悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ

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 幼い頃の俺は随分と両親や使用人たちの手を焼かせたようだった。

 自分が自分ではないような、家族が家族ではないような、この世界が全く見知らぬ世界のような、そんな不安を常に抱えていた。
 そして、全く覚えていない記憶の中の誰かを常に探しているような奇妙な感覚に苛まれて、周囲の優しさに応える余裕がなかったのだ。

 その日、そんな俺を連れて執事は街に買い物に出かけた。
 確か、俺の服が少し小さくなったからと言っていたけれど、おそらく、常に部屋の中で鬱々としている子供の気晴らしになればと思って連れ出してくれたのだろう。

 しかし、その日はあいにくの雨だった。行きはまだ日差しもあったのだが、帰りには灰色の雲が空を覆い、雨粒が落ちてきてしまった。
 徐々に降る雨は増え、路面を濡らし、馬車は道を急いだが、雷まで鳴ってきた。

 俺はぼんやりと馬車の窓から外を見ていた。
 そして、馬車道の横の林の中に子供が倒れているのを見つけた。

「止めて!!」

 そう叫んだのは、ほぼ反射的だった。
 馬車の扉に手をかけるのを執事は止めて、御者に馬車を止めさせた。馬車が止まると、俺は執事の手を振り払って、馬車から降りて林の中に入った。

 馬車の窓から見た通り、そこには子供が倒れていた。俺は少年を抱きしめて、その場で俺も意識を失ってしまった。


 
 次に目覚めた時、俺は前世の記憶を思い出していた。
 そして、それまでどうして家族やこの世界に対して違和感を抱いていたのかがわかった。

 前世の記憶を完全に思い出す前からきっと俺の中には記憶のカケラみたいなものがあって、それが違和感になっていたのではないだろうか?

 前世では二十一世紀の日本という国に住んでおり、大学生までの記憶があった。
 俺には五歳離れた中学生の弟がいて、両親と犬の四人プラス一匹の暮らしだった。

 確か、あの日はとても暑い日で、夜には家族で夏祭りに行ったのだ。
 色々な屋台を楽しんで、締めの花火を見て帰る時、横断歩道を渡る俺たちに車が突っ込んできた。
 とっさに少し前を歩いていた父さんの方に母さんと弟の大輝を突き飛ばしたから、きっと二人のことは父さんが守ってくれたはずだ。

 だけど、家族が目の前で轢かれて死んだのだから、かなりのショックを与えてしまっただろう。
 俺がもっと素早く逃げられたら良かったんだけど……

 運転手が前方不注意だったのか、それとも居眠り運転や飲酒運転だったのか、はたまた何かの疾患で意識を失っていたのかはわからないけれど、どうか、慰謝料を少しでも多く払ってほしい。

 まぁ、とにかく、俺には前世の記憶が戻り、違和感の原因がわかってかなりスッキリした。

 記憶が戻ったきっかけになったのは、きっと、馬車道で倒れていた少年と、弟の幼少期の姿が重なったからだろう。


 
 ベッドの上で天井を見ながらそこまで考えた俺は慌てて起き上がり、部屋から飛び出した。
 あの倒れていた彼はどうしているのだろうか? ちゃんと客間に寝かせてもらっているだろうか? 医者には見せてもらったのだろうか?

 前世の両親同様に、この世界の両親も優しい人たちだから、きっと大丈夫だとは思うけれど……

「おぼっちゃま! お目覚めになったのですか!」

 廊下を走っていたらじいや……執事長に出会った。
 ちなみにこの執事、名前をセバスチャンという。
 前世の日本ではザ・執事のような冗談みたいな名前だが、当然、この世界ではそうではない。

「セバスチャン、あの少年はどうした?」
 
 記憶を取り戻す前の俺はセバスチャンのことを「じいや」と呼んでいたけれど、今の俺は見た目はともかくも中身は大人だ。年配の方ではあるが、「じいや」などと呼ぶのは抵抗があった。
 俺の様子がいつもと違っていたからか、セバスチャンは少し驚いたような表情を見せたが、特に何も言うことなくそのまま表情を取り繕って、俺の質問に答えてくれた。
 
「彼なら客室でまだ眠っております」

「こちらです」とセバスチャンは少年が休んでいる部屋まで案内してくれるように、先に立って歩き出した。

「医者には診てもらった?」
「はい。打撲のような傷がたくさんついておりました。それから、熱も出ております。非常に痩せており、胃の中も空っぽのようですから、起きたら胃に優しいものから徐々に食事をしてもらう予定です」
「そうか、ありがとう」

 お礼を言うと、またしてもセバスチャンは少し驚いたように俺の顔を注視した。

「どうした?」
「いえ……随分と拾われた少年を気遣っておられるようだと思いまして」
「それは、あんなに小さな子供が倒れていたら心配になるのは当然だろう?」
「小さな子供……そうですね。しかし、彼はぼっちゃまとそれほど変わりない年齢に見えます」

 セバスチャンの言葉に俺はしまったと思った。
 今の俺は二十歳ではなく六歳で、セバスチャンの言う通り、あの少年とおそらく同じくらいの年頃なのだ。
 そんな俺が小さい子供と言うのはおかしいだろう。

 それに、先ほどセバスチャンが凝視してきたのも、記憶が戻る前の俺は常に鬱々としていて、こんなにはっきり話す性格ではなかったし、お礼を言う時もボソボソと喋っていたのだ。
 急に性格が変わりすぎて驚くのは当たり前だ。

 どう誤魔化そうか悩んでいる間に少年が眠っている客室に着いた。
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