【第二部開始】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ

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「やはり、ルシファー様に悪役は難しいというか、無理ですね」
 
 寮の部屋に戻ってきた俺にインベルがにこりと笑った。それは皮肉な笑みではなく、本当に機嫌が良さそうだった。
 
「不器用な主人の失敗が面白かったのか?」
「いえ、これでルシファー様が悪役になろうなどと無理はされないだろうと思いまして」
「でも、インベルにばかり悪役を任せておくわけにはいかないだろう? 俺だって、少しくらいはそれらしくしないと」 
「悪役らしく、みんなに冷たく接して、でも、貴族の矜持に反した行いを見た時には、今日のように令嬢を庇われるのですか? ツンデレですか? ツンデレの悪役がどこにいますか?」
 
 なぜ、インベルがツンデレなんて言葉を知っているのだろうか? この世界にもツンデレという概念が存在するのだろうか?
 そういえば、令嬢たちはよくわからない造語をよく使っているから、もしかすると存在するのかもしれない。
 
 最近聞いた、令嬢たちの造語は、インルシだ。
 令嬢たちに聞いても意味を教えてくれなかったし、廊下で出会ったテンパスに聞いてもそんな言葉は知らないとはぐらかされた。
 あの爽やかな笑顔はきっと言葉の意味を知っていると思う。しかし、俺には知らせるべきではないと考えているようだった。
 ダニエルにも聞こうかと思ったが、すぐに視線を逸らされてしまった。
 
 
 
「インベル! 今日こそは逃げられないぞ!」
 
 ダニエルがインベルに剣先を向ける。
 
「別にこれまでも逃げたことなどありませんが?」
「いつも忙しいと俺との勝負を避けていただろう?」
「実際、ルシファー様のお世話で忙しいので、あなたの相手などしている時間がないだけです」
 
 今は剣術の授業。いつも勝負をインベルに断られているダニエルが学年を巻き込んで、三年生と一年生合同の授業時間を設けたようだ。
 
「ルシファー様、すみません。ダニエルが無茶を言って」
「いや……講師の先生も止める気がないようだし、仕方ないと思う」
 
 テンパスが謝ってくるが、ダニエルに説得されたらしい先生も興味津々で二人の様子を見ているのだから仕方ないだろう。
 
「この学園で一二を争う二人の対戦だ。みんなの参考にもなるだろう」
 
 そうしてその場は授業というよりは、ダニエルとインベルの模擬戦になってしまったのだ。
 
「はじめ!」
 
 講師による開始の声があった瞬間、ダニエルが鋭く踏み込んだ。
 切先がインベルの顔の横を通り、俺の隣では「ピャッ!」とマルローが妙な悲鳴をあげて俺の服の裾を摘んだ。
 
「あ! すみません!」
 
 すぐにマルローは俺から離れたが、俺はマルローに微笑みかけた。マルローはダニエルの異母兄弟だがその性格は正反対で、非常に優しい少年だ。こうした戦いを見るのは苦手なのだろう。
 
「マルロー、良かったら試合の間、腕を貸そうか? 見たくないシーンになったらしがみついていたらいい」
 
 そう言うと、マルローは恐る恐る俺の腕に手を触れて、身を寄せた。「ありがとうございます」と言ったその頬は少し赤くなっていた。
 マルローは非常に弟らしい弟で、お兄ちゃん気質の俺の庇護欲をそそるのだ。
 
「私は学年が違いますから、ルシファー様のことはマルローや他の生徒たちから話を聞くだけでしたが……なるほど、確かにすごい人たらし能力ですね」
 
 隣でテンパスがよくわからないことを言っている。
 
「避けてばかりでどうしたインベル! アエネイアス公爵に伝わる剣術とはそんなものではないだろう!?」
 
 動きを止めることなく切り掛かるダニエルの剣を、インベルは避け続けている。
 
「いつまでも本気を出さないのなら、これで終いだ!」
 
 剣を振りかぶり、大きく一歩踏み込もうとしたダニエルだったが、次の瞬間、何かに気づいたように後ろに飛び退いた。
 しかし、その時にはもう遅かった。インベルの剣がダニエルの首筋に当てられていた。
 
「打ち合うよりも、一度の隙を狙ったほうが早く終わります。アエネイアス公爵家の剣術を披露するまでもない」
 
 インベルはそれだけ言うと、剣を鞘に戻して俺のほうへと駆け寄ってきた。そして、いつの間にか俺の腕に完全にしがみついて震えていたマルローを無造作に引き剥がした。
 
「ルシファー様、勝ちました!」
「ああ。おつかれさま」
「それだけですか? もっと喜んでくださると思ったのに」
「インベルが勝ったのは嬉しいけど、インベルが勝つのはわかっていたし、当然の結果だろう?」
 
 わかりきっていた当然の結果なのに、狂喜乱舞はしないだろう。
 俺の言葉にインベルは満足そうだ。
 
「ルシファー様の人たらし能力も誰も並べそうにないですね」
 
 テンパスがまたよくわからないことを言っている。
 
 
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