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やっと、おそらくこの子がヒロインだろうという男爵令嬢を見つけた俺はそれからというもの、彼女が話しかけてこようとするたびに無視したり、彼女が他の女生徒たちに「施しは不要!」と口喧嘩していた日の夜には、寮の食堂で彼女のテーブルにデザートをおいたりした。
施しが不要ならば、きっと俺の行為は腹立たしいものだっただろう。本当は宝石などのもっと高価なものを施そうと思ったのだが、それだと俺が彼女に好意があると勘違いされる可能性があるとインベルに注意されたのでやめておいた。
ちなみに、それなら何を施せばいいと思う? と聞いた俺に、食堂で出されるデザートならば問題ないでしょうと言ったのもインベルだ。
その後も、俺は俺なりに男爵令嬢のイジメを頑張った。
いつも一人でいたがる彼女にまだ習っていない算術の問題を出して困らせたりした。これはかなりうざかったと思う。
そんな日常を繰り返していたある日、テンパスに生徒会室に呼ばれた。
「最近、ルシファー様はコレット伯爵令嬢と親しいようですね」
「伯爵令嬢?」と、俺は首を傾げた。
「誰のことだろう?」
テンパスが困惑したような表情を見せる。
「ルシファー様が自分から声をかける伯爵令嬢がいると、マルローから聞いています。他の生徒たちも噂していましたよ」
「俺が自分から声をかけているのは男爵令嬢だと思うのだが? クラスメイトが彼女に男爵令嬢だと言っていたのだが?」
俺の言葉にテンパスは「ああ」と納得したようだった。
「コレット伯爵令嬢は親戚の男爵家から養子縁組されたからでしょうか?」
またしても俺は首を傾げることになった。
それから、しばらくテンパスの言葉の意味を考えて、インベルを見た。インベルの表情は全て知っていて、俺を放置していたことがわかる。
「インベル! どうして俺を止めてくれなかったんだ!」
「勘違いしているルシファー様は可愛かったものですから」
「冗談を言っている場合じゃない! 伯爵令嬢に謝らないと!」
「あの、謝る必要はないと思います」
テンパスの言葉にマルローが頷く。
「コレット伯爵令嬢はルシファー様にとても感謝しています!」
「……感謝?」
あんなに一生懸命いじめていたのに、なぜ?
「コレット伯爵令嬢は自分を守るためにルシファー様はわざと自分に厳しいのだと言っていました! 僕は最初、ルシファー様が意地悪しているのかと思って心配しましたが、そういうことだったんだと感心したのです! ルシファー様はわざとコレット伯爵令嬢に厳しい態度をとることで、ラザナスたちが意地悪しないようにしていたんですね!」
俺は一生懸命、いじめていたのに、そんな誤解が生じていたなんて……
「ラザナスは彼女を男爵令嬢と呼んでいたのだが、伯爵令嬢が養子だったからなのか……」
「ああ、彼ですか? 彼は本来の爵位ではなく、その家の資産で相手の家の価値を決めて、勝手なルールで貴族の尊厳を踏み躙る意地の悪い男です。コレット伯爵令嬢が養子であることに加え、コレット家は現在、新しいドレスを仕立てるのも苦労するような状況です。ラザナスは元は平民だった父方の血筋の強化のためにコレット伯爵令嬢と結婚したいようですよ」
「結婚したい相手をいじめるというのが意味がわからないのだが……」
「伯爵家とは名ばかりなのだから、自分と結婚したらいい……そういうつもりだったのではないですか?」
俺は目眩を覚えた。
「いや、待ってくれ、俺もそういう意図だと思われて……」
「ないですよ。公爵家が伯爵家を婚姻相手には選ばないということはみんなわかっています。ただ彼女を守るためにルシファー様がそのように動かれていたのだと、ラザナス以外は理解しています。だから、最近は他の令嬢たちもコレット伯爵令嬢のことを庇っているのです。彼女を無視してルシファー様に嫌われるより、その方が得ですから」
「それで」と、ダニエルが俺に怪訝な眼差しを向けてきた。
「あんたはどうしてそんなに青い顔をしているんだ?」
「それは……」
勘違いで令嬢をいじめていた挙句に、彼女にとってはその方が都合が良いために弁解して謝ることもできず、さらにいじめを続ける必要があること、本来のヒロインがいまだに誰かわかっていないということなどなど、どうしたら良いのかわからない状況だからだ。
俺がどう答えるべきか迷っていると、インベルが俺を背中に庇うように俺の前に立った。
「ルシファー様はご自身の行いを過小評価されるところがあり、今回も令嬢にそれほど感謝されるようなことをしていたつもりがなかったために驚かれたようです」
ダニエルは呆れたような表情を見せた。
「この先、公爵家として貴族たちをまとめていかなければいけない奴がそんなに貴族の感情を読むのが下手でどうするんだ?」
「ダニエル! 失礼ですよ!」
「いや、その通りだ」
ダニエルに注意するテンパスに俺は気にしていないと伝える。ダニエルの指摘はいつも痛いところをついてくる。
いじめるべきヒロインは誰なのかわからないし、勘違いで他の令嬢をいじめてしまうし、さて、どうしたものかと考えていると、「ちょっといい加減にしなさいよ!」という女生徒たちの声が聞こえた。
声の方を見ると、コレット伯爵令嬢をクラリスをはじめとした令嬢たちが庇うように立ち、ラザナスたちと対峙していた。
ラザナスと対峙して言い合いをしている令嬢たちだったが、その何人かは俺の方へとチラチラと視線を向けていた。
「……インベル、あれはどうするのが正解だと思う?」
もうどう振る舞うのが正解なのかわからずに俺は聞いた。
「以前、ラザナスに、あの令嬢には手を出さないように注意したにも関わらず、またあのように絡んでいるのですから、再度注意しても問題ないと思います。いじめる対象を勘違いしていたことも修正できるでしょう」
ラザナスがニヤニヤと笑い、令嬢を見下ろしている。
俺はインベルの助言に従って席を立ち、大股で彼女たちの元へ行くと、伯爵令嬢の前に立つ。
「ルシファー様?」
コレット伯爵令嬢の声が背中に響くが、それには振り返らずに俺は自分より背の低いラザナスを正面から見下ろす。
「ラザナス、この令嬢は俺の獲物だから手を出すなと言ったはずだが?」
ラザナスは不服そうな視線を俺に向けた。
「ルシファー様のやり方では生ぬるいから、手本を見せて差し上げているのです」
「そんな態度ではモテないと思うが?」
俺の言葉にラザナスは顔を赤くした。
「な、何を言っているのですか!?」
ラザナスは同等の地位の相手と結婚したいと聞いている。この学園にはコレット伯爵令嬢以外にも伯爵令嬢はいるにも関わらず、コレット伯爵令嬢に対してはやけにしつこい。
「俺には、お前がコレット伯爵令嬢に懸想をしているように見えるのだが?」
「そ、そんなわけないでしょう!」
そう否定したラザナスの声に被さるように、コレット伯爵令嬢が叫んだ。
「そんなことはございません! その方が好きなのはルシファー様ですわ!」
……なんて?
俺は思わず後ろを振り返り、コレット伯爵令嬢を見てしまった。彼女はやけに自信がありそうな表情をしている。そして、彼女を取り囲む他の令嬢も同様の表情で、さらには何度も頷いていた。
「そんなことあるわけないだろ!」
そうラザナスも慌てて否定している。その顔は真っ赤だ。
「えっ……と……」
俺はそっとインベルを見た。そして、視線で助けを求めた。
なぜか、インベルはとても笑顔だったが、その笑顔の裏には苛立ちが見えた。情けない主人に呆れているのかもしれない。
インベルが俺の前に立って、軌道修正を図ってくれた。
「ハイヤー伯爵令息、これ以上、ルシファー様に関わるのをやめていただけますか?」
そう言って、インベルは制服のポケットの中からキャンディーを一つ取り出して、ラザナスとその取り巻きの令息たちの前で揺らして見せた。
次の瞬間、彼らは見るからに顔を青くして震え出した。
「お、お前、それ……」
「お解りになりましたか? 私は、いつでも、あなた方のことを粉々にできるんですよ」
彼らの怯えようはよくわからなかったが、インベルがなんだか怖いことを言っていることはわかった。これなら、俺が悪役になっても、インベルの主人だからと納得してもらえるだろうか?
まだゲームのヒロインとヒーローの特定もできていないけれど、悪役ってすごく難しいな。ヒロインとヒーローに対して悪役でいるために、常に悪役でいなければいけないとか、ハードル高すぎではないだろうか?
施しが不要ならば、きっと俺の行為は腹立たしいものだっただろう。本当は宝石などのもっと高価なものを施そうと思ったのだが、それだと俺が彼女に好意があると勘違いされる可能性があるとインベルに注意されたのでやめておいた。
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その後も、俺は俺なりに男爵令嬢のイジメを頑張った。
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そんな日常を繰り返していたある日、テンパスに生徒会室に呼ばれた。
「最近、ルシファー様はコレット伯爵令嬢と親しいようですね」
「伯爵令嬢?」と、俺は首を傾げた。
「誰のことだろう?」
テンパスが困惑したような表情を見せる。
「ルシファー様が自分から声をかける伯爵令嬢がいると、マルローから聞いています。他の生徒たちも噂していましたよ」
「俺が自分から声をかけているのは男爵令嬢だと思うのだが? クラスメイトが彼女に男爵令嬢だと言っていたのだが?」
俺の言葉にテンパスは「ああ」と納得したようだった。
「コレット伯爵令嬢は親戚の男爵家から養子縁組されたからでしょうか?」
またしても俺は首を傾げることになった。
それから、しばらくテンパスの言葉の意味を考えて、インベルを見た。インベルの表情は全て知っていて、俺を放置していたことがわかる。
「インベル! どうして俺を止めてくれなかったんだ!」
「勘違いしているルシファー様は可愛かったものですから」
「冗談を言っている場合じゃない! 伯爵令嬢に謝らないと!」
「あの、謝る必要はないと思います」
テンパスの言葉にマルローが頷く。
「コレット伯爵令嬢はルシファー様にとても感謝しています!」
「……感謝?」
あんなに一生懸命いじめていたのに、なぜ?
「コレット伯爵令嬢は自分を守るためにルシファー様はわざと自分に厳しいのだと言っていました! 僕は最初、ルシファー様が意地悪しているのかと思って心配しましたが、そういうことだったんだと感心したのです! ルシファー様はわざとコレット伯爵令嬢に厳しい態度をとることで、ラザナスたちが意地悪しないようにしていたんですね!」
俺は一生懸命、いじめていたのに、そんな誤解が生じていたなんて……
「ラザナスは彼女を男爵令嬢と呼んでいたのだが、伯爵令嬢が養子だったからなのか……」
「ああ、彼ですか? 彼は本来の爵位ではなく、その家の資産で相手の家の価値を決めて、勝手なルールで貴族の尊厳を踏み躙る意地の悪い男です。コレット伯爵令嬢が養子であることに加え、コレット家は現在、新しいドレスを仕立てるのも苦労するような状況です。ラザナスは元は平民だった父方の血筋の強化のためにコレット伯爵令嬢と結婚したいようですよ」
「結婚したい相手をいじめるというのが意味がわからないのだが……」
「伯爵家とは名ばかりなのだから、自分と結婚したらいい……そういうつもりだったのではないですか?」
俺は目眩を覚えた。
「いや、待ってくれ、俺もそういう意図だと思われて……」
「ないですよ。公爵家が伯爵家を婚姻相手には選ばないということはみんなわかっています。ただ彼女を守るためにルシファー様がそのように動かれていたのだと、ラザナス以外は理解しています。だから、最近は他の令嬢たちもコレット伯爵令嬢のことを庇っているのです。彼女を無視してルシファー様に嫌われるより、その方が得ですから」
「それで」と、ダニエルが俺に怪訝な眼差しを向けてきた。
「あんたはどうしてそんなに青い顔をしているんだ?」
「それは……」
勘違いで令嬢をいじめていた挙句に、彼女にとってはその方が都合が良いために弁解して謝ることもできず、さらにいじめを続ける必要があること、本来のヒロインがいまだに誰かわかっていないということなどなど、どうしたら良いのかわからない状況だからだ。
俺がどう答えるべきか迷っていると、インベルが俺を背中に庇うように俺の前に立った。
「ルシファー様はご自身の行いを過小評価されるところがあり、今回も令嬢にそれほど感謝されるようなことをしていたつもりがなかったために驚かれたようです」
ダニエルは呆れたような表情を見せた。
「この先、公爵家として貴族たちをまとめていかなければいけない奴がそんなに貴族の感情を読むのが下手でどうするんだ?」
「ダニエル! 失礼ですよ!」
「いや、その通りだ」
ダニエルに注意するテンパスに俺は気にしていないと伝える。ダニエルの指摘はいつも痛いところをついてくる。
いじめるべきヒロインは誰なのかわからないし、勘違いで他の令嬢をいじめてしまうし、さて、どうしたものかと考えていると、「ちょっといい加減にしなさいよ!」という女生徒たちの声が聞こえた。
声の方を見ると、コレット伯爵令嬢をクラリスをはじめとした令嬢たちが庇うように立ち、ラザナスたちと対峙していた。
ラザナスと対峙して言い合いをしている令嬢たちだったが、その何人かは俺の方へとチラチラと視線を向けていた。
「……インベル、あれはどうするのが正解だと思う?」
もうどう振る舞うのが正解なのかわからずに俺は聞いた。
「以前、ラザナスに、あの令嬢には手を出さないように注意したにも関わらず、またあのように絡んでいるのですから、再度注意しても問題ないと思います。いじめる対象を勘違いしていたことも修正できるでしょう」
ラザナスがニヤニヤと笑い、令嬢を見下ろしている。
俺はインベルの助言に従って席を立ち、大股で彼女たちの元へ行くと、伯爵令嬢の前に立つ。
「ルシファー様?」
コレット伯爵令嬢の声が背中に響くが、それには振り返らずに俺は自分より背の低いラザナスを正面から見下ろす。
「ラザナス、この令嬢は俺の獲物だから手を出すなと言ったはずだが?」
ラザナスは不服そうな視線を俺に向けた。
「ルシファー様のやり方では生ぬるいから、手本を見せて差し上げているのです」
「そんな態度ではモテないと思うが?」
俺の言葉にラザナスは顔を赤くした。
「な、何を言っているのですか!?」
ラザナスは同等の地位の相手と結婚したいと聞いている。この学園にはコレット伯爵令嬢以外にも伯爵令嬢はいるにも関わらず、コレット伯爵令嬢に対してはやけにしつこい。
「俺には、お前がコレット伯爵令嬢に懸想をしているように見えるのだが?」
「そ、そんなわけないでしょう!」
そう否定したラザナスの声に被さるように、コレット伯爵令嬢が叫んだ。
「そんなことはございません! その方が好きなのはルシファー様ですわ!」
……なんて?
俺は思わず後ろを振り返り、コレット伯爵令嬢を見てしまった。彼女はやけに自信がありそうな表情をしている。そして、彼女を取り囲む他の令嬢も同様の表情で、さらには何度も頷いていた。
「そんなことあるわけないだろ!」
そうラザナスも慌てて否定している。その顔は真っ赤だ。
「えっ……と……」
俺はそっとインベルを見た。そして、視線で助けを求めた。
なぜか、インベルはとても笑顔だったが、その笑顔の裏には苛立ちが見えた。情けない主人に呆れているのかもしれない。
インベルが俺の前に立って、軌道修正を図ってくれた。
「ハイヤー伯爵令息、これ以上、ルシファー様に関わるのをやめていただけますか?」
そう言って、インベルは制服のポケットの中からキャンディーを一つ取り出して、ラザナスとその取り巻きの令息たちの前で揺らして見せた。
次の瞬間、彼らは見るからに顔を青くして震え出した。
「お、お前、それ……」
「お解りになりましたか? 私は、いつでも、あなた方のことを粉々にできるんですよ」
彼らの怯えようはよくわからなかったが、インベルがなんだか怖いことを言っていることはわかった。これなら、俺が悪役になっても、インベルの主人だからと納得してもらえるだろうか?
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