【第二部開始】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ

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 インベルが母上のために赤い実を持ってきてくれた数日後から、俺とセバスチャン、そしてインベルはインベルが赤い実がなる木を探している期間に立ち寄り、寝泊まりした村々にお詫びをしに回った。
 
 インベルに我が家を出た後、どのように食料を調達していたのか聞けば、山のふもとの村々で盗みを働いていたようだ。
 インベルとしては、パンを一つもらっただけという認識のようだが、人がいない家に忍び込んでパンを一つ、果物を一つと勝手に持っていくことは窃盗だ。
 
 セバスチャンはこの件は俺の両親には伏せ、セバスチャンが自身の屋敷で雇った下働きの者が盗みを働いたという体裁にして自分だけ謝りに行くと言ったのだが、それではインベルをこの後、俺の傍に置く時に不都合があるだろう。
 
 だから、俺は、俺のひどい風邪を治す薬草を探すために、俺の身の回りの世話をするインベルが山に入り、その際に食料をもらいに無断で家に入ってしまったということにして一緒に謝罪に回ったのだ。
 
 結局は嘘をつくことになってしまうが、公爵夫人が重い病を患っていたことも、それをたった一粒で治してしまった植物が存在することも公にしていい内容ではなかった。
 だから、俺とセバスチャンは嘘の状況説明をして、村々に謝罪して回ったのだ。
 
 盗まれたのがパンや果物一つだったこともあり、それほど気にしている村人はいなかった。
 夜の寝床に馬小屋や物置小屋を借りていたようだが、それに関しては気づいている人さえもいなかった。
 そして、領主の息子のために薬草を探していたという理由に寛容に許してくれる者も多かった。
 
 何より、パンや果物、寝床の料金とお詫びの気持ちを込めて渡した一枚の銀貨により、笑顔になってくれる人が多かった。
 
 そうして、インベルが立ち寄った村々を周り終わり一週間ほど経った頃、買い物のためにセバスチャンとインベルと街を歩いていると、顔を赤くして酔った一人の男が近寄ってきた。
 
「そいつは俺の家からもパンや果物、肉なんかを大量に盗んだんですよ」
 
 おそらく、街に来た村人から何やら話を聞いたのだろう男は酒臭い息でそんなことを言ったが、男の話が嘘であることは容易にわかった。
 
 インベルは山に入るために街の外で活動していたのだ。当時の目撃情報も街の外ばかりだ。
 それに、どこの村でも多くの物を盗んだりはしていないし、そもそも、この男が大量という量のパンや果物、肉なんかを家に置いているとは思えない。
 もしかすると、大量の酒瓶は床に転がっているかもしれないけれど。
 
 しかし、その男の言葉がたとえ嘘でも、最初から話も聞かずに嘘だと決めつけて無視するわけにはいかないだろう。
 俺はインベルに視線を向けて、「この男の話は事実?」と一応は確認をした。
 予想通り、インベルは首を横に振った。ついでに、その手は腰の剣の柄をしっかりと握っている。
 酔っ払いの男にはその剣が目に入っていないのか、ヘラヘラと「そいつは嘘をついている」とさらに嘘を重ねた。
 
 正直、領主の屋敷の者を侮辱した。すなわち、それは領主を侮辱したも同じこととして切り捨ててもよかった。
 しかし、ここは街中で、女性も子供もいる。男性の中にだって荒事が苦手な者もいるだろう。
 そんなところで抜剣しては、この後の買い物が非常にしづらくなってしまう。

 ちなみに、俺は、前世平和な日本で過ごしていたので、血なんて見慣れていないし、父上に狩りに連れていってもらった時には、ウサギが矢に射抜かれたところを見ただけで失神した。

 だから、この場でこの嘘つきが斬られたら、ほぼ確実に失神すると思う。
 ただ、この世界にはこの世界のルールが存在することは理解しているし、それを否定する気はないというだけだ。

 平民が貴族にこのように大ボラを吹けば切り捨てられても仕方がないことは理解しているし、それはやりすぎだと前世の常識を押し付けるつもりもない。

 それに、ここまでひどい嘘をつかれると、実はこの男は自殺願望者なんじゃないかと思えてくる。
 だって、この世界では身分が絶対であり、平民が貴族に嘘をつくのも、歯向かうのもありえないことなのだから。

 自殺志願者なのだとしたら、俺が失神する可能性があったとしても、切ってやった方がいいのかもしれない。
 インベルは怒りの形相だし、セバスチャンも微笑んでいるが怒っているのはその空気で感じることができる。
 ただ、この二人が黙っているのは、単純に俺が失神することがわっているからだ。領民の前で領主の子供が失神しないように気を遣っているに過ぎない。
 
「とにかく、俺にも銀貨をくださいよ。食料を大量に盗まれたんだから、それなりの数もらえますよね?」
 
 やはり、そういうことか。この男は単純に金が欲しくて嘘をついているのだ。
 実に単純でどうしようもない言い草に俺はため息をついた。さて、どうしようかと思った時、その場に凛とした勇気ある声が響いた。
 
「そいつの言ってること嘘だぞ!」
「そうだよ! そのおじさんはいつもお酒ばっかり飲んで、たくさんご飯買うお金なんてないもん!」
「ルシファー様! そんなやつの言葉を信じちゃダメだよ!」
 
 それはこの茶番を見守っていた街の子供達だった。
 俺も男の言葉なんて全く信じていなかったが、そんな男の言葉を否定せずにとりあえず聞いていた俺のことを子供達が心配してくれたのだ。
 
 ちなみに、この街の人たちはみんなルシファーのことを知っている。
 それはルシファーが領主の息子だからだけど、それ以上に、この真っ白な髪と赤い目が印象深いのだと思う。
 しかし、意外なことに見慣れないであろうこの色を彼らが気味悪がることはない。
 
「なんだ? お前たち?」
 
 酔っ払いの男が子供達に鋭い視線を向ける。
 
「お前たちには関係なっうご!!!」
 
 男が子供達に怒鳴ろうとしたその時、俺が目配せを送ったインベルが回し蹴りで男の言葉を止めた。ぶっ飛んで建物の壁に頭を打ちつけた男は気を失ったようだ。
 
 男の対処はセバスチャンに任せることにして、俺は子供達に笑顔を向けた。
 
「みんな、教えてくれてありがとう」
 
 それに、インベルのことを庇ってくれて嬉しかった。
 
 子供たちは大人を蹴飛ばしたインベルに驚きの眼差しを向ける。
 怖がらせてしまっただろうか? と思ったが、子供たちの表情はすぐに明るいものに変わった。
 
「ルシファー様の執事のにいちゃんすごいな!」
「執事のお兄ちゃん、強い!!」
「何今の! 俺にも教えて!!」
 
 子供たちはインベルを怖がるどころか、すごいすごいとはしゃいだ。
 そんな子供達の様子にインベルのほうが戸惑っているようだった。
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