寝ずの番を任せていただけるまでになって早2年、私は今夜もリヒト様の従者 兼 婚約者のカルロと戦っている。
すでにベッドでお休みになられているリヒト様が起きないように、カルロはそっとゆっくりとリヒト様のベッドに忍び寄る。
「いい加減にしろ。カルロ」
私はそのカルロの首筋に鞘がついたままの剣を当てる。
「どうして、ヘンリックは起きてるんだ?」
カルロが不満そうな表情を見せる。
「カルロは今度は一体どんな魔法を開発したんだ?」
カルロはリヒト様を起こさないように魔法で気配を消し、音も消しているため、私もカルロもこうして会話をすることができている。
魔法を使っているのだから、普通の音量でも問題はないのかもしれないが、そこは念の為に小声だ。
カルロも小声だし、おそらく小声で正解だろう。
「いつも忙しいヘンリックがぐっすり眠れるように開発した魔法だけど?」
「リヒト様の従者なのに、護衛騎士を眠らせようとするのはやめろ」
「リヒト様の護衛は僕でもできるから! どうしてヘンリックは寝てないのさ!?」
「それは私がリヒト様の護衛騎士だからだ」
もちろん、リヒト様の護衛騎士だからそのような術を身につけることができたとかそういう話ではない。
私がリヒト様の護衛騎士で、カルロが夜這い常習犯ゆえに、魔塔主が私に特別な魔法をかけてくれているのだ。
魔塔主曰く、どのような状態異常も無効にする魔法らしい。
本来ならば魔塔主という存在は会いたくても会うことのできない存在だというのに、魔塔主はリヒト様の元に嬉々として通い、リヒト様のためならば護衛騎士である私にまで高度な魔法を惜しげもなく使ってくださるのだ。
これも全てリヒト様のお人柄によるところである。
「どうしてヘンリックはいつも僕を邪魔するのさ!? 僕は正式なリヒト様の婚約者だぞ!」
「婚約者だとしても、リヒト様のお気持ちを無視した行動は控えるべきじゃないのか?」
「だって、リヒト様が全然触ってくださらないから……昔はなでなでもぎゅ~っもたくさんしてくださったのに!」
カルロはそう拗ねているが、私からしたら幼い頃からリヒト様のお側にお仕えできていただけで羨ましいことなのだ。
「それはカルロが大人になったから、人前でそのようなことをするわけにはいかないからだろう? リヒト様は王子だし、元々内面が大人な方だったが、あと2年で成人なのだからそのようなことを控えるのは当然のことだ」
それに、リヒト様から触れない分、カルロからグイグイいっているのだからいいと思う。
というか、カルロがグイグイいきすぎてリヒト様が戸惑っているのだ。
もしかすると、カルロが引いたら、逆にリヒト様からの歩み寄りがあるかもしれないが、そのような助言をするつもりはない。
私はどう足掻いてもカルロの立場にはなれない。
リヒト様は昔から、そして今だって、カルロのことが一番大切なのだ。
それは二人を見ていれば誰にだってわかることで、みんな嫉妬や悔しい思いを飲み込んでいるのだ。
「でも、このリヒト様のお部屋でくらい、もっとベタベタしたっていいじゃん」
頬の膨らんだカルロの背を押して、私は今夜もカルロを従者の部屋に押し込める。
カルロは欲張りだ。
リヒト様の部屋の中の従者の部屋、この部屋にいることを許されているだけでも十分じゃないか?
さらに、今はカルロは正式な婚約者として認められているのだ。
このまま順調にいけば、カルロはリヒト様と結婚だってできる。
私だって側室になりたいと立候補はしているし、側室くらいならばリヒト様も機会をくれるかもしれないとチャンスは狙っているけれど、正室にはなれないのはわかりきっている。
せめて、側室になれるチャンスを自ら潰さないように、カルロに嫉妬心をぶつけることなく、できるだけ理性的に対処するのが今の私にできることなのだ。
「……」
そうは思っているけれど、私の行動は本当に理性的なものなのだろうか?
全く、嫉妬が関係していないと言えるだろうか?
カルロの夜這いを止めているのは、リヒト様の健やかな睡眠のためだと思っているけれど、リヒト様も本当は人の目を気にせずにカルロに触れたいと思っているかもしれない……
もしそうなら、私の行動はリヒト様にとっては余計なお世話だろう。
従者の部屋の扉から離れて、リヒト様のベッドの近くに置いてある椅子へと戻る。
すると、リヒト様のベッドの天蓋のカーテンが揺れた。
「ヘンリック」
そう穏やかな声が聞こえ、私はすぐに主人の元へと近づいた。
「リヒト様? どうされましたか?」
小声でお声がけすれば、薄いカーテンが揺れて、少し開いた。
そこから麗しいお顔が覗く。
「いつもカルロがごめんね」
リヒト様は眉尻を下げてそのように言われた。
「申し訳ございません。起こしてしまいましたか?」
カルロはいつも気配と音を消していたけれど、リヒト様程の人になるとそれでも気づくのだろうか?
「カルロは魔力が多いですし、この部屋を覆うほどの魔法を使うのですぐにわかるのです」
やはり、リヒト様のことを簡単に欺くことはできないようだ。
「もしや、これまでも起きていたのですか?」
リヒト様が困ったように微笑まれた。
「私が不甲斐ないばかりにヘンリックには苦労をかけてごめんね」
「リヒト様が謝ることなど何もございません!」
「私がカルロをもっと甘やかしてあげられれば、カルロも夜更かしなんてしないと思うんだけど……」
夜更かし……リヒト様はカルロの夜這いをただの夜更かしだと思っているのだろうか?
「あの……リヒト様は、カルロの夜更かしに付き合って、もっとカルロを甘やかしてあげたいとお考えなのでしょうか?」
もしも、リヒト様がもっとカルロと触れ合う時間が欲しいと思っているのに、私が邪魔をしているのだとしたら……
「そうですね……そうしてあげるのがいいのかもしれませんね」
やはり、私がしていたことは余計なことだったのかもしれない。
そう落ち込みそうになったが、リヒト様は「でも」とお言葉を続けた。
「まだちょっと恥ずかしいので、あと5年くらいは待ってほしいかな」
頬がほのかに染まって恥ずかしそうにそうおっしゃられたリヒト様のお姿に、私の心臓はドクンッと大きく跳ねて、鼓動が早まった。
「そ…そうですか……」
カルロが時々、リヒト様がとても可愛らしいのだとニマニマしていることがあったが、私にはそれがよくわからなかった。
私にとってのリヒト様はいつだって凛っとして清廉で品性が漂う美しいお姿ではあっても、可愛らしいという印象はなかった。
「それでは、これからも私がリヒト様の健やかなる睡眠のお時間をお守りします」
「ええ。よろしくお願いします」
頬を染められたリヒト様の微笑みが、私の胸を焼くようだった。
「安心して、おやすみください」
「おやすみなさい。ヘンリック」
天蓋の薄いカーテンがゆっくりと閉じていく。
私の胸に残された熱はしばらくは冷めないだろう。
それどころか、閉じられた薄いカーテンの先に愛らしい主の寝顔があるのかと思うと、胸の熱は熱くなる一方だった。
まさか、これ以上好きになることは無理だと思うほどに好きな人を、さらに好きになることがあるなんて……
そんな人に出会えたことを幸運に思う。
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