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「ねぇ、どうして、みんな、今日も集まっているのよ?」
そうため息混じりに言ったのは大地の神 レアだった。
俺が聖女召喚されてからもうひと月が経つ。
その間に全ての神々と会い、神々の加護は寵愛へと変化して、俺の手首にあった七色の印はそれぞれ模様を広げて今では手首に巻き付くように描かれた刺青のようになっている。
「仕方ないだろう? レンの純粋な魂の煌めきは我々神にさえ安らぎを与えてくれるのだから」
そう言ったのは水の神、オケアノスだ。オケアノスはフラウィアンに並ぶほどの美形だ。
……いや、この場合、神と並ぶほどの美形であるフラウィアンがすごいのだろう。
「ああ。レンの傍は心が安らぐのだ」
そう言って俺の肩を抱き寄せたのは火の神 ヘパイストスだ。
「ヘパイストスは心が安らいじゃダメじゃない? 火の神の性質として、それでいいの? 鎮火の神とかになっちゃわない?」
そう皮肉を言っているのは少年の姿をした風の神 アイオロスだ。
アイオロスはジェラルドに似たところがあり、以前にそれを話したところ、ジェラルドはアイオロスにとってお気に入りの人間なのだそうだ。
「ところでレン、フラウィアンとの仲は進展している?」
そんなことを聞いてきたのは、まさにフラウィアンと婚約するきっかけになった純潔の神 フォルトゥーナだ。
フォルトゥーナは十代半ばの清純な少女の見た目をしている。
しかし、その話し方は非常に成熟し、見た目とのギャップを感じさせた。
「わたくしも恋バナが聞きたいわ!」
光の神 ティアが期待に瞳を煌めかせた。
ティアはフォルトゥーナよりもさらに幼い少女の姿をした神ではあるが、愛や恋などの話が好きで、俺とフラウィアンの関係を進展させようとしているのか、無邪気に俺に触れては神聖力で俺を酩酊させて、フラウィアンに迷惑をかけるのもこの神だった。
俺は光の神 ティアが急に抱きついてこないように慎重に距離を取り、神々の中では一番物静かで冷静な闇の神 エレボスの隣に避難した。
「フラウィアンとは婚約者として適切な関係を保ち、お付き合いさせていただいております」
ティアが私に触れるたびに酩酊状態になってしまうために、これまで何度もフラウィアンには口付けられ、この前など、肌に直接触れられてしまったから、清く正しくとまでは言えないかもしれないけれど……
そんな話をこの場でする気などないし、そもそも神々は我々のことを勝手に覗き見ているはずなのだ。
わざわざ言葉にする必要はないだろう。
「フラウィアンに熱烈にキスされて、あの大きな手で背中を撫でられていたわよね? そういう話をレンの口から直接聞きたいのに!」
「ティ、ティア様は可愛らしいお姿をしているのに、そのようなお話をされて、恥ずかしくはないのですか?」
俺の頬はへパイストスの火にでも焼かれたかのように熱いというのに!
「恥ずかしくないわ。愛や恋がなければ、生物などあっという間にこの地にいなくなってしまうもの。ふれあいは神には必要ないけれど、生物たちにとっては尊い営みじゃない?」
品性のかけらもない幼女神かと思っていたが、そういうわけではなさそうだ。
「だから、さっさとやることやって、フラウィアンをどろどろに溺れさせたらいいと思うわ!」
いや、やはり、品性のかけらもない神だった。
だんだん、幼女の姿も小悪魔に見えてきたな。
「ティア、フラウィアンは純粋な子よ。邪な目で見るのはやめてちょうだい」
フラウィアンがお気に入りだという純潔の神 フォルトゥーナがティアを諌めた。
「あの、フォルトゥーナ様はお気に入りのフラウィアンには純潔のままでいてほしいのではないですか?」
ティアほどに露骨ではないものの、フォルトゥーナも会えば必ずフラウィアンとの進展を聞いてくる。
「もしや、結婚しても、清い関係を保てばいいということですか?」
フォルトゥーナは純潔の神だ。
もしかすると、プラトニックな関係を求めているのかもしれない。
しかし、だとすると、無闇に俺たちの関係を進展させようとすることは危険だ。
最初のキスだって、王子はその目に熱を持っていたけれど、今では俺を落ち着かせるためだけではなく、それ以上に、一緒に神聖力に当てられてしまったかのように吐息を熱くするのだ。
以前、フラウィアンの父親である聖王から婚前交渉は禁じられているというようなことを残念そうに言っていたから、フォルトゥーナが望むように俺たちの関係が進展して結婚してしまえば、プラトニックな関係は保てないだろう。
「別段、プラトニックな関係を望んでいるというわけではないわ。ティアのように淫らな関係を薦めるつもりはないけれど、二人が思い合っているのならば、肉体的な関係を持ったところでレンの魂もフラウィアンの魂も汚れることはないもの」
「それに」とフォルトゥーナの言葉は続く。
「今のフラウィアンが心の奥に押さえつけている劣情の方が危険だわ」
劣情とか、純粋無垢な少女の姿の神様からは聞きたくなかった。
それに、フラウィアンがそうしたものを心に秘めているということも知りたくなかった……
決して、それで軽蔑したりはしないけれど、恥ずかしいし、気まずい。
「今日のところはもう帰るといい。神域にいるだけで、其方の中には神聖力が溜まってしまうだろう?」
闇の神 エレボスの言葉に俺はホッと息をつき、エレボスに微笑んでお礼を伝えた。
「お心遣い、ありがとうございます」
すると、エレボスも珍しくその口元を綻ばせて、俺の頭を撫でた。
「エレボス様……」
初めてエレボスにそうして触れられて俺は驚いた。
そして、次の瞬間には神聖力が体内に溜まりすぎて、またしても酩酊状態になってしまった。
それも、いつもよりも酷い気がする。
「すまない!」とエレボスは慌てて俺の頭から手を離してくれたがもう遅かった。
次の瞬間には神域から礼拝堂の中に戻されたが、俺は立っていられる状態ではなく、その場にへたり込んでしまった。
「レン!」
いつも通りに礼拝堂の中で待ってくれていたフラウィアンが俺に駆け寄り、俺の体を支えてくれた。
「大丈夫ですか!?」
「フラウィアン……」
なんとか彼の名前を呼んだけれど、それ以上話すことはできなくて、俺は意識を手放した。
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