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ゲームからログアウトした俺はタクトにこれ以上呆れられないように、カップ焼きそばよりももうちょっとマシなものを食べようと冷蔵庫を開けて絶望していた。
昼にうどんにかけた刻みネギのパックと、卵と各種調味料しかない……
いや、昨日までは納豆とかキムチもあったような気がするのだが?
……いや、もうちょっと前だったかもしれない。
「今から買い物に……」
そう思って立ち上がったところで立ちくらみがしてもう一度、床に膝をついた。
「人のことを心配している場合じゃなかったな……」
これじゃタクトに呆れられても仕方ない。
その時、インターホンが鳴った。
誰だろうと思ってインターホンの画面を確認すると、退職した会社の上司がいた。
どうして、ここに? と、俺は首を傾げながらも通話ボタンを押す。
「向井くん? どうしたの?」
「東木先輩にご相談がありまして」
彼は秘書課の課長だが、彼が入社した時の教育係は俺だった。
俺がいつか退職する時のために部長や課長などをやりたがらなかったために、社長の専属秘書という立場に落ち着いていたが、役職は彼の方が上だ。
ただ、俺が「向井課長」とか呼ぶのを彼は嫌がったし、彼も俺のことを「東木先輩」と呼ぶのをやめなかったから、俺たちは上司部下というよりも先輩後輩という関係を保っていた。
俺はエントランスの鍵を解錠して、向井くんを通した。
部屋まで来た向井くんは、先ほどはカメラに映らなかったが、買い物袋を二つ持っていて、その中には食材が大量に入っていた。
「どうしたの? それ?」
「久しぶりに先輩と一緒にご飯食べたくなって。でも、先輩はしばらく家に引き籠もるって言っていたので、外食に誘うのも悪いかなと鍋の材料を買ってきました!」
なんていい笑顔で図々しいことを言うのだろう。
「全く、君は」
俺は苦笑しながらも彼をダイニングキッチンに通した。
「それで? 相談というのは?」
俺が料理をするために腕まくりをすると、向井くんは俺の背を押して、ダイニングテーブルの椅子に座らせた。
「相談は、一緒にごはん食べませんか? っていう相談ですよ」
向井くんはちょっと強引なところあるから、俺に扉を開けさせるための口実かな? とは思っていた。
きっと、俺のことを心配して様子を見にきてくれたのだろう。
いい子だ……アラサーにいい子はおかしいだろうか?
「俺が作るんで、先輩はゆっくりしててください」
「なんか随分と張り切ってるな?」
「最近、誰かのために料理作るのが楽しいことに気づいたんですよ」
「そうなんだ?」
彼は、いい恋をしているのだろうか?
入社したての頃に一度告白されたことがあったが、それを断ってからは全くそんな素振りは見せなくなった。
きっと、いい人を見つけたのだろう。
彼は愛想はないけれど、イケメンだし、クールなところがいいのだと女性たちにも人気があった。
もしかすると、彼の恋愛対象は同性かもしれないけれど、素直な彼の一面を知れば、好きになる人も多いだろう。
「胃袋から掴もうと思って、今、料理を頑張ってるんです」
「そっか。でも、料理が下手でも、一生懸命作ってくれるだけできっと喜んでくれると思うよ」
「俺もそうだと思います」
なかなかの自信。そういうの悪くないと思う。
俺みたいにいつも卑屈でいるより、ずっといい。
「あー! 美味しい!!」
「よかった。たくさん作ったので、たくさん食べてくださいね」
後輩が作ってくれたご飯は本当に美味しかった。
鍋だけじゃなく、炊き込みご飯や無限きゅうりやササミのサラダなんかも作ってくれて、本当に料理男子を目指しているっていうか、もう料理男子そのもの。
「最近作り始めたみたいな言い方だったけど、もう十分美味しいよ」
「本当ですか?」
「本当本当」
「俺、東木さんの胃袋掴めました?」
「うん。俺の胃袋はもうしっかり掴まれちゃったよ」
「それなら、また作りに来ますね」
「え?」
今の会話の流れ、なんかおかしくなかったか?
そう思ったが、連日のゲーム疲れの脳は満腹に満足して、思考を停止していた。
昼にうどんにかけた刻みネギのパックと、卵と各種調味料しかない……
いや、昨日までは納豆とかキムチもあったような気がするのだが?
……いや、もうちょっと前だったかもしれない。
「今から買い物に……」
そう思って立ち上がったところで立ちくらみがしてもう一度、床に膝をついた。
「人のことを心配している場合じゃなかったな……」
これじゃタクトに呆れられても仕方ない。
その時、インターホンが鳴った。
誰だろうと思ってインターホンの画面を確認すると、退職した会社の上司がいた。
どうして、ここに? と、俺は首を傾げながらも通話ボタンを押す。
「向井くん? どうしたの?」
「東木先輩にご相談がありまして」
彼は秘書課の課長だが、彼が入社した時の教育係は俺だった。
俺がいつか退職する時のために部長や課長などをやりたがらなかったために、社長の専属秘書という立場に落ち着いていたが、役職は彼の方が上だ。
ただ、俺が「向井課長」とか呼ぶのを彼は嫌がったし、彼も俺のことを「東木先輩」と呼ぶのをやめなかったから、俺たちは上司部下というよりも先輩後輩という関係を保っていた。
俺はエントランスの鍵を解錠して、向井くんを通した。
部屋まで来た向井くんは、先ほどはカメラに映らなかったが、買い物袋を二つ持っていて、その中には食材が大量に入っていた。
「どうしたの? それ?」
「久しぶりに先輩と一緒にご飯食べたくなって。でも、先輩はしばらく家に引き籠もるって言っていたので、外食に誘うのも悪いかなと鍋の材料を買ってきました!」
なんていい笑顔で図々しいことを言うのだろう。
「全く、君は」
俺は苦笑しながらも彼をダイニングキッチンに通した。
「それで? 相談というのは?」
俺が料理をするために腕まくりをすると、向井くんは俺の背を押して、ダイニングテーブルの椅子に座らせた。
「相談は、一緒にごはん食べませんか? っていう相談ですよ」
向井くんはちょっと強引なところあるから、俺に扉を開けさせるための口実かな? とは思っていた。
きっと、俺のことを心配して様子を見にきてくれたのだろう。
いい子だ……アラサーにいい子はおかしいだろうか?
「俺が作るんで、先輩はゆっくりしててください」
「なんか随分と張り切ってるな?」
「最近、誰かのために料理作るのが楽しいことに気づいたんですよ」
「そうなんだ?」
彼は、いい恋をしているのだろうか?
入社したての頃に一度告白されたことがあったが、それを断ってからは全くそんな素振りは見せなくなった。
きっと、いい人を見つけたのだろう。
彼は愛想はないけれど、イケメンだし、クールなところがいいのだと女性たちにも人気があった。
もしかすると、彼の恋愛対象は同性かもしれないけれど、素直な彼の一面を知れば、好きになる人も多いだろう。
「胃袋から掴もうと思って、今、料理を頑張ってるんです」
「そっか。でも、料理が下手でも、一生懸命作ってくれるだけできっと喜んでくれると思うよ」
「俺もそうだと思います」
なかなかの自信。そういうの悪くないと思う。
俺みたいにいつも卑屈でいるより、ずっといい。
「あー! 美味しい!!」
「よかった。たくさん作ったので、たくさん食べてくださいね」
後輩が作ってくれたご飯は本当に美味しかった。
鍋だけじゃなく、炊き込みご飯や無限きゅうりやササミのサラダなんかも作ってくれて、本当に料理男子を目指しているっていうか、もう料理男子そのもの。
「最近作り始めたみたいな言い方だったけど、もう十分美味しいよ」
「本当ですか?」
「本当本当」
「俺、東木さんの胃袋掴めました?」
「うん。俺の胃袋はもうしっかり掴まれちゃったよ」
「それなら、また作りに来ますね」
「え?」
今の会話の流れ、なんかおかしくなかったか?
そう思ったが、連日のゲーム疲れの脳は満腹に満足して、思考を停止していた。
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