【本編完結】蜂の王 〜 触れられなくてもそばにいたい 〜

はぴねこ

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01 2806木蓮

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 数百年前にはさまざまな国があり、人々も種族ごとに分かれていたらしい。

 けれど、人の罪の代償なのか神の気まぐれなのか、それまで人類が直面してこなかったような病が流行り、潔癖なまでに他の生物との接触を避け、虫や動物、植物など他の生物たちを殺していったことと気候変動が重なり、農作物は実らなくなり、巨大な人口を支えることはできなくなり、人類は権力を持っている者、資産を持っている者などが優遇されて生かされるようになったが、それでも人口減少を止めることはできずに現在は数百年前には都市と呼ばれたような面積に世界の全人口が住んでいる。

 あまりにも減少してしまった人類は個々人が独自に生存を図ることは難しくなり、かつて世界中にいたらしい蜂という生物を真似て、人類全体で一つの生命として活動するスーパーオーガニズム(超個体)として人類は生き延びようとしている。
 そのため、今や国境はなく、国籍はなく、人々は混ざり合い、人種という壁もない。

 そんな時代に、僕らは生まれ落ちた。

 僕たちの両親はオス蜂、メス蜂と呼ばれる正常な生殖器を持っている人々で、住む場所は通称『蜂の都市』と呼ばれる世界国家の中心地だった。

 中心地より外れた郊外に住む人々は働き蜂と呼ばれる人たちで、彼らには正常な生殖器はなく、人類存続には役に立たないとまでは言わなくても、人口を増やすことはできない存在として扱われている。

 古い歴史、人類が今よりもずっと多かった頃は国によって人々が分断されたのか、人の種類によって人々が分断されて国ができていたのかよくわからないが、その頃にはオス蜂、メス蜂、働き蜂なんていう分類の仕方はなかったようだ。

 昔は人の種類によって区別や差別があったようだが、今は正常な生殖器を持っているオス蜂、メス蜂なのか、それとも、生殖器を持たない、もしくは正常ではない働き蜂という区別がある。

 それから、優秀な遺伝子を持ち、優秀な精子を生み出す可能性が高いS蜂という特別な区分がある。

 S蜂たちは『蜂の塔』というところに住んでいて、特別な待遇を受けるという。
 その蜂の塔は蜂の都市の中心に立ち、どこからでも見ることができた。

 蜂の塔は蜂の都市の象徴であり、そこに住むというS蜂たちは人類の希望だった。

 少なくとも、学校ではそう教わり、メディアもそのように演出し、子供の頃の僕たちはただその話を純粋に信じて、蜂の塔の上部、真下から見上げた際には六角形に見える『蜂の巣』と呼ばれる場所に住むS蜂に憧れの眼差しを送っていた。

 でも、憧れの場所は同時に遠い場所で、平凡な自分たちには全く関係のない世界だとも感じていた。
 その憧れは虚像であり、物語の主人公みたいに大冒険に出てみたいと思うのと同じ程度の感覚だった。

 蜂の塔の中の真実を知らないからこそ抱くことのできる上っ面の憧れだ。

「木蓮!」

 マンションの窓から夜でも青白い光で照らされる蜂の塔を見つめていると、キールが勢いよく抱きついてきた。
 マンションの部屋が隣同士の僕たちの家族は家族ぐるみで仲が良く、誰かが誕生日の時にはどちらかの家に集まってお祝いをする。

 この日は2歳年下のキールの誕生日で、キールは9歳になった。

 食事が終わった後にはキールが僕の部屋に泊まったり、僕がキールの部屋に泊まったりするのが僕たちの誕生日の恒例になっていた。

 誕生日以外でもキールはよく僕の部屋に泊まりに来ていたし、特別なことがなくてもよく一緒にご飯を食べていたから、僕たちはお隣さんというよりはまるで兄弟みたいだった。

「木蓮は、蜂の塔になんて行かないでね?」

 昨年、10歳年上の僕の兄がS蜂に選ばれて蜂の塔に上がってしまった。
 その時に、一度蜂の塔に上がった者には家族でも二度と会うことは叶わないということを知った。
 学校の授業ではそんなこと教えてくれなかったのに。

 兄が蜂の塔に上がってから、僕はよく蜂の塔を見つめるようになっていた。
 僕だけじゃなく、両親も、兄を思いながら蜂の塔をよく見つめている。

「行かないよ」

 そうキールに苦笑して答えた。
 僕は兄さんっ子だったから、兄さんが蜂の塔に上がってしまって会えないのはとても寂しいけれど、蜂の塔はそんな簡単に上がれるところではなかった。

 S蜂にならなくても、蜂の塔を管理している管理局に入ればいいのだが、管理局員になる試験はとても難しいと両親から聞いている。
 学力だけでなく、家柄なども見られるそうだ。

「本当?」

 不安げな目で僕を見上げてくるキールの頭を、僕は「本当だよ」と優しく撫でた。
 キールのお母さんが「最近、この子ったら生意気になって可愛く無くなってきたのよ」なんて笑っていたけれど、僕にはまだまだ可愛い弟だ。

「木蓮は俺とずっと一緒にいてね!」

 そうキールは笑って、僕にしがみつく腕の力を強くした。



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