魔法使いと皇の剣

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プロローグ ジン

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 薄暗いロウライ山の内部を、ジンたちは一列になって進んでいた。ゴーベットを仕留めた穴から続く横穴は、奥へ進むにつれて徐々に広がりを見せ始めていた。

 最初は人ひとりが通れる程度の狭い横穴だったため、もし敵に挟まれた場合の危険性は計り知れなかった。しかし、予想されていたような敵の妨害もなく、その気配さえ感じられない状況が、逆にジンたちの胸に不気味さを残していた。

「最初の地点から今まで進んできた方向を考えると、ここがロウライ山の内部で間違いないと思いますが……」
 ランは声を潜めて、呟くように言った。

「このままバルドがいればいいんだがな。だが、300近くいると予想されていた敵が、最初のゴーベットだけだなんて、どうにもキナ臭え」
 ランの言葉に応じるように、バショウも渋い顔で言葉を返す。

「仕方ないさ。道も広くなってきている。それに、人工的に作られた痕跡も確認できる。今はこのまま進むしかないだろう」
 キョウは冷静さを崩さず、仲間たちに慎重な前進を促した。

 そんなやり取りを背後で聞きながら、先頭を歩いていたジンは、頭の中でバルドに関する情報を反芻していた。

 神 バルド

「闘神」と呼ばれる存在。理念そのものの具現として生まれたとされる。

 スイレンが国として成立する以前、多くの神々が眷属を従えて戦っていた時代があった。

 神を殺す方法の一つとして、信仰者を皆殺しにするという苛烈な手段が用いられていた中、バルドも例外ではなかった。

 かつてこの世に顕現した際、バルドは眷属であるナーベル族の身体を借り、戦場で猛威を振るった。しかし、やがて神々の戦いにおいてソルメーラが力を増し、敗北を喫したバルドは、この山の近くで消え去り、以来その痕跡は絶えていた。


 だが、近年になってバルドが再び顕現し、近隣の村や町を襲い始めた。その理由は未だ不明だった。何故、今になって姿を現し、勝ち目の薄い戦いを始めたのか――それがジンの頭を占めていた。

 それこそ今まで隠れていた神が何故今になって、村や町を襲い…勝てない闘いに興じるのか。

 ゴリョウ大陸にはソルメーラだけでなく、均衡を保っている強い神は他にもいる、先の闘いでナイル河で闘った狼族の神、不浄のナナクニもそうだ。

 ジンはバルドの考えを何とか探ろうとしていたが得られる情報だけで読み解くのは不可能だった。

 考えにふけり歩いていると、赤く照りつく光が見えてきた、歩いてきた道を抜けその明かりを確認したジン達は驚愕した。

 そこはただ広く、先の先まで広い空間だった、遥か上空には微かに、空の広がりが確認でき、そして下方には明かりの元となる溶岩が存在していた
 赤くグツグツと煮え立ち、神秘的にもみえる真っ赤な湖は自身の存在以外全てを溶かすよう熱気を放っていた。


「こりゃ……落ちたら一溜まりもねぇな。この溶岩があるのに、ここを作った連中はどうかしてるぜ」
 バショウは感嘆と呆れの入り混じった声で呟き、道や格子の作りを眺めた。


「しかし、ここまで敵の姿は一切見えないですね……どうしますか?」
 ランは溶岩を見下ろしながらジンに問いかけた。

「罠の可能性も捨てきれないが、それ以上に、この状況は異常だと思う。ここまで敵の気配が一切感じられない以上、300近くの敵がいるという情報が誤りだったか、あるいはこの場所で何かが起きたと考えるべきだ。

 だから、ここからは二手に分かれよう。二人は待機し、残りの二人が下へ降りて確認をする。もし何も確認できなければ速やかに撤退する。だが、もしバルドがいるなら、その場で仕留める。

 先行した二人が戻らない場合、待機した二人は報告のためにこの場を離脱。」

 ジンはそう言って、冷静に仲間たちへ指示を下した。

キョウはその指示を受け、何か言いたげな表情を浮かべながら問い返した。

「振り分けは?」

ジンはキョウを見据え、慎重に言葉を選びながら答えた。

「先行には、俺がいきます。バルドがいるなら、討ち取る責務があるので。そして、魔法を使えるランは待機。もし下に本当に300もの敵が潜んでいた場合、撤退時の安全を確保するには必要になる。」

ジンが言葉を続けようとしたそのとき、不意にバショウと目が合った。彼の鋭い視線が何かを訴えるようにジンを射抜く。それを受けて、ジンは静かに残りの振り分けを告げた。

「バショウは俺と共に。キョウは待機。」

ジンの決定に、全員が無言で頷いた。ジンとバショウは下へ降りる梯子を目指し、静かに歩き始める。

二人がランとキョウから離れると、ジンはバショウに感謝の言葉を漏らした。

「ありがとうございます、バショウ。正直助かりました。キョウは何も言わなかったが、二手に分かれるのは反対だったようで……」

それに対し、バショウは肩をすくめ、軽く頭を掻きながら答えた。

「まぁ、正直降りる組は危険だからな。それにアチィしよ。俺だって正直、二手に分かれるのは賛成じゃねぇ。全員で行くか、全員で戻る方がどう考えてもマシだと思うぜ。」


 バショウはジンの作戦に対する反対を述べながらも、危険を承諾したうえで、自分が目で行くと告げた本心は語らなかった。

リスクの高い方にキョウが行くぐらいなら自分が行く。キョウの妻や生まれてくる子供の為、自ら進んでそちらを選んだ、優しい判断だと思う。

だがジンはバショウの優しさ、甘さは何れ自身を苦しめる物だと思う。そしてそれに乗っかった自分も

「確かにバルドがいた場合、全員で行ったほうが生き残るリスクは高いです、俺もそう思います。任務内容もバルドの討伐であって全員の帰還ではないですからね⋯ただ全員死ぬかもしれない選択なら、多少でも生き残りがでる選択を取ってしまいました。申し訳ないです。」先に梯子から下に降り立ったジンは自身の判断の甘さを謝ると、続けて冗談混じりに

「ただ、二手に分かれさせた事で一番大手柄が得られる可能性が高いのはこっちですけどね」

 格子の上から下に降りてくるバショウに言葉投げかけた。 

「実際バルドがいたら殺せるのはお前だけだろうが⋯それとも報告に俺がやったって伝えてくれんのか?」

 そんなジンにバショウ呆れながらも笑い、格子の途中から飛び降りてジンの横に降りたった。

「まぁそれでいいなら俺も全然構わないですけどね、それより気づきましたか?」

 そういいジンは周りを見渡し微かにだが、何かの気配を感じていた。

「ん? 俺は何も感じねぇな、お前程、探知に長けてねぇし、俺がまだ感じられない所をみるとまだ先が長げぇんだろうが…しかし外れクジになっちまったな⋯気配があるって事は何かいんだろなぁ」

 そういいバショウは諦めたように頭を掻いた。

 ジンも気配を感じた事で自身の選択の誤りだったと考え、待機している仲間達と合流して先に進むべきか悩んだが自身が二手に分かれさせた意味を思い出し先へと進み始めた。

 ジン達が先へと下っていくとその気配は大きなものへと変わっていった、バショウも既にその気配を感じているのか臨戦態勢を取って口数も減っていた。

 近づくにつれ、気配は形づき今までに出会った事のない二つの気配だと確信していった。


 内部を降りた先にあった一本道の通路を進んでいると、その気配の正体が間近というところで、ジンはバショウに止まるよう指示をした。

「この先に何かいるのが確認できます。バショウは一旦上に戻ってランやキョウに報告を」

 バショウは少し戸惑ったようにジンの指示に返した。
「あん? 一人でやるつもりか? バカ言えここからただ戻るだけなんて何の為に俺まで降りてきたのかわからねぇじゃないか、それなら最初から二手にした意味が⋯」

 バショウはジンに投げかける言葉の最中にジンの考えを察し、呆れと怒りの表情に変わり始めた所で、ジンはバショウの言葉を遮り

「命令だバショウ。上に戻って報告、その後三人で降りてきて中部の辺りで俺と合流出来なれけば死んだものして、帰還しろ」

 ジンの言葉使いは長が下の者にくださすものへと変わっており、有無いわずの命令に、バショウは反論しようと葛藤していたが、その言葉を抑えただ短く

「了解」ときた道を素早く戻っていった。

 ジンは元々一人で降りると決めていた。

 ただそれを告げれば仲間全員に反対されると分かっていた。

 ランやキョウに突っ込まれたら自分が口で勝てるわけないと思っていた、しかしバショウならジンの意思を尊重すると考えていた、そしてキョウとバショウのどちらが危険な目に合うとなればバショウは自らから着いてくると、仲間達の事を死なせたくない。

 その思いに嘘はなかったが、ジンは何より自分が死にたくなかった。
 神との闘いで仲間が危険な目に合えば自身の弱さが出ると考えジンは足手まといと判断した。

 バショウを見送ったジンがそのまま進むと道の終わりが見え、広い空間が姿を表した。

 周りは山から作られた壁に覆わられ、少し先に溶岩の熱による明かりで光る空洞が見えた。その空洞の手前に

 神はいた。
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