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「あの、俺も一緒に行ってもいいですか?」
虚空のダンジョンに入る手前で声をかけてきた青年がいた。
初見の相手、それも一緒にダンジョンに入りたいという相手のことを鑑定するのは一般的なことで、俺も、レッドバードのメンバーもすぐには彼に返答を返さなかったから、みんな、彼を鑑定していたのだろう。
そして、俺もレッドバードのメンバーも彼のステータスに驚いた。
「あなた、レベル1じゃないですか!? 初心者なのに、こんなところまで来ちゃったんですか?」
レッドバードの魔法使い、ミコトが言った。
「でも、レベル1でこんなところまで来れるのか?」
レッドバードの盾役のゴートンが渋い声で言う。
「もしかして、隠しルートがあったとか?」
「いや、だとしても、ダンジョン内部に入った瞬間に死亡確定だろ?」
ミルルとアレクも言葉を続けた。
レッドバードたちの面々が騒ぎ出す。
俺はもしやと思って、レベル1の初心者の彼にフレンド申請をした。
すぐに申請が承認される。
これで内緒で会話することが可能だ。
表示された名前はタクト。
その名前に、俺は少しどきりとする。
秘書課の後輩と同じ名前だったからだ。
まさか、彼が? と思ったが、そんなわけはないと気を取り直してタクトに話しかけた。
ナオキ:もしかして、運営の人ですか?
個別チャット用のウィンドウが開くが、相手からの返事はない。
顔を見ると、一瞬だけ視線が合い、慌てたように逸らされた。
ナオキ:これはズルですよ? 運営側としてプレイヤーの調査がしたいなら、始まりの街でも十分プレイヤーの方々の様子は窺えるはずです。プレイヤーの皆さんと同じ目線で、しっかりとゲームを体験するべきじゃないですか?
タクト:あなたも、同業者の方ですか?
今度は、俺の方が思わず黙った。
タクト:すごく的確なアドバイスなので
ナオキ:い、いえ、これくらいはゲームが好きなら、普通に考えることです!
俺はわざとらしく咳払いした。
「このダンジョンは初心者には危険ですから、始まりの街から出直した方がいいですよ」
俺とレッドバードのメンバーは、タクトに始まりの街でレベルを上げてから、他の街や国も周り、順当にレベル上げをした方がいいとアドバイスをして、ダンジョン内への同行は断った。
自衛できない者と一緒にダンジョンに入るなど自殺行為だ。
自分も、レベルの低い相手も殺すことになってしまう。
レッドバードのメンバーと一緒にダンジョン内に入ると、すぐに俺たちはワープポイントへ向かった。
一度行ったことがある階層なら、このワープポイントでそこへすぐに移動できるのだ。
そして、俺たちは目的の50層まで飛んだ。
ナオキ:……ミルル、何も言わないでいてくれてありがとう
50層の魔物を倒しながら、不死鳥の羽を探しながら歩く。
不死鳥を探して倒せばいいのだが、古くなって抜けて落ちている羽でも問題ないと依頼書にはあったし、不死鳥を倒すためにはかなりの労力を使うことになる。本来の目的は50層の魔物を倒して得られる素材で、依頼はついでなので、あまりHPを減らすようなことはしたくない。
ミルル:ちょっと、せっかく何も言わないでいたのに、あんたから話題に出すの?
ミルルはアパレル会社を運営しているリアルの友人だ。
きっと、俺の長年の片想い相手……御子柴 朝陽(みこしば あさひ)からも連絡をもらっていることだろう。
何せ、俺は唐突に会社を辞めた薄情者なのだから。
ナオキ:いや、何かしらは聞かれるかと思っていたから……
ミルル:いやね。いくらゴシップ好きの私でも、やっと新しい一歩を踏み出した友人の妨げになるようなことは言わないわ
ナオキ:……やっぱり、お礼は言わせて
ミルル:お礼は受け取るけど、忘れないでよね? 私の方が、あんたに言われた言葉に救われてるんだから
ナオキ:え?
俺が言った言葉とは何のことだろう?
ミルル:私がカミングアウトして、家族から「道を踏み外した」って心無い言葉で傷つけられた時、実は言ってくれたじゃない? 道を踏み外したんじゃない。ただ、合わなかった靴を脱いで、オーダーメイドの靴に履き直しただけだって
ナオキ:……俺、そんな恥ずかしいこと言ったっけ?
ミルル:言った! 言った!! その言葉に、私はあの頃から今まで、それからこの先の未来もきっとずっと救われていくのよ
プレイヤーネーム・ミルルこと、大学生時代からの友人との関係は、俺が社会的に非常識な唐突な退職をしても、どうやら壊れることがないようで、俺は少し……いや、かなり、ほっとしていた。
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