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押しかけ女房ならぬ押しかけ彼氏の向井くんは、それから毎日俺の世話を甲斐甲斐しくしてくれた。
流石にVRチェアまで持ってくることはなかったけれど、バイザーは持ってきていたから、一緒にゲームもしたし、当然のように、ゲーム内でもタクトがナオキのお世話をしてくれた。
おかげで朝はスッキリ目覚めることができ、ゲームをやりすぎることもなく、読書や映画鑑賞など他の趣味も増えた。
いや、それまでも十分にお世話になっていたけれど、これまでのは一応、常識の範囲内だったんだと思えるくらいに甲斐甲斐しいのだ。
朝は起こしてくれるだけでなく、寝ぼけている間に着替えさせてくれるし、寝る時には添い寝までしてくれる。もしや、赤ちゃんだと思われている?
ダンジョンの申請書類もタクトが一緒に用意してくれて、スムーズに登録ができた。
ダンジョンの名前はちょっとあれな感じになってしまったが、まぁ仕方ないだろう。
「ナオキ! 恋愛にご利益のあるダンジョン作ったって本当か?」
ダンジョンの名前がタクトが設定した『愛の巣』だからだろうか?
そんな噂が流れ始めた。
ちなみに、現在、俺とタクトはパーティーを組んでいる。
恋人なんだから、パーティー組むのは当然ですよね? と押し切られ、そして、登録をタクトに任せていたらカップルパーティー登録されていた。
『異世界 アルカディア』では同性婚も可能で、カップルパーティーを組んでいると、カップルの相手のために使った魔法やスキルの効力が10パーセント アップされるというお得仕様なのだ。
「ちょっと、愛の巣ダンジョンとかダサい名前つけたの、絶対にタクトでしょ?」
ダンジョンの生活スペースに遊びに来たミルルが言った。
「事実をダンジョン名にして防衛するのも大切だって話していたのはレッドバードの皆さんじゃないですか?」
「それは、低級冒険者たちの身の安全という意味の防衛よ! あんたの恋敵を減らすための防衛のために、犠牲者増やす気!?」
「ちゃんと初心者立ち入り禁止、ソロ禁止、Cランク以上推奨などなど、冒険者ギルドに説明してありますよ」
「マップに表示される説明にもちゃんと表示されるようになってるから大丈夫だ」
ミルルを安心させるために俺も言葉を添える。
「カップルパーティーになってるし! ナオキもどうして絆されてるのよ!?」
ミルルの怒りの矛先がこっちに来た。
「いやそれが……」
俺はミルルに事の経緯を話した。
ミルルはリア友なので、本当に全て話した。
「同棲してるってこと!?」
「同居ね! 一時的な同居!」
「同棲です!」
ミルルの言葉を訂正した俺の言葉をタクトが訂正する。
「元会社の同僚がゲームの中まで追ってきて、さらに家に押しかけて、付き合う言質を取って、翌日には荷物持ち込んで同棲とか! もうストーカーじゃない!!」
「ストーカーは言い過ぎだよ」と笑うと、「そういうところにつけ込まれるのよ!」と怒られた。
怒られはしたが、ミルルはため息をひとつついて、ふっと笑った。
「まぁ、でも、あんたが新しい恋ができるようになったならよかったわ」
「……俺、恋してるのかな?」
「その顔で恋をしていないのなら、全ての恋はまやかしよ」
ちらりとタクトを見れば、とてもとても機嫌が良さそうに俺を見つめている。
その優しい眼差しに俺の頬は自然と熱くなる。
「甘い!! 空気が甘い!!」
しばし見つめあってしまった俺たちの間でミルルが叫んだ。
「もう大丈夫そうだから、今度、アレクたちとのオフ会を企画してもいいわよね?」
「いや、今、ニートだからちょっと恥ずかしいかも……」
「アレクに相談したら、きっとすぐに再就職先は決まるわよ!」
「……どういうこと?」
アレクはハ◯ーワークの人なんだろうか?
「それは会ってからのお楽しみ」と、ミルルは手を振って帰っていった。
「それじゃ、俺たちもログアウトして、夕食にしましょう」
そう言って、タクトはダンジョン内の寝室に向かう。
「待って! タクト!」
俺は慌ててタクトの手を握って引き留めた。
「ナオキさん?」
「現実の世界だと恥ずかしいから、ここで言わせて……」
このまま、俺が何も言わなくても、きっとタクトは許してくれる。
でも、ちゃんと、自分の気持ちは伝えるべきだと思うから……
「高校生の頃のように、いつもドキドキしてる恋はできないかもしれないけど……俺、タクトのこと、好き……だと思う」
恥ずかしくて、最後をぼかしてしまった。
すると、タクトは少し不満そうな表情になった。
「それじゃ、足りないです」
タクトの言葉に緊張する。
こんなに待たせておいてぼかしたのが悪かったのだろうか?
やはり、ちゃんと、はっきりと「好き」だと言うべきだったのだろう。
でも、高校の頃のような潔さは今の俺にはなくて、自然と、視線が下に落ちてしまう。
タクトがそんな俺の手を握ってくる。
「ねぇ、ナオキさん……実さん、その好き、今度は俺と一緒に握り締めて、一緒に温めて、愛に育ててください」
俺は顔を上げて、まっすぐなタクトの瞳に捕らえられる。
「愛」なんて……長年の片想いをやっと過去にできた俺には贅沢な言葉だった。
「実さんと一緒なら、ドキドキする恋じゃなくて、ほっと一息つける愛を育てられると思うんです」
ドキドキして、切なくて、やっぱりダメかと手を離す恋しか知らない俺が、「愛」なんて贅沢に手を伸ばしてもいいのだろうか?
「俺、もう好きじゃ足りないんです」
タクトがもう一度そう言って、俺の指に指を絡めてしっかりと握る。
その重ね合わされた手の中には、きっと、「好き」が詰まってる。
初恋の相手と一緒に育てることができなかった気持ちは化石になってしまったけれど、今度は、一緒に「好き」を握り締めてくれる人がいる。
それは奇跡みたいなすごいことなんだって知るために、長く長く孤独な「好き」を一人で握っていた日々があったのかもしれない。
「うん。俺も、タクトと一緒に、好きを、愛にしたい」
こうして、正真正銘の恋人同士となった俺たちは『異世界 アルカディア』からログアウトし……
「実さん、もう一度言ってください」
俺はすぐに拓人に抱きしめられた。
「この世界でも、ちゃんと実さんの気持ちを聞きたいです」
ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる拓人の腕の中で、俺は勇気を振り絞って、リアルでは高校生以来となる告白をするのだった。
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