22 / 63
21
俺以外は階級の近い貴族同士なので、学園に入学する前から親たちのお茶会などで会ったりして交流を深めている者たちなのだろう。
テンパスが声をかけてくれなければ、俺とインベルがこの場に馴染むにはかなり時間がかかっただろう。
学園長のお節介に少しだけ感謝した。
「ルシファー様は随分と寛容なのですね」
テンパスが何やら感心したようにそう言った。
「寛容……そんな風に言われるようなことをしたか?」
「上級貴族の令息令嬢の中には、我々下級貴族のことを見下す方々もおられますから」
貴族社会の中では身分の上下が絶対だということは聞いていた。けれど、貴族のいない国で育った記憶がある俺には正直よくわからないのだ。
それでも、「身分なんてどうでもいいじゃん」なんて無責任な言葉を言うことはできない。
俺は領地の街に遊びに行って、店の者たちや子供たちとも話すけれど、大人たちはその子供たちに繰り返し伝えている。
気軽に話をしても許してくれるのは俺だけだと。
他の貴族の前では決して頭を上げず、目を合わせてはいけないとまで言っていた。そうして子供たちを守ろうとしているのだ。
確かに、王城のパーティーなどで出会う貴族たちの中には気位の高い者たちもいる。
もちろん、領民たちのことを考え、彼らを守って、安全で豊かな生活を与えてあげたいと努力している善良な貴族だっている。
けれど、そうではない傲慢な貴族がいるのも事実なわけだから、気を付けるに越したことはないだろう。
「これほど寛容なのは、ドラクレシュティ公爵家の中でもルシファー様だけです」
そう言ったのはインベルだ。インベルを見ると、冷たい眼差しをテンパスに向けていた。
「寛容だからとルシファー様を侮れば、我々が黙っておりません」
「インベル!」
俺は嗜めるようにインベルの名前を呼んだ。
「テンパス、インベルの言葉は気にしないでほしい」
「いえ、お優しいルシファー様を守るためには、インベル様のような者がお傍にいる必要があるかと思います」
「それに……」と、テンパスは周囲の生徒たちを見る。
「ルシファー様の寛容さに胡座をかいて、家を巻き込んで身を滅ぼしそうな者もおりますから」
それはきっと、俺が父上に疎まれていて学園に厄介払いされたのじゃないかと噂していた者たちのことだろう。
テンパスの視線を追って彼らに視線を向けると、彼らは青い顔をしていた。
「上級貴族であられるルシファー様は瑣末な者たちのことなど把握しておられませんが、ルシファー様をお守りする私はこの学園にいる全ての人間を把握していますので、皆様方、よろしくお願いいたしますね」
インベルがにこりと微笑む。インベルの端正な顔の微笑みは素晴らしく美しいが、それよりも俺は驚いていた。
「インベルは、全員わかるのか!? すごいな!!」
「ルシファー様専属の執事ですから当然です」
青い顔をしていた周囲の生徒から、「なんだ、執事か」「平民じゃないか」という声が聞こえてきた。俺はその声に少し苛立つ。
「貴族か平民かで態度を変えるなど馬鹿げていると思うが、インベルは平民ではない」
インベルはこの学園に俺と一緒に入学するためにセバスチャンの養子になったのだ。セバスチャンは実は貴族だ。
貴族の子息が行儀作法を習うために上位貴族の執事見習いになったりするものらしいが、セバスチャンも幼少期にドラクレシュティ公爵家に行儀作法を習うために来て、自分には貴族よりも執事の方が向いていると、そのまま我が家で執事をやっているらしい。
だから、セバスチャンは貴族でありながらも執事という変わった人物なのだ。
俺が学園に入ることになった時に、インベルは俺との同行を望んだ。しかし、学園は基本的には使用人を伴うことを禁止している。
公爵家という立場を利用すればそれを覆すことは可能だろうが、俺も父上もそうしたことはしたくなかった。
そこで、セバスチャンがインベルを自分の養子にする案をあげてくれたのだ。
セバスチャンがインベルを弟子にしてからというもの、二人は本当の親子のような近しさだったから、養子縁組をして親子になっても違和感はなかった。
「インベルは俺の執事でもあるが、ユリウス伯爵家の嫡男だ」
俺の言葉にインベルを平民だと侮っていた者たちの顔から血の気が引いた。
テンパスとダニエルも驚いているようだ。特にダニエルは見るからにその眼差しの色を変えてインベルを見た。
「お前があのユリウス伯爵家の者だと? つまり、アエネイアス公爵の親族ということか!?」
ダニエルはなんだかワクワクしているようだ。
「それなら、俺と勝負しろ!」
「ダニエル! インベル様とルシファー様に失礼だ!」
「俺たちは学年が違って剣術の授業が一緒になることはないんだから仕方ないだろう?」
「そういうのはせめて学校が始まってからにしてください!」
ダニエルは大丈夫だろうか? 俺は模擬戦を申し込まれたインベルよりもダニエルの方を心配してしまう。
だって、インベルは恐ろしく強いことを知っているから。
セバスチャンがインベルの教育を始めてから知ったことだが、セバスチャンは俺や母上の護衛も兼ねていたそうで、騎士たちとも剣を交えることができるほど強いらしい。
体術ならば屋敷で一番強いのではないかと騎士団長が語っていた。
そんなセバスチャンに指導を受けていたインベルだが、セバスチャン曰く、あっという間にセバスチャンの実力を超えて、早々に騎士たちに混ざっての訓練になったそうだ。
俺が読書や勉強をしている間にインベルは訓練を受けていたようで、訓練の様子を見たことはないのだが、騎士団長が認めるセバスチャンが自分の実力を超えると言ったのだから、かなり強いことに間違いはないだろう。
あなたにおすすめの小説
転生したら最強辺境伯に拾われました
マンスーン
BL
現代日本人・東堂裕太が目を覚ますと、そこは異世界。クズな婚約者に魔力を限界まで搾取され、ボロボロになって森に捨てられる悲惨な青年・ルカに転生していた。
死を覚悟した裕太だったが、そんな彼を拾い上げたのは、帝国最強の武力を誇り「氷の死神」と恐れられる辺境伯・ラーク。
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/数日おきに予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
過労で倒れかけの騎士団長を「カツ丼」で救ったら、なぜか溺愛され始めました。
水凪しおん
BL
王都の下町で、亡き両親が残した小さな食堂をたった一人で切り盛りする青年、ルカ。
孤独な日々の中で料理だけを生きがいにする彼の店に、ある冷たい雨の夜、全身を濡らし極限まで疲弊した若き騎士団長、レオンハルトが倒れ込むようにやってきた。
固形物さえ受け付けないほど疲労困憊の彼を救うため、ルカが工夫を凝らして生み出したのは、異世界の食材を組み合わせた黄金色の絶品料理「カツ丼」だった。
その圧倒的な美味しさと温もりに心身ともに救われたレオンハルトは、ルカの料理と彼自身に深く魅了され、足繁く店に通うようになる。
カツ丼の噂はまたたく間に王都の騎士たちや人々の間に広がり、食堂は大繁盛。
しかし、その人気を妬む大商会の悪意ある圧力がルカを襲う。
愛する人の居場所を守るため、レオンハルトは権力を振るって不正を暴き、ルカもまた自らの足で立つために「ルカ商会」を設立する決意を固める。
美味しいご飯が傷ついた心を癒やし、やがて二人の絆を「永遠の伴侶」へと変えていく。
胃袋から始まり、下町の小さな食堂から王都の食を支える大商会へと成り上がる、心温まる異世界お料理&溺愛ファンタジー!
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた
さ
BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。
断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。
ーーそれなのに。
婚約者に婚約は破棄され、
気づけば断罪寸前の立場に。
しかも理由もわからないまま、
何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。
※最終的にハッピーエンド
※愛され悪役令息