【第二部開始】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ

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「クラリス嬢は学園に通うの?」
 
 シアン男爵は父上に協力して上級ポーションの材料探しを行なっていた。
 献身的に父上に尽くして働いてくれることを父上が高く評価して、その働きに見合った俸給を与えており、シアン男爵はそのお金を元に領地の立て直しを行なっているようだ。
 
 さらに、その働きが王様に認められて、より一層公爵の役に立ち、領地も豊かにするようにと昇爵の名誉を得て、今はシアン伯爵だ。
 やはり、クラリスはヒロインではなかったようだ。
 
 俺は学園で、悪役令息のルシファーがいじめるべきヒロインを探す必要があるのだ。
 
「はい。昇爵していただきましたが、何人もの家庭教師を雇えるほどの余裕は我が家にはありませんから」
「俺も学園には通おうと思っているから、学園の様子など何か情報があったら教えてほしい」

 俺の言葉にクラリスの表情が明るくなった。

「ルシファー様も通われるのですか!?」
 
 知っている者がいるというのは喜ばしいことなのだろう。
 しかし、すぐにクラリスの表情が警戒の色を見せた。
 
「もしかして、王子様も……」
「いや、王子は通わないよ。俺はなんというか……ちょっと使命? があって、通う必要があるんだ」
「要するに、入学初日からは王子はいないということですか?」
「いや、その後もいないけど?」
「つまり、使命を果たした上で、ルシファー様から王子が入学すべき学園ではないと報告してくださるということですか?」
「いや、そんな報告をするつもりはないけど?」
「そうですよね。もっといい感じに言っておかないと、学園がなくなりそうですもんね」
 
 あれ? なんか、俺が使命なんて言葉を使ってしまったから、クラリスに誤解を与えてしまっているような気がする。
 しかし、使命の内容を説明することもできないため、申し訳ないが誤解させたままでいることにした。俺の言葉選びが下手なためにごめんよ。クラリス。
 
「ルシファー様もご存知の通り、学園には家庭教師を雇うことのできない中級貴族から下級貴族の令息令嬢が入学します」
 
 クラリスの話に俺は「ああ」と相槌を返す。インベルは俺の後ろに立って、一緒に話を聞いている。
 
「皆、学園の生徒ではありますが、学生だから平等ということはありません。大人たちの貴族社会同様、学園の中では身分差は明確にあり、上の身分の者には下の者は基本的に逆らうことができないそうです」
 
 寮生活なのにそんな状況の中に閉じ込められるとか地獄だな。
 
「しかし、貴族の礼儀を学び、貴族の矜持として下の者を助けてくださる方々もおりますから、それほど悲観することもありません。わがままな令息令嬢に目をつけられないように、うまく立ち回れば問題は起きないでしょう」
 
 なるほど。大人たちの中にも下の立場の者を虐げる品のない者もいれば、父上のように身分ではなく能力で取り立てる者もいる。子供たちの社会も同じということだ。
 
「ルシファー様が入学されるのでしたら、わたくしたちの学年は平和に学園生活を送れそうですわ」
「え?」
「だって、お優しいルシファー様は公爵令息で、学園の中では身分が一番上ですから」
「あ~……そ、そうだね」
 
 俺は曖昧に笑うしかなかった。
 まさか、悪役やるために学園に通うとは言えない。
 
 
 
 俺と父上が学園入学に関しての相談をしている間、弟のルクスが「うーうー」「あーあー」と何やら喋っていた。
 弟のルクスは前世の弟よりも寝返りやハイハイも早く習得でき、最近はつかまり立ちもするようになった。
 さらには積極的に言葉を話そうとしている。
 きっとルクスは賢い子に育つに違いない。

 俺が悪役になって、公爵家を勘当されても、ルクスがいてくれれば跡取り問題も解決だろう。

 俺が学園へ出立する時にルクスに「父上と母上のことを頼むぞ」と言うと、父上も母上も笑っていた。
 馬車に乗り込み、馬車の中、インベルと二人きりになると、俺はインベルに言った。

「インベル、俺は学園に行ったら、嫌なやつになるかもしれない。何か罪を犯して、王族から罰せられるようなこともあるかもしれないんだ」

 うまくできるかわからないけれど、その予定だ。

「だから、そうなったら……いや、そうなる前に、インベルは俺を見限って逃げてほしい。できれば、公爵家に戻ってみんなのことを守ってほしいけれど、それが重荷なら、自由に、好きなことをして生きてほしい」

 インベルは俺の顔をじっと見て、それから聞いてきた。

「嫌な奴になるって具体的には何をするつもりなのですか?」
「えっと、それは……他の人の悪口を言うとか?」

 インベルに問われて、俺は一生懸命考えて答える。

「罪を犯すって、具体的にはどんなことがしたいのですか?」
「えっと……物を盗むとか?」

 重ねて質問されて、俺はさらに一生懸命考えて答えた。

「学園にはルシファー様よりも身分の低い貴族の令息令嬢しかおりません。そこで悪口を言ったところで誰もルシファー様を叱ることはないでしょう。物を盗むどころか、目の前で奪っても、誰もルシファー様を罰することはできないかと」
「た、確かに……」

 貴族社会では身分は絶対的なものだ。
 前世の記憶がある俺には理解することの難しい感覚だったが、平民は貴族に逆らえないし、下級貴族は上級貴族に逆らえないのだ。
 そして、クラリスの話から、それは学園内部でも同じことだと分かった。

「そんな無力な者たちに、ルシファー様は本当に無慈悲なことが行えるのですか?」

 インベルが真っ直ぐに見つめてくる。

「……が、頑張るよ」
「頑張るということは、それを行わなければいけない理由があるということですね?」

 インベルがずいっと身を乗り出してきた。
 狭い馬車の中で向かい合って座っっているから、身を乗り出されると顔がものすごく近くなる。

 子供の頃からインベルは端正な顔立ちをしていたが、セバスチャンの厳しい教育を受けて、品性漂う表情、身のこなしを覚えたインベルは、貴族の俺なんかよりもよほど紳士然とした雰囲気だった。

「ぜひ、その理由を教えてください。私がルシファー様に協力いたしましょう」
「いや、インベルを巻き込むわけにはいかないよ」
「でも、ルシファー様だけでは絶対に失敗しますよ?」

「絶対に失敗する」と言われてしまった!
 そんなに俺の計画はダメだったのだろうか?
 人の粗をわざわざ探して悪口言うとか、その人にとって大切なものを見極めて物を取り上げるとか、結構労力がいると思うんだけど?

 俺は「信じられないことだと思うが……」と前置きをしてから、インベルに前世の記憶があることを打ち明けた。
 ゲームについて説明することは難しかったため、この世界とよく似た世界の話が書かれた小説のことを弟から聞いたことがあるのだと説明した。

「つまり、ルシファー様はこの世界が作られた世界だとお考えなのですか? 我々が偽物の人間だと?」
「偽物だなんて、そんなことは考えていない! この世界で、俺もインベルもちゃんと生きているのだから! でも、もしも、なんらかの方法でこの世界のことが物語になって、俺が元いた世界に小説という形で伝わっているのなら、その物語を楽しんでいた人たちをがっかりさせたくないんだ!」
「だから、ご自身はその物語に描かれていた通りに悪役を演じると?」

 俺が頷くと、インベルが難しそうな表情になった。

「もう、無理なような気がします」
「え?」
「だって、ルシファー様ですよ? 悪役とか、絶対無理でしょう?」
「いや、でも……」
「だから、俺に任せてください!」
「どういうこと?」
「俺なら、ルシファー様よりも悪役向きですから!」

 悪役向きかどうかは別として、インベルが俺よりも頭が回るのは確かだ。
 しかし、大切な執事にそんなお願いはできない。

「そんなことできないよ! 死刑とかにはなってなかったと思うけど、なんらかの罰を受けるはずだよ!」
「それじゃ、一緒に罰は受けてください。ちゃんと、ルシファー様が俺に命令したように見えるようにしますから」
「なるほど!」

 インベルなら俺よりも上手く演じることができるような気がする。
 少し、悪役に希望が見えてきたかもしれない。

「インベルは本当にそれで良いのか?」
「もちろんです! 私はルシファー様と一緒にいられれば良いので!」

 俺が罰せられる時には、インベルはただ俺の命令に従っただけだと伝えて、刑罰を軽くしてもらえるように願おう。
 王子とインベルは気軽に言い合えるくらいに仲がいいのだから、きっと王子がインベルのことを助けてくれるはずだ!
 
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