【本編完結】蜂の王 〜 触れられなくてもそばにいたい 〜

はぴねこ

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14 2819モクレン

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 その日から、俺は奇妙な許しのなかで生活を送った。

 バフェットから俺の生活費などはもらっていたのかもしれないけれど、タカオカは無償で俺に生活の場を与え、生きるために必要なすべてのものを与えた。
 それが、彼にとってどんなメリットとなり、どんな意味があるのかはわからなかったけれど、俺はただもう一度あの塔に戻り、木蓮に会いたいという欲望を叶えるためだけに彼を利用した。

 そこに罪悪感がないと言えば嘘になるけれど、罪悪感からは目をそらしていた。
 俺はただ、最短ルートで木蓮がいるあの塔に戻ることだけを考えていた。

 記憶喪失の働き蜂として地上に落とされた俺がもう一度S蜂に選ばれることなどあるはずもなく、そんな俺が蜂の塔に戻るためには管理局の職員になるしかなかった。
 蜂の塔を管理する管理局の職員になるためには、大学を出ることが最低条件だった。
 家柄なども関係するという話もあったけれど、そこはバフェットの関係者だとゴリ押しできないだろうかと考えている。

 ただ、問題は、管理局に俺がかつてのS蜂だという記録が残っていて、受験したところで無駄である可能性だ。
 しかし、その点は今心配しても仕方がないだろう。
 記録が残っていても記憶がないのならば問題なしと判断されるかもしれないし、どんなに頑張ったところでダメだったとしたら、その時は他の手を考えるしかない。

 蜂の塔にいた頃、テレビも映画もあったけれど、俺は本を読むことのほうが好きだった。
 しかし、勉強らしい勉強はしてこなかったから、俺がまずやったことは高校の勉強のやり直しだった。
 木蓮に会うことだけを目標に、俺は来る日も来る日も勉強した。

 時折買い出しなどで外に出ると蜂の塔が見える。
 あそこにいた時にも窮屈な狭い場所だと思っていたけれど、地上から見た塔のてっぺんは本当に小さくて、そこに木蓮が閉じ込められていると思うと俺はどうしようもない焦燥感に駆られた。

 木蓮が新しい蜂の王になったことは、地上では大々的に放送された。
 その映像や写真は過去のものであったり、作られたものではあったけれど、どんなに人気のある俳優も、アイドルも、この都市では蜂の王への注目には敵わない。

 いま、この世界のすべての人間の目がまた木蓮に注がれているのだ。

 俺が蜂の王になってからは俺だけが木蓮に注目していると思っていたのに、そんなのはただの束の間の幻想でしかなかったのだ。
 彼の姿があらゆるスクリーンに映るたびに一瞬目を奪われて、それからすべてのスクリーンを壊したくなる。

『見るな!』とそう叫びたいのに、今の俺には声を出すことさえも許されない。
 ただひたすらに机に向かうことしか許されずに、そうしてあっという間に一年という時間を潰していく。



 一年後、俺は高校の内容をすべて学び終え、大学受験ができる権利を得るための試験を受けた。
 試験に受かった日、タカオカはホールケーキを買って早めに帰ってきた。

 俺が作った料理が並ぶテーブルを見て、「また腕を上げたね」とタカオカは笑う。
 俺はこの頃にはレシピがわかればたいていの料理は作れるようになっていた。

「おめでとう」

 タカオカがグラスを軽く掲げたのに合わせて、俺も頷いてグラスを掲げる。

「あんたのおかげだ。感謝してる」
「感謝とか、そんなのはいいよ。私が好きでやっていることだから。次は大学受験だろう? がんばって」
「あと半年ほど、世話になる」

 俺たちが食事を始めると、ムーも外から戻ってきてえさを食べ始める。

「奨学金が取れなかった場合には、すこしくらいは援助できると思うよ」
「いや、必ず奨学金をとるから、大丈夫だ」
「うん。モクレンの学力のことは心配していないよ」
「それなら、なんだ?」
「僕らは働き蜂だからね。時に、公正な審査とはならないこともある」
「不正が行われるということか?」

 働き蜂として地上に落とされてから俺はオス蜂だった頃には知らなかった、働き蜂たちへの理不尽な現状を何度も見てきた。

 その後は大学受験のための勉強を進めた。
 ある程度の覚悟を持ち、奨学金の審査をするオス蜂たちが否とは言えないほどの結果を残すだけの成績を出せるように俺は努力を重ねた。

 そして、俺は無事に奨学生となることができたが、正直、俺の頑張りよりもおそらくは影で俺を支えてくれているバフェットの力の方が大きかったのではないかと思う。



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