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熱い。体が焼けるようだ。特に、腹の奥が、硬く熱を持ったもので満たされている。
「ん……あ……」
体は重く、自分の意思では動かせない。
お腹の中が苦しくて、必死に息を吸おうと開けた口から声が勝手に漏れる。
その口を熱い吐息で塞がれて、その吐息が声になって耳に届く。
「好きです。レン……」
その声がフラウィアンのものだとすぐにわかる。
なぜかって、この世界に来てから一番よく聞いている声だったし、こんなにも間近で聞く甘い声は彼のものしか知らないからだ。
「好きです。好きです……」
いつもよりも切なくて、必死な声に、俺は薄目を開けた。
「……フラ、ウィアン?」
「レン!」
フラウィアンが俺の体を抱きしめると、腹の奥に熱く硬いものが当たった。
「あぁっ!」
苦しいのに、フラウィアンの肌が気持ちよくて、安心して、フラウィアンの涙の理由を聞いてあげたいのに、俺の瞼は重くて、再び閉じてしまった。
そして、フラウィアンが傍にいてくれる安心感から、俺の意識は深く深く沈んでいく。
意識が深く沈む途中、耳に熱い息がかかり、フラウィアンの声が聞こえた。
「許してください。レン」
一体、何を許すというのだろうか?
何を恐れているのか知らないけれど、大丈夫だから、どうか泣かないでほしい。
どうか、いつもの優しい瞳で笑ってほしい。
そして、嘘でもいいから、また言ってほしい。
―― 好きだと。
しかし、俺が目を覚ました時に傍にいてくれたのはフラウィアンではなく、聖王だった。
フラウィアンをそのまま年を取らせたらこうなるだろうというイケオジが礼拝室の簡易ベッドに横になっていた俺の傍にいて驚いた。
聖王とは初めて顔を合わせたが、あまりにもフラウィアンに似ているから、間違いないだろう。
「目が覚めたか?」
「はい……聖王様、ですよね?」
「ああ」とイケオジは穏やかな表情で頷いた。
それから、聖王は俺に向かって頭を下げた。
「この度は、フラウィアンが聖女様に非礼を働き、申し訳ない」
聖王はそう深く頭を下げたが、俺にはなんのことを言っているのかわからず、困惑した。
「あの、俺は、フラウィアンにとてもよくしてもらっています。非礼など、全く身に覚えがないのですが?」
「それが、フラウィアンはまだ聖女様とは婚約中であり、婚姻の日取りも決まっていないにもかかわらず……その……」
聖王は俺から視線を逸らして、小声で言った。
「最後までしてしまったと……」
聖王の言葉に、俺はフリーズした。
言われてみれば、お尻には違和感があり、腰はだるくてちょっと痛いし……うっすらと記憶もある……
「え……あれ、夢じゃ……」
「愚息が言うには、聖女様は神々の神聖力に当てられて意識を失い、早急に神聖力を中和する必要があったと……」
「そ、そうですか……」
ねぇ、その話、聖王から聞かないとだめ?
いつもそうした状況で迷惑をかけているフラウィアンからなら介抱の報告として聞けるけど……
関係を持った相手の父親から聞くにはちょっと耐え難いのだが?
おそらく、今の俺の顔は、これ以上ないくらいに赤くなっているのではないだろうか?
「しかし、正式な婚姻前でもあり、意識のない者に行うべきことではなかったと……」
「いえ、助けてもらったのですから、そんな……」
いたたまれない。
この話、初めて顔を合わせた王様とするべき話なのだろうか?
「あの、それで、フラウィアンはどこに?」
「聖女様に無体を働いた罰として、部屋で謹慎しております」
俺は聖王のその報告に驚いた。
「どうしてですか!? フラウィアンは俺を助けてくれただけで悪くありません!」
「しかし、純潔の神からの加護を持っておられる聖女様の純潔を許可もなく、婚姻という正式な誓いもなく奪うことは、罪なのです」
「それならば、今すぐにフラウィアンと結婚します!」
聖王は驚いたようで、俺の顔を凝視した。
「フラウィアンは純潔の神のお気に入りです! 純潔の神は毎回、俺にフラウィアンとの進展を聞いてくるくらいに、俺たちが一緒になることを望んでいました!」
これは嘘ではない。
「そんなフラウィアンが罰を受ける必要はありません!」
俺はベッドから降りると部屋の扉へと向かった。
ちなみに、体は綺麗にされており、服も清潔なものに着替えさせられていた。
おそらく、フラウィアンがそこまでしていってくれたのだろう。
まめな王子である。
「聖女様! どこに行くのだ?」
「フラウィアンを迎えに行きます!」
俺は聖王の静止の声も聞かずに礼拝室を出て、扉の前で控えていた護衛騎士にフラウィアンの部屋までの案内を頼んだ。
すると、いつもは表情が乏しい護衛騎士の表情が見るからに明るいものになり、「わかりました!」と彼にしては明るい声を出した。
俺を本当に引き止めたいのであれば、聖王も無理やり止めることもできるだろうに、聖女の俺には触れないように気をつけているようだった。
わざわざ俺に会いに来たのも今日が初めてだったし、逆に俺が聖王に挨拶するために王宮に呼ばれることもなかった。
以前、フラウィアンに、聖王に謁見して挨拶する必要はないのかと聞いたら、この国を統べるのは神々であるから、神々の使徒である俺が聖王に挨拶に行くというのは不要であり、逆に聖王が聖女にわざわざ会いにくるというのも聖王の威厳を保つためには難しいことなのだと言っていた。
この国の聖王というのはなかなかに微妙な立場にあるようだ。
いつもなら、そんな聖王の立場を汲んで、俺が王宮に立ち入ることなどしないが、今は状況が違う。
俺を助けてくれたフラウィアンが罰を受けているなど納得できなかった。
「聖女様、こちらです」
護衛騎士が案内してくれた王宮内の一室に辿り着いた。
部屋の前の騎士たちは俺の姿を見て明らかに動揺しており、その目で護衛騎士に説明を求めていた。
しかし、詳しく彼らに説明をしている時間が惜しく、俺はずんずんと扉の前まで進んだ。
聖王さえも俺に触れることをためらっていたから、おそらく他の騎士たちも触れないと思ったが、案の定、彼らは俺をどのように扱っていいのか戸惑っていた。
その戸惑いの間に、俺は早々に扉を開く。
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