【第二部開始】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ

文字の大きさ
4 / 63

03

「……」

 目を覚ました俺は少し混乱していた。
 ここは、どこだっけ? 日本の我が家だろうか? でも、日本の自室の天井じゃない。

 子供用のベッドの天蓋には、金色のドラゴンが描かれていた。
 確か、これは、守りの意味が込められていたはずだ。
 そう。ドラゴンの守護が得られると当たり前のように思われているここは日本ではない。

「……」

 俺は頭を一振りして、一旦、前世のことを考えるのはやめにした。

 夕方に寝たはずなのに、窓のカーテンが開いており、外が明るいことから、随分と長く眠ってしまったことがわかる。
 時計を見ると、四時前だ。
 どうやら二十時間以上寝ていたらしい。

「あの子供はどうしているだろうか?」

 今は、客室で眠る少年のことを優先しようと自室を出て、少年のもとへと向かう。
 きっとまだ眠っているだろうと思って廊下を歩いていたのだが、客室に近づくにつれて何やら叫び声が聞こえた。

「来るな! 俺に近づくな!!」

 おそらくそれは少年の声なのだろうと思った俺は急いで客室へと向かう。
 客室の扉は大きく開かれ、メイドや他の使用人たちが遠巻きに見ていた。

「ちょっと通して」

 そう声をかけると「ぼっちゃま!」とメイドが声を上げた。
 しかし、メイドたちは道を開けてくれない。

「ここは危ないですから、向こうで待っていましょう」

 そう優しく声をかけてくれるメイドに俺は首を横に振った。

「俺が拾ってきたんだから、ちゃんと俺が面倒を見ないと」

「しかし……」とメイドが躊躇うのを「大丈夫」と言って、俺はメイドの間を通らせてもらう。

 寝室の中を覗くと、少年が裸足のまま、部屋の奥、隅の方で警戒を露わにしていた。
 そんな少年に対するのはセバスチャンだ。
 きっと、俺の言葉通りに彼を看病してくれていたのだろう。

「ここは怖いところではありませんよ。落ち着いてください」

 そう少年に落ち着いた声音で語りかけるセバスチャンだったが、少年の眼差しは鋭い。
 ちょっとでもセバスチャンが近づこうとすれば、すぐに怒鳴り声が返ってくるようだった。
 俺はそんな部屋の中に足を踏み入れた。

「セバスチャン、俺が話してみるよ」

 俺の声に反応してこちらに視線を向けた少年が一変した。

「お前……」

 その声は怒鳴り声ではなく拍子抜けしたような声で、目からは鋭さが消えた。
 そして、まるで子犬のように走り寄ってきた。

 しかし、そんな少年と俺の間にセバスチャンが立ち塞がった。

「ぼっちゃま! 危険です!」

 ずっと自分に牙を向くようにしていた少年に警戒するのは当たり前で、そんな人物を自分が仕えている人の子息に近づかせまいとする行動も当たり前だった。
 だけど、それは不要だ。

 先ほどの少年の眼差しは、俺を攻撃しようとしたものではないと思えた。
 俺を背に庇うセバスチャンの手を握り、「大丈夫だ」と伝えた。

 少年はセバスチャンを前にしてまた警戒心を露わにしているけれど、セバスチャンの背中から顔を覗かせた俺を見ると、その眼差しからは敵意が消える。

「おそらく、見知らぬ大人が怖いのだと思う」
「ですが……」
「このままでは埒が明かないだろう?」

 セバスチャンは俺と少年を見比べて、「わかりました」と俺の前からどいてくれた。

 俺は少年に向き直り、まずは自己紹介からと思ったのだが、その前に少年は再び走り出して俺に抱きついてきた。
 その体は驚くほど細かった。

「お前が助けてくれたんだろう?」
「どうしてわかったの?」

 雨の中、俺が駆け寄った時に、まだ意識があったのだろうか?

「あったかいものが触れたと思ったら、お前だった!」

 道に倒れている彼に触れた時に、少しだけ意識が浮上したということのようだ。

「そっか……俺はルシファー。君の名前は?」
「名前はない。みんな、俺のことをオイとかチビとか、クソガキって呼んでた」
「そう……とりあえず、何か食べようか?」

 この様子では、おそらくまだ何も食べることはできていないだろう。

 部屋の中を見渡せば、水の入った桶はサイドテーブルから落ちて床を濡らしているし、彼の額を冷やしていたはずのタオルは枕の上に落ちて、枕も濡れている。
 それに、部屋の中の装飾品も床に落ち、物によっては壊れていた。

 見知らぬ大人に怯えて逃げ回ったのが伺える。俺は彼から離れてしまったことを申し訳なく思った。

「セバスチャン。申し訳ないけど、部屋の片付けをお願いできるだろうか? それと、彼と俺に消化のいい食事を用意して運んで欲しい。この部屋で一緒に食べるから」
「承知しました」

 少年をソファに座らせて、俺もその隣に座った。
 少年は俺に身を寄せて大人たちが慌ただしく動くのを見ていた。

「大丈夫だよ。今、温かいごはんを持ってきてくれるから、一緒に待っていよう」

「わかった」と少年はうなずいてくれた。
 それほど待つことなく、セバスチャンが食事を運んできてくれた。温かいスープだった。
 セバスチャンが少年の前にスープを置くと、少年はよほどお腹が空いていたのかすぐにスプーンでスープをすくって口に入れた。

 そして、「あっつ!」と叫んでスプーンを落とした。

「落ち着いて」

 俺は自分のスープをスプーンで掬って息を吹きかけて冷ました。
 そして、少年の口元に差し出すと彼は恐る恐るそれを口にした。
 少年はパァーッと表情を明るくした。

「うまい!」

 そう叫んで、あーんと俺の方へ口を開く。
 俺は彼が自分でスープを冷ますことができるように見本を見せたつもりだったのだが、どうやら少年は俺に頼ることにしたらしい。

「自分で冷ましなさい」

 そうセバスチャンは注意して、彼に新しいスプーンを用意してくれたけれど、俺はそれに大丈夫だと示して、再びスープを掬って息を吹きかけて冷ました。

 それを少年の口に入れてやると彼は満足そうに咀嚼して飲み込んだ。
 そして、もっとくれというように再び口を開いた。

 その様子はまるで雛鳥のようで可愛かった。

 俺の分と彼の分のスープを綺麗に空にして、彼はウトウトとし始めた。

「眠いならベッドで休んだらいい」

 俺は彼の手を引いてソファーから立たせ、メイドがシーツを変えて綺麗にベッドメイキングしてくれたベッドへと連れていく。

 五歳年下の弟の世話をしていた頃のことを思い出して、少し懐かしくなった。

 少年の体をソファーに寝かせて離れようとしたら、彼は俺の体に腕を巻きつけてきた。

「俺は自分の部屋に戻るから、離してくれないか?」
「い、やだ……一緒に、いて……」

 眠気に抗いながらそんなことを言われては、前世お兄ちゃんは無下にはできない。

「わかったよ」

 俺は彼の隣に横になり、抱きついてきた少年の頭を抱えるように抱きしめ返した。

「ぼっちゃま……」

 そう声をかけてきたセバスチャンに、「少し一緒にいるだけだ」と言い訳をして見逃してもらった。
感想 9

あなたにおすすめの小説

​転生したら最強辺境伯に拾われました

マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。 ​死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/数日おきに予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

過労で倒れかけの騎士団長を「カツ丼」で救ったら、なぜか溺愛され始めました。

水凪しおん
BL
王都の下町で、亡き両親が残した小さな食堂をたった一人で切り盛りする青年、ルカ。 孤独な日々の中で料理だけを生きがいにする彼の店に、ある冷たい雨の夜、全身を濡らし極限まで疲弊した若き騎士団長、レオンハルトが倒れ込むようにやってきた。 固形物さえ受け付けないほど疲労困憊の彼を救うため、ルカが工夫を凝らして生み出したのは、異世界の食材を組み合わせた黄金色の絶品料理「カツ丼」だった。 その圧倒的な美味しさと温もりに心身ともに救われたレオンハルトは、ルカの料理と彼自身に深く魅了され、足繁く店に通うようになる。 カツ丼の噂はまたたく間に王都の騎士たちや人々の間に広がり、食堂は大繁盛。 しかし、その人気を妬む大商会の悪意ある圧力がルカを襲う。 愛する人の居場所を守るため、レオンハルトは権力を振るって不正を暴き、ルカもまた自らの足で立つために「ルカ商会」を設立する決意を固める。 美味しいご飯が傷ついた心を癒やし、やがて二人の絆を「永遠の伴侶」へと変えていく。 胃袋から始まり、下町の小さな食堂から王都の食を支える大商会へと成り上がる、心温まる異世界お料理&溺愛ファンタジー!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

原作を知らないblゲーに転生したので生きるため必死で媚びを売る

ベポ田
BL
blゲームの、侯爵家に仕える従者に転生してしまった主人公が、最凶のご主人様に虐げられながらも必死に媚を売る話。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた

BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。 断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。 ーーそれなのに。 婚約者に婚約は破棄され、 気づけば断罪寸前の立場に。 しかも理由もわからないまま、 何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。 ※最終的にハッピーエンド ※愛され悪役令息