【第二部開始】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ

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 その後、クラリスは隣の領地のよしみで時々、我が家に遊びに来るようになった。
 隣の領地とはいえど、お互いの領地を横断して来るわけだからその距離はかなりある。それをわざわざ馬に乗って来るようになった。もちろん、護衛と一緒にだ。
「大変ではないか?」とクラリスに聞くと、我が家の図書館には読んでみたい本が多いのだという。
 
「ルシファー、なんだこの小娘は?」
「王子、レディーに対して失礼ですよ」
 
 ある日、王子の突然の来訪とクラリスが遊びに来るのが重なってしまったことがあった。
 クラリスは令嬢らしく穏やかな微笑みを崩さなかったが、王子はあからさまに嫌そうな表情をしていた。
 
「おい! ルシファーは今日は俺と遊ぶことに忙しいからお前は帰れ!」
「王子、男性は女性に優しくあるべきです。それに、クラリス嬢からは前もっての連絡がありましたが、王子はいつも突然訪問するではないですか?」
 
 ドラクレシュティ公爵家の領地は王都のすぐ隣で、王都もそれほど広くないために公爵邸から王都の城までは馬車で一時間ほどだ。
 しかし、隣のシアン男爵領は馬で三時間だ。馬車ではなく、馬を走らせて三時間なのだ。
 要するに、クラリス嬢はわざわざ馬に乗って三時間かけてやってきている。そこまでして来るほど、彼女にとって我が家の図書館は魅力的なのだろう。
 
「ルシファーは王子の俺よりもこの小娘の方が大事なのか? この小娘は男爵家なのだろう? ルシファーには不似合いな下級貴族ではないか!!」
「物語の王子様は所詮創作ということがよくわかり、良い学びになりました」
「小娘! それはどういう意味だ!?」
「わたくしはただ、王子のおかげで勉強になったと感謝を示しただけですわ」
 
 大人しくお淑やかな令嬢を王子が一方的にいじめるような構図になるかと思ったが、思った以上にクラリスが毅然とした態度で応戦していて驚いた。
 男爵家だからと怯んで、王子に媚を売ることのないクラリスの態度に俺は笑った。
 
「ルシファー! 何を笑っている!」
「ルシファー様?」
「いや、二人が仲良く年相応の子供同士として言い合っているのが微笑ましくて」
 
 俺の言葉にクラリスは頬を染めてすぐに大人しくなってしまった。
 
「わたくしとしたことが、お恥ずかしいです」
「ふん! 生意気な男爵令嬢のことは気に入らないが、ルシファーが楽しそうに笑っているから許してやる!!」
 
「結局はルシファー様の人たらしスキルで一人勝ちですね」
 
 インベルがそう微笑んだが、その微笑みがなんだか怖い。
 結局、そのあと、三人でお茶を飲みながらお菓子を食べて少し話して、すぐにクラリスの帰る時間になってしまった。
 
 その後も、時折、クラリスと王子が来る日が重なって、二人は親交を深めていった。
 そこで、俺はあれ? と首を傾げた。
 
 確か、ゲームのヒロインは最終的には王子と結ばれるはずだ。
 そして、ヒロインは男爵家だった。つまり、クラリスがヒロインなのだろうか? しかし、クラリスの家は別に没落していない。
 まだ八歳の子供の俺が没落に追い込むのもかなり難しい話だろう。没落していないのだから、クラリスの家がヒロインの男爵家というのはやはりおかしいし、別の男爵家の令嬢なのだろうと俺は改めて納得した。

 

 その年、母上が新しい命を身ごもり、俺が九歳の頃に弟が生まれた。

 俺はその赤ん坊を見て、弟のことを思い出して懐かしくなったが、すぐに前世の弟との思い出は振り払った。
 だって、誰かと比べて接するなんて、唯一無二の命に対して失礼だから。

 それに、ルクスと名付けられた弟は生まれてから半年ほど経つまでは俺の姿を見ると泣いていたから、俺によく懐いてくれていた前世の弟とその姿を重ねることは自然と減っていった。

 ルクスは実の兄の俺よりも、執事見習いのインベルによく懐いていた。
 半年くらい経つと俺の姿も見慣れたのか、泣くことこそ少なくなったが、何やら怪訝な顔をしていることがよくあった。

 しかし、弟がそんな風になってしまう心当たりがないわけでもない。
 俺は悪役令息になるべく生まれてきたために白い髪に赤い瞳という異質な見た目をしている上に、目つきが鋭く、優しい少年とはかけ離れた姿をしていた。
 おそらく、小さな弟にはそれが怖かったのだろう。
 嫌われていてもやはり小さな弟の成長を見ているのは楽しかった。

 しかし、そうして幸せな日々に浸っているわけにもいかない。
 俺は十歳になったら貴族たちが通う学園に入学し、寮にも入り、そこで悪役令息としての役割をしっかりとまっとうしなければいけないのだ。

 そうでないと、ストーリーが変わってしまい、前世の弟が大好きだったゲームの世界が壊れてしまうかもしれないからだ。
 そう思って身構えていたのに、一向に父上からは学園入学の話が出なかったから、俺は自分から父上に学園のことを聞いてみることにした。

「学園の入学?」

 父上も弟を抱いた母上も不思議そうな顔をした。

「えっと……貴族が入学する学園があるのではないのですか?」
「あるにはあるが、それは家庭教師を雇えない中級貴族や下級貴族が通うものだ」

 なんだって!?
 それじゃ、どうしてゲームの中のルシファーは学園に通っていたのだろう?

「俺がその学園に通うことはできないのですか?」
「通いたいのならば止めはしないが、家庭教師の教師たちがルシファーはすでに学園で学ぶような内容の学習は全て終えてしまっていると言っていたから、つまらないのではないか?」

 学園に通ったら、ヒロインに対するいじめで忙しくてなかなか勉強できないかもしれないと思って、学園卒業までの学習を急いで進めてもらったのだ。
 それに、前世の記憶もあったため、算学は難しくなかったし、言語や歴史は前世とは違うものの、学習の仕方がすでに身についていたために教師たちには物覚えのいい子供に思えただろう。

「同い年の子供たちや学園での暮らしに興味があるのです」

 そんな俺の言葉に「そうか」と父上はしばし考えていた。

「それならば、インベルも学園に入学させよう」
「インベルに学習の機会を与えていただけるのは嬉しいですが、宜しいのですか?」
「構わない。公爵家の者が下の階級の者たちの間に入るのだから何が起こるかわからない。きっとインベルが助けになってくれるだろう」

 父上の言葉にインベルが礼をした。

「必ずや、ルシファー様をお守りいたします」

 そんな危険な場所に行くわけではないし、危険に晒されるのは俺ではなく、ヒロインとヒーローの予定だ。
 まだどうやっていじめたらいいのかわからないが、きっと会えばなんとかなるだろう。
 
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