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「社長、そろそろ会議のお時間です」
そう言って社長室に入ってきた秘書は俺の机の上に積まれた書類の山を見て小首を傾げた。
「あまり書類が減っていないようですが?」
俺は彼の言葉にムッとした。
「向井くんが実の住所を教えてくれれば済む話なんだけど?」
「退職した社員の個人情報を知りたいだなんて、コンプラ違反ですよ?」
「だから、俺と実は親友なの! 向井くんも知ってるよね!?」
「家も知らない親友?」
「……」
先日、この秘書の同情心を買おうと思って、じつは実とは恋人同士なんだと話したら、怪訝な顔で「片思いをこじらせて妄想ですか?」とものすごく失礼な声のトーンで同情された。
「百歩譲って社長が東木さんの親友だったとしましょう」
その言葉に実の住所なり、個人の電話番号なりを教えてくれるのかと期待する。
「自分たちは恋人だとか言い出す親友、普通に怖いですよ」
「……」
「しかも、同じ職場で上司と部下なんですから、セクハラじゃないですか?」
「……」
「よかったですね。東木さんが訴えないでいてくれて。お時間です。会議室に向かってください」
俺はズタボロの状態で会議室へと向かった。
「なぁ、秘書の向井って性格悪くないか?」
居酒屋でそう人事部長でもある友人に愚痴る。
「実は素直で一生懸命に仕事に取り組んでくれる可愛い後輩だって言ってたぞ?」
それはまさに実が人たらしだからだろう。
実は誰かの一生懸命さを見逃さずに拾い上げてくれる人だ。
だから、俺もここまで仕事に邁進して頑張ってこられたのだ。
挫けそうな時でも、実に格好悪いところは見せたくないと思ったし、実の包み込んでくれるような愛情に何度も救われたのだ。
今日みたいに心がズタボロになった日だって、実がいてくれたなら、きっと優しく慰めてくれたのに……
「実、会いたいよ……」
居酒屋のテーブルに突っ伏してそう弱音を漏らすと、友人に深くため息を吐かれた。
「失ってから気づくとか、遅すぎるだろ?」
「失う前から実のことは好きだったし、大切にしてきたつもりだ!」
「つもりじゃダメなんだよ。愛は技術だって……なんだっけ? なんか偉い心理学者が言ってたろ?」
「……いや、知らないけど」
離婚したやつに言われてもな……
「お前、今、離婚したやつに言われてもとか思っただろ? これはその離婚してもなお同居してくれている奥さんが教えてくれた言葉だ!」
「なるほど!」
すごく納得した!
彼の奥さんは感情的に離婚したというより、非常に理性的に離婚して、そして、合理的に同居している。
「確か、お前が購入した家に住んでいれば家賃はかからないし、家の中は好きにできるし、子供たちも住み慣れているし、子供が風邪を引いた時とかもどっちが仕事を休めるかとか選択肢が広がるし、生活費も折半できて非常に便利……だったっけ?」
「そう。それに、孤独は老化を早めるから、感謝してよね? って言われた」
「離婚したのも、結婚という契約は相手に期待しすぎるからっていう理由だったっけ? すごく理性的だよな」
「いや、本当さ、あの理性なんなんだろうな? 感情的に文句を言われるのも面倒臭いけど、じつはこっそりと毒を盛られているんじゃないかって怖い……」
「そう思いながらも奥さん……元奥さんか……の作った料理、食べちゃうんだろ?」
「だって、これは娘に手伝ってもらったとか、これは息子が味付けしてくれたとか言われたら、食べるしかないだろ!」
「きっとあいつは、愛は技術だということを、実践で俺に叩き込んでるんだよ」と、友人はビールをあおった。
そう言って社長室に入ってきた秘書は俺の机の上に積まれた書類の山を見て小首を傾げた。
「あまり書類が減っていないようですが?」
俺は彼の言葉にムッとした。
「向井くんが実の住所を教えてくれれば済む話なんだけど?」
「退職した社員の個人情報を知りたいだなんて、コンプラ違反ですよ?」
「だから、俺と実は親友なの! 向井くんも知ってるよね!?」
「家も知らない親友?」
「……」
先日、この秘書の同情心を買おうと思って、じつは実とは恋人同士なんだと話したら、怪訝な顔で「片思いをこじらせて妄想ですか?」とものすごく失礼な声のトーンで同情された。
「百歩譲って社長が東木さんの親友だったとしましょう」
その言葉に実の住所なり、個人の電話番号なりを教えてくれるのかと期待する。
「自分たちは恋人だとか言い出す親友、普通に怖いですよ」
「……」
「しかも、同じ職場で上司と部下なんですから、セクハラじゃないですか?」
「……」
「よかったですね。東木さんが訴えないでいてくれて。お時間です。会議室に向かってください」
俺はズタボロの状態で会議室へと向かった。
「なぁ、秘書の向井って性格悪くないか?」
居酒屋でそう人事部長でもある友人に愚痴る。
「実は素直で一生懸命に仕事に取り組んでくれる可愛い後輩だって言ってたぞ?」
それはまさに実が人たらしだからだろう。
実は誰かの一生懸命さを見逃さずに拾い上げてくれる人だ。
だから、俺もここまで仕事に邁進して頑張ってこられたのだ。
挫けそうな時でも、実に格好悪いところは見せたくないと思ったし、実の包み込んでくれるような愛情に何度も救われたのだ。
今日みたいに心がズタボロになった日だって、実がいてくれたなら、きっと優しく慰めてくれたのに……
「実、会いたいよ……」
居酒屋のテーブルに突っ伏してそう弱音を漏らすと、友人に深くため息を吐かれた。
「失ってから気づくとか、遅すぎるだろ?」
「失う前から実のことは好きだったし、大切にしてきたつもりだ!」
「つもりじゃダメなんだよ。愛は技術だって……なんだっけ? なんか偉い心理学者が言ってたろ?」
「……いや、知らないけど」
離婚したやつに言われてもな……
「お前、今、離婚したやつに言われてもとか思っただろ? これはその離婚してもなお同居してくれている奥さんが教えてくれた言葉だ!」
「なるほど!」
すごく納得した!
彼の奥さんは感情的に離婚したというより、非常に理性的に離婚して、そして、合理的に同居している。
「確か、お前が購入した家に住んでいれば家賃はかからないし、家の中は好きにできるし、子供たちも住み慣れているし、子供が風邪を引いた時とかもどっちが仕事を休めるかとか選択肢が広がるし、生活費も折半できて非常に便利……だったっけ?」
「そう。それに、孤独は老化を早めるから、感謝してよね? って言われた」
「離婚したのも、結婚という契約は相手に期待しすぎるからっていう理由だったっけ? すごく理性的だよな」
「いや、本当さ、あの理性なんなんだろうな? 感情的に文句を言われるのも面倒臭いけど、じつはこっそりと毒を盛られているんじゃないかって怖い……」
「そう思いながらも奥さん……元奥さんか……の作った料理、食べちゃうんだろ?」
「だって、これは娘に手伝ってもらったとか、これは息子が味付けしてくれたとか言われたら、食べるしかないだろ!」
「きっとあいつは、愛は技術だということを、実践で俺に叩き込んでるんだよ」と、友人はビールをあおった。
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