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「ゲームの中なら会えるんじゃないか?」
居酒屋にて、最近ずっと週末の飲みに付き合わせている人事部長の友人に言うと、呆れたような視線を向けられた。
「あいつのアカウントとかプレイヤーネームとか知ってるのか?」
「知らない!」
「だろうな」
「でも、見つけられたら絶対にわかるだろ?」
「ゲームエキスポでゲーム大賞をとった『異世界 アルカディア』がどれくらいの人間が遊んでいるか知ってるか?」
「数億人だ!」
「その中から、たった一人を探すと?」
「俺たちは運命の相手なんだから、出会えるだろう?」
「何が運命の相手だよ……もう諦めた方がラクになると思うぞ?」
「俺にゲームのやり方を教えてくれ!」
「人の話、聞いてたか? そもそもお前、VRチェアもないだろ?」
「会社にある!」
「会社に泊まり込むつもりか!? 迷惑だからやめろ! お前の家にVRチェアを置くとして、取り寄せに1ヶ月くらいかかるぞ?」
「そんなにかかるのか!?」
「早くても、1ヶ月だからな? それ以上だとどれくらいかかるかわからん」
「九条社長に連絡する!」
「やめろ!」
「そういえば、お前、親戚だっただろ?」
「従兄弟だけど、あんまり連絡したくない」
「じゃ、頼んでくれ!」
「いや、だから、人の話聞けよ……あいつ、失恋したやつの生傷、容赦なく抉ってくるけど大丈夫か?」
「おー! 大丈夫! 実に慰めてもらうから~!」
「後悔しても知らないぞ?」
お察しだろうか?
この時、俺は、かなり酔っていた。
「従兄弟の藤堂より、御子柴社長からVRチェアの注文があったと聞きまして、早速お届けに参りました」
そう九条社長が俺の家にVRチェアを他の社員と一緒に届けにきて驚いた。
ちなみに、藤堂は、人事部長の名前だ。
「あいつ、勝手に……」
「あー、御子柴社長が忘れている可能性があるからと、こちらのデータを預かっております」
九条社長が愛想のいい笑顔のまま、自分のスマホを操作する。
しばらくすると、音声が聞こえてきた。
『おーい、御子柴? 本当にVRチェア、注文するのか?』
藤堂の声だ。
『する! いますぐゲームする! 実を見つける!』
『お前が言ったんだからな? 後で怒るなよ? それから、お前の飲みに付き合ってたら、元奥さんの視線がめちゃくちゃ痛いから、しばらくは付き合えないからな?』
『大丈夫だ! 俺もゲームするから!』
『そうか、じゃ、頑張れよ!』
なんか、外部に漏れてはダメなデータが流出している。
俺、世間一般では冷静沈着な仕事のできる男で通っているのだが?
こんな酔ってデロデロな声はダメだろう。
「ということで、早速、家の中に運び込んで、設置させていただいてもよろしいでしょうか? パソコンと接続してゲームと連携する作業なども承りますが、その場合にはそれなりにお時間をいただきます」
「……全て、よろしくお願いします」
俺は観念して頭を下げた。
「つかぬことをお聞きしますが、この音声データの中で言っていた実というのは、東木さんのことでしょうか?」
パソコンを置いてある仕事部屋にVRチェアを設置してもらっている間、設置の様子を見ながら九条社長と話をする。
「ええ、そうです……」
「東木さんは会社を辞められてしまったのですか?」
「ええ、まぁ……」
「残念です。今度、一緒にごはんを食べに行きましょうってお誘いしていたのに」
言葉とは裏腹に、その笑顔は嘘くさいような気がする。
九条社長はすごく実を気に入っていたから、この機会に自社に招くつもりかもしれない。
しかし、そうはさせない。
俺もにこりとビジネススマイルをする。
「そうですか。東木にはまた俺の専属秘書として戻ってきて欲しいと思っていますので、戻ってきた際にはそういう機会もあるでしょう」
俺の言葉に驚いたように九条社長は俺を凝視した。
わざとらしい表情だが、人の心を乱して、交渉を有利に働かせるには十分だろう。
「まさか、東木さんに戻ってきてもらえると思っているのですか?」
「ええ。今回は俺と東木の間ですれ違いがあっただけで、誤解が解ければまた戻ってきてくれるはずです」
「誤解、ですか……」
「何ですか?」
俺よりも随分と年下のはずなのに、交渉相手の気持ちをかき乱すのが上手い嫌な相手だ。
「東木さんの御子柴社長に対しての気持ちは、ご存知ですか?」
「……どうして、それを?」
俺は思わず、素で聞いてしまい、それからしまったと焦った。
素直な反応を見せてもいい相手ではない。
「見ていればわかりますよ。俺も東木さんと同類ですから」
同類というのは、恋愛対象のことだろうか?
「そして」と、彼はニィッと口角を上げた。嫌な笑いだ。
「俺は彼みたいな純粋な人を利用するノンケが嫌いなんです」
「俺は実の気持ちを利用してなんていない」
「そうでしょうか? 彼に優しく接して、ずっと待たせて、自分の会社のために優秀な東木さんを引き止めてきたんですよね?」
「仕事が落ち着いたら、恋人になろうと思っていたんです!」
俺はどうして、こんなやつに素直に答えているんだろう。
だけど、実への気持ちを否定されるのは我慢ならなかった。
「恋人ねぇ……御子柴社長は、男の抱き方を知っているんですか?」
「何を……」
思わぬ言葉に動揺してしまう。
「ああ、もっとはっきりと聞きましょうか? あなたは、男に、自分のものを入れることができるんですか?」
「な……」
この男は、一体何てことを言うのだろうか!?
唖然とした俺に、クックッと、九条社長は喉の奥で笑った。
その声だけで、まるで馬鹿にされているような気がした。
「あの人を抱くところなんて、想像もしたことがないんでしょう?」
「っ……」
それは図星だった。
ずっと一緒にいて欲しいとは思ったけれど、その肌に触れることを考えたことはない。
「それで、恋人とかよく言う。東木さんが、あんたみたいな上品ぶった男から解放されてよかったですよ」
カッとして、思わず九条社長に掴み掛かりそうになった時、作業員が一人近づいてきた。
「社長、設置が終わりました」
「ああ。ご苦労様」
九条の顔が、社長の顔に戻った。
これまでのやり取りが嘘のように、九条はこちらに愛想笑いを向けてくる。
「それじゃ、御子柴社長、失礼します」
……はぁー!? なんだあいつ!!?
「おいっ! あいつ、何なんだよ!!」
俺は即行で藤堂に電話をした。
『だから言っただろ? あいつ、失恋したやつの生傷容赦なく抉ってくるって』
「そんなの聞いてないぞ!」
『わかった。今度からはその部分の証拠の音声も録っておくわ』
そういうことじゃない! と伝える前に電話は切られてしまった。
居酒屋にて、最近ずっと週末の飲みに付き合わせている人事部長の友人に言うと、呆れたような視線を向けられた。
「あいつのアカウントとかプレイヤーネームとか知ってるのか?」
「知らない!」
「だろうな」
「でも、見つけられたら絶対にわかるだろ?」
「ゲームエキスポでゲーム大賞をとった『異世界 アルカディア』がどれくらいの人間が遊んでいるか知ってるか?」
「数億人だ!」
「その中から、たった一人を探すと?」
「俺たちは運命の相手なんだから、出会えるだろう?」
「何が運命の相手だよ……もう諦めた方がラクになると思うぞ?」
「俺にゲームのやり方を教えてくれ!」
「人の話、聞いてたか? そもそもお前、VRチェアもないだろ?」
「会社にある!」
「会社に泊まり込むつもりか!? 迷惑だからやめろ! お前の家にVRチェアを置くとして、取り寄せに1ヶ月くらいかかるぞ?」
「そんなにかかるのか!?」
「早くても、1ヶ月だからな? それ以上だとどれくらいかかるかわからん」
「九条社長に連絡する!」
「やめろ!」
「そういえば、お前、親戚だっただろ?」
「従兄弟だけど、あんまり連絡したくない」
「じゃ、頼んでくれ!」
「いや、だから、人の話聞けよ……あいつ、失恋したやつの生傷、容赦なく抉ってくるけど大丈夫か?」
「おー! 大丈夫! 実に慰めてもらうから~!」
「後悔しても知らないぞ?」
お察しだろうか?
この時、俺は、かなり酔っていた。
「従兄弟の藤堂より、御子柴社長からVRチェアの注文があったと聞きまして、早速お届けに参りました」
そう九条社長が俺の家にVRチェアを他の社員と一緒に届けにきて驚いた。
ちなみに、藤堂は、人事部長の名前だ。
「あいつ、勝手に……」
「あー、御子柴社長が忘れている可能性があるからと、こちらのデータを預かっております」
九条社長が愛想のいい笑顔のまま、自分のスマホを操作する。
しばらくすると、音声が聞こえてきた。
『おーい、御子柴? 本当にVRチェア、注文するのか?』
藤堂の声だ。
『する! いますぐゲームする! 実を見つける!』
『お前が言ったんだからな? 後で怒るなよ? それから、お前の飲みに付き合ってたら、元奥さんの視線がめちゃくちゃ痛いから、しばらくは付き合えないからな?』
『大丈夫だ! 俺もゲームするから!』
『そうか、じゃ、頑張れよ!』
なんか、外部に漏れてはダメなデータが流出している。
俺、世間一般では冷静沈着な仕事のできる男で通っているのだが?
こんな酔ってデロデロな声はダメだろう。
「ということで、早速、家の中に運び込んで、設置させていただいてもよろしいでしょうか? パソコンと接続してゲームと連携する作業なども承りますが、その場合にはそれなりにお時間をいただきます」
「……全て、よろしくお願いします」
俺は観念して頭を下げた。
「つかぬことをお聞きしますが、この音声データの中で言っていた実というのは、東木さんのことでしょうか?」
パソコンを置いてある仕事部屋にVRチェアを設置してもらっている間、設置の様子を見ながら九条社長と話をする。
「ええ、そうです……」
「東木さんは会社を辞められてしまったのですか?」
「ええ、まぁ……」
「残念です。今度、一緒にごはんを食べに行きましょうってお誘いしていたのに」
言葉とは裏腹に、その笑顔は嘘くさいような気がする。
九条社長はすごく実を気に入っていたから、この機会に自社に招くつもりかもしれない。
しかし、そうはさせない。
俺もにこりとビジネススマイルをする。
「そうですか。東木にはまた俺の専属秘書として戻ってきて欲しいと思っていますので、戻ってきた際にはそういう機会もあるでしょう」
俺の言葉に驚いたように九条社長は俺を凝視した。
わざとらしい表情だが、人の心を乱して、交渉を有利に働かせるには十分だろう。
「まさか、東木さんに戻ってきてもらえると思っているのですか?」
「ええ。今回は俺と東木の間ですれ違いがあっただけで、誤解が解ければまた戻ってきてくれるはずです」
「誤解、ですか……」
「何ですか?」
俺よりも随分と年下のはずなのに、交渉相手の気持ちをかき乱すのが上手い嫌な相手だ。
「東木さんの御子柴社長に対しての気持ちは、ご存知ですか?」
「……どうして、それを?」
俺は思わず、素で聞いてしまい、それからしまったと焦った。
素直な反応を見せてもいい相手ではない。
「見ていればわかりますよ。俺も東木さんと同類ですから」
同類というのは、恋愛対象のことだろうか?
「そして」と、彼はニィッと口角を上げた。嫌な笑いだ。
「俺は彼みたいな純粋な人を利用するノンケが嫌いなんです」
「俺は実の気持ちを利用してなんていない」
「そうでしょうか? 彼に優しく接して、ずっと待たせて、自分の会社のために優秀な東木さんを引き止めてきたんですよね?」
「仕事が落ち着いたら、恋人になろうと思っていたんです!」
俺はどうして、こんなやつに素直に答えているんだろう。
だけど、実への気持ちを否定されるのは我慢ならなかった。
「恋人ねぇ……御子柴社長は、男の抱き方を知っているんですか?」
「何を……」
思わぬ言葉に動揺してしまう。
「ああ、もっとはっきりと聞きましょうか? あなたは、男に、自分のものを入れることができるんですか?」
「な……」
この男は、一体何てことを言うのだろうか!?
唖然とした俺に、クックッと、九条社長は喉の奥で笑った。
その声だけで、まるで馬鹿にされているような気がした。
「あの人を抱くところなんて、想像もしたことがないんでしょう?」
「っ……」
それは図星だった。
ずっと一緒にいて欲しいとは思ったけれど、その肌に触れることを考えたことはない。
「それで、恋人とかよく言う。東木さんが、あんたみたいな上品ぶった男から解放されてよかったですよ」
カッとして、思わず九条社長に掴み掛かりそうになった時、作業員が一人近づいてきた。
「社長、設置が終わりました」
「ああ。ご苦労様」
九条の顔が、社長の顔に戻った。
これまでのやり取りが嘘のように、九条はこちらに愛想笑いを向けてくる。
「それじゃ、御子柴社長、失礼します」
……はぁー!? なんだあいつ!!?
「おいっ! あいつ、何なんだよ!!」
俺は即行で藤堂に電話をした。
『だから言っただろ? あいつ、失恋したやつの生傷容赦なく抉ってくるって』
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