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確かに、ダニエルが言っていることは正しい。
しかし、俺にはゲームのシナリオを変えないために、ヒロインを虐めるという使命があるのだ。
この学園で悪役令息がヒロインをいじめ、そのヒロインをヒーローがいつも守っているのだ。
そうした環境や構図を変えるわけにはいかない。
「ルシファー様、友人がご無礼を申し上げました!」
テンパスが慌てて深く頭を下げた。
「本当のことですから、構いません。お二人は一緒に食事をしてくれるのでしょうか?」
「あ、はい……お許しを頂けましたら、食事をご一緒したいと考えておりました」
「構いません。むしろ、こちらからお願いしたいくらいです」
そう話している間に、先ほどテンパスと一緒に食事の受け渡しカウンターまで行ったもう一人の少年が二つのトレーを持った状態でヨロヨロと戻ってきた。
どうやら、彼は、このダニエルという男とは違って、食事の載ったトレーを余裕で二つ持てるほどの逞しさはないようだ。見るからに小柄で華奢だ。
ちなみに、ダニエルが持ってきた食事は俺の隣に座るインベルの前に一つ置かれ、もう一つはインベルの反対側の俺の隣に座ったテンパスの前に置かれた。
おそらく、最後の一人が持ってきた分が、ダニエルと彼自身のものなのだろう。
彼の足取りのよたつき具合は非常に不安定なもので、見ているこっちもハラハラドキドキするものだった。
そして、案の定、彼はもうすぐテーブルに到着するというところでふらつき、両手に持っていたトレーを落としそうになった。
しかし、いつの間にか席を立っていたインベルが二つのトレーを彼から取り上げることで、食事が落とされるのは救った。
「うわっ! わぁ! わ~~~!」
トレーが落ちるのはインベルが救ったが、少年のバランスが戻ることはなく、彼は後ろにひっくり返りそうになった。それをダニエルが支えた。
「このバカッ! しっかりしろ!」
ダニエルが少年を叱責する。
「うぅ、ごめんなさい……」
「マルロー、大丈夫か?」
テンパスに声をかけられるとマルローは涙目だ。
「テンパス様ぁ~」
マルローはテンパスに救いを求めるような声を出したが、テンパスの隣に座る俺と目が合った途端にその顔を青くした。
「ドラクレシュティ様! 申し訳ございません!」
マルローはすぐさま姿勢を正して深々と頭を下げる。
先ほどのテンパスよりもさらに深く下げられた頭に俺は苦笑する。
このまま彼を放っておいたら、彼は土下座でもしてしまいそうだ。
「ルシファーでいいよ。君が転んで火傷をしたり、怪我をすることがなくてよかったよ」
俺の言葉に彼はそっと顔をあげる。
まだ不安げなその瞳ににこりと微笑めば、彼はその頬を上気させて、上体を起こした。
「ルシファー様がお優しい方でよかったです!」
その笑顔はとても上級生には見えないと思えば彼のリボンの色に目が止まる。
この学園は学年ごとに決められた色の細めのリボンタイをつけることになっていた。
一年生は黄色、二年生は緑、三年生は紺色だ。
マルローのリボンタイは黄色だった。
「ルシファー様、彼はマルローです。ルシファー様と同じ一年生で、ダニエルの弟なのです」
「ダニエルの?」
俺はインベルの隣に座ったダニエルに視線を向ける。
マルローはダニエルとテンパスの間の席に座った。
ちなみに、マルローが落としそうになった食事のトレーはすでにダニエルとマルローの席にインベルがおいている。
「……似てないな」
ダニエルとマルローの二人を見比べた俺は思わず素直にそう言ってしまった。
「マルローは父上の後妻の息子だ」
「そうか。不躾なことを言ってしまってすまない」
同じ席につく他の者たちが黙ってしまって、俺は首を傾げた。
「ルシファー様、食事が冷めてしまいます」
インベルの言葉に俺は納得して食事を始めた。みんな、一番身分が高い俺が食べ始めるのを待っていたのだ。
俺が食事を始めると、みんなそれぞれ食べ始めた。しかし、食事をしながらもチラチラとこちらを見てくる。
もしや、話題の提供もしてほしいということだろうか?
そういえば、俺はここにヒロインと主人公の情報を得るために来たのだ! そのことをすっかり忘れていたことを思い出して、俺は他のテーブルに座って食事をしている生徒たちに視線を向けた。
すると、多くの生徒たちが目を逸らした。
それほど怖がらなくてもいいと思うが、同時に食事中だというのにそれほど多くの目がこちらに向けられていることに驚いた。
やはり、この学園では公爵家というだけで目立ってしまうようだ。
「ルシファー様、ごきげんよう」
耳慣れたその声に顔をあげると、クラリスがいた。
「クラリス嬢ももう入寮していたのか」
「はい! 昨日、入寮しました」
「クラリス嬢はもう食事をしたのか?」
クラリスはおそらく顔見知りなのだろう令嬢たちの席へ視線を向けた。
「これからデザートを食べるところです」
「まだ食事の途中なのに席を立たれたのですか? 相変わらず、シアン伯爵家はドラクレシュティ公爵家への忠誠心が高いですね」
インベルがにこやかにシアン伯爵家の忠誠心を褒め称えた。
確かに、淑女のマナーよりも俺への挨拶を優先してくれたのだから公爵家への忠誠心が高いのだろう。
そういう感謝すべき点にすぐに気づいて評価してくれるインベルの存在はとてもありがたい。
「インベル様の忠誠心に負けるわけには参りませんから」
クラリスはすでに他の令嬢と顔見知りのようだし、ヒロインを探すための情報を持っているかもしれない。この場でいきなり聞くのは不躾だから、また今後適切なタイミングで聞いてみることにしよう。
「クラリス、また後で話そう」
俺の言葉にクラリスの表情が明るくなる。
「ええ! ぜひ!」
インベルにしっかりと評価されて褒められたクラリスは機嫌よく席へと戻っていった。
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