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「俺だよな?」
自分のそんな声で俺は目が覚めた。
弟の語る悪役ルシファーが俺だとして、つまり、この世界はゲームの世界ということだろうか?
このままだと母上は死んで、俺はヒロインの家を貧乏貴族にするような悪役になってしまうということだろうか?
領地を持つ貴族を貧乏貴族に追い込むということは、多くの領民の暮らしも苦しくなる……場合によっては死者が出るような状況に追い込むということだろう。
そんな悪役に、俺はなるということだろうか?
ちなみに、ルシファーの見た目はかなり特殊で、真っ白な髪に赤い瞳だ。
名前と見た目で判断するなら確実に悪役決定だ。
父上も母上も茶色い髪に茶色い瞳で非常に一般的なのに遺伝子がサボった結果がこれだ。
前世のアニメでは異世界転生して、悪役になってしまった場合、いいやつになって物語の展開を変えればよかったはずだ。
でも、そうすると、ゲームの話が変わってこないか? 弟が好きだったゲームの話を変えちゃうのはどうだろう? 悪役が悪役でなくなってしまったゲームは面白いのだろうか?
あまり弟ががっかりするようなことはしたくない。
かといって、このまま母上が死んでしまうのも困るし、俺のせいで他領の領民が苦しむのも嫌だ。
母上が助かるようなヒントとなるようなことは弟は話していなかったけれど、できるだけ努力して救えるのならば救いたい。
母上を救って、他領の領民にも迷惑をかけない……その上で俺が悪役になるというのはどうだろう?
幸い、ゲームをクリアしてもルシファーが処刑されたという話はなかった。
ルシファーはヒロインがヒーローと出会い、聖女となるための布石ではあるが、ラスボスとかではない。
悪役ではあるが、人類滅亡させるような力があるわけじゃないから、ヒーローに殴られるようなことはあっても、斬られて殺されるようなことはなかったはずだ。
それなら、悪役としての役目を果たしてゲームの展開を維持しても問題ないだろう。
……公爵家の評判を落とすことにはなってしまうと思うから、両親には申し訳ないし、家を追い出されることになるかもしれないけれど、でも、弟が好きだったゲームを台無しにするわけにはいかない!
あまり周囲に迷惑をかけない形で、悪役になろう!
俺がそんなことを考えていると控えめなノックが聞こえて、扉が開かれた。
メイドかと思ったが、セバスチャンだった。
「ルシファー様、もう起きておられましたか」
「おはよう。セバスチャン」
「おはようございます」
そう挨拶をしてから、セバスチャンは何かを探すように部屋の中を見渡した。
「どうしたんだ?」
俺の質問に、セバスチャンは「それが……」と、少し言い淀んだ。
「インベルがいなくなりました」
「……え?」
昨日まで普通にしていた。街で自分の服を買うのもすごく楽しそうだったし、この家に不満があるような素振りはなかったのに。
「昨日購入した衣服も衣装棚に残されておりましたし、屋敷の中でなくなったものもございませんから、盗みが目当てでぼっちゃまに近づいたというわけでもございません」
セバスチャンがそう報告した。
私は全くそのようなことは考えていなかったが、確かに、そのような目的で公爵家の人間に近づく者はいるのかもしれない。
「もしや、誰かに攫われたとか?」
「誰かが侵入したような形跡はありませんでした」
「それじゃ、自分の意思で出て行ったのか?」
「念の為、騎士たちに探すように旦那様が指示されておりましたが、その可能性が最も高いです」
「そうか……」
インベルは一体どこに行ってしまったのだろうか?
その日から、公爵家の騎士団による捜索活動が進められたが、インベルをすぐに見つけることはできなかった。
ただ、全く情報を得られなかったというわけではなく、街外れの農村ではちらほらと目撃情報があった。
その目撃情報のどれもが、インベルが早朝に山の中に入っていくというものだった。
一日、二日と経ってもインベルは帰ってこなかった。
気落ちはしたけれど、このままインベルの帰りを待つだけの日々を過ごすわけにもいかないため、気晴らしに図書室にでも行こうと廊下を歩いていると、父上の執務室の前で佇む人を見つけた。
先日、父上の執務室で会った人物だ。確か、名前はアラヌス。公爵家の財務に携わっている人だと聞いたと思う。
「こんにちは。どうしたのですか? このようなところで」
そう声をかけると、何やら一枚の書類を見つめて考え込んでいるような表情をしていたアラヌスは慌てて顔をあげ、俺を見た。
「これはルシファー様、公爵様に御用ですか?」
「いいえ。俺は図書室に向かおうかと……何か考え込んでいたようですが、どうしたのですか?」
「あ、いえ……ちょっと公爵様に進言したいことがあったのですが、奥様のことで大変な時ですので……」
確かに、今、父上は母上のことで頭の中はいっぱいだろう。
しかし、財務に関わる人物が悩むことだ。後でもいいと放置できるものでもないだろう。
俺が何かできることはないだろうかと思ったが、前世の俺ならともかく、今の俺は六歳なのだ。
手伝うとか言っても笑われるだけだろう。
「アラヌスさん、それは計算問題ですか?」
「え?」
「悩んでいるのは計算問題ですか?」
「ああ……そうですね」
「足し算や引き算なら見てもいいですか?」
「いえ、これは子供が見るようなものでは……」
「先日、執事見習いの子供がいなくなってしまい、とても心配なのですが、心配ばかりしていても疲れてしまうので、気晴らしに図書室に行くところだったのです。計算問題なら気が紛れそうなので、俺も見てみたいです。ダメですか?」
なんとか悩んでいる書類を見せてもらえないかと言葉を重ねると、アラヌスは少し考えてから、「では、私も図書室にご一緒してもよろしいですか?」と聞いてきた。
どうやら、図書室で書類を見せてくれそうだ。
俺は頷いて、アラヌスと図書室へと行くことにした。
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