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11・3 ランベルト様との出会い
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「ミレーナ様!」
エマの叫び声が聞こえた。
凍りそうだった唇が、それほどでもなくなったような気がする。それに気のせいか、ランベルト様が輝いているような……。
彼から身を離すと、輝きは見間違いではなかった。
息をつめて見守る中、輝きは最高潮に達した。あまりのまぶしさに目をつむる。
「ミレーナ?」
私の名前を呼ぶランベルト様の声がした。
目を開くと、氷像ではないランベルト様が大きく見開いた目で私をみつめている。
「ランベルト様!」
「ミレーナ! ケガは治ったんだな!?」
彼はそう叫んで私を抱き寄せた。『よかった、よかった』と言いながら、泣いている。
私も流れる涙をそのままに、ランベルト様を抱き返した。
◇◇
ランベルト様は、私に氷結魔法をかけた辺りからの記憶がないらしい。私が元気にしているのを見て、自分が魔法をかける前に誰かが治癒魔法をほどこしたのだと思ったそうだ。
自分が魔法をかけ氷像になったこと、さらに氷像から人間の姿に戻ったことを知って、とても驚愕していた。しかも事件から三週間も経っていると聞き、更にショックを受けていた。
でも一応、事件自体は解決している。
モレノはあの場でランベルト様に殺され、部下の茶髪青年は自害した。けれど、なんにんかの手下を逮捕することができたのだ。
彼らによって、モレノが使っていた魔道具は、隣国の闇魔導師が制作する闇道具だったと判明。闇魔導士は隣国政府によって逮捕投獄された。また、アジトにあった禁制品の魔道具はすべて王宮魔術師が処分した。
それからモレノたちに私の髪の毛を提供した人間も、わかった。私を初めてのお茶会に誘ってくれた、カルステン伯爵令嬢ロザリア様だった。
あの件で私を恨んでいたらしい。『ちょっとした意趣返しをしよう』とメイドに誘われて、私の服についていたものをこっそり取ったそうだ。メイドがザネッラ商会に買収されていたらしい。
彼女は自分のしたことが私の誘拐に繋がったと知り、みずから修道院に入ったという。
一連の事件で大活躍だったのが、王立騎士団のステファンさんだ。
モレノ・ザネッラの捜索のために、元々騎士団と憲兵でアジトになりそうな場所を探してはいた。
だけどあまたある候補地からあの場所を特定できたのは、ステファンさんの地道な聞き込み捜査のおかげだったという。彼は近衛騎士団長へ貢献することが私への恩返しに繋がると考えていたそうだ。
そしてその捜査の過程でたまたま、魔女を呼ぶ方法を知っていたあの老人に出会ったそうだ。
老人は長年橋の下で野宿生活をしており、つい最近、救貧院に入ったばかりだとか。たぶん国王陛下では辿り着けなかった人物だろう。
陛下はステファンさんに多大な報奨を用意したけれど、彼は『ミレーナ嬢へのお礼でしたことに礼はいただけません』といって頑なに固辞しているという。真面目な方なのだ。
「私が氷になっている間に、ずいぶんと多くことがあったというのに」
となりを歩くランベルト様が深いため息をつく。
王宮の『憩いの庭』をふたりきりで散策している。ランベルト様の姿がもどったのは一昨日だ。この二日間は嵐のような忙しさだったけれど、今はようやく落ち着いたところだ。
彼に『夕涼みをしよう』と誘われて、庭に出てきた。
「私は阿呆な氷になって、なにもできなかったのだからな。イヤになる」
「なにをおっしゃいますか。ランベルト様が私を氷結してくださったから、生きて一緒にお散歩ができるのです」
「そうだが」と言って彼は、足を止めて私を見た。
茜色の空のもと、むせかえるような花の香りがする中で、銀の髪に緑の瞳をしたランベルト様は精霊王のように美しい。だけどその表情は悲しげだ。
「私に幻滅しただろう?」
「いいえ」
「魔女にあんな魔法をかけられるほどに、女性の気持ちがわからない冷酷な男だったのだよ?」
「ランベルト様には悲しい理由があったのだと知っていますもの」
「……母のことなど、言い訳にもならない」
ランベルト様は視線を落とすと、わずかに体の向きを変えた。私から離れるかのように。
彼はもう、手袋をしていない。魔女様から『女性に触れても大丈夫』とお墨付きをもらった。
だけれど彼はまだ、私の肌に直接触れていない。むしろ避けているような素振りだ。
「一年半ほど前のことだ」とランベルト様は余所を向いたまま、口を開く。「私は兄に依頼された極秘任務で変装をして、とある地方都市にいた。雑踏で監視対象を尾行しているとき、近くで悲鳴が上がった」
この話はきっと、私と会ったときのことだ。
一年半前……と記憶を探る。
「ひったくりだった。『誰か捕まえて』との声がして、犯人らしき男が私のほうへ駆けてきた。監視対象はちょうど店の中に入ったところで、ガラス戸越しに姿も見える。たいした手間ではなかったから、犯人を取り押さえて盗品のバッグを取り返した」
……思い当たる件がある。だけど、黙ってランベルト様の話を聞くことにした。
エマの叫び声が聞こえた。
凍りそうだった唇が、それほどでもなくなったような気がする。それに気のせいか、ランベルト様が輝いているような……。
彼から身を離すと、輝きは見間違いではなかった。
息をつめて見守る中、輝きは最高潮に達した。あまりのまぶしさに目をつむる。
「ミレーナ?」
私の名前を呼ぶランベルト様の声がした。
目を開くと、氷像ではないランベルト様が大きく見開いた目で私をみつめている。
「ランベルト様!」
「ミレーナ! ケガは治ったんだな!?」
彼はそう叫んで私を抱き寄せた。『よかった、よかった』と言いながら、泣いている。
私も流れる涙をそのままに、ランベルト様を抱き返した。
◇◇
ランベルト様は、私に氷結魔法をかけた辺りからの記憶がないらしい。私が元気にしているのを見て、自分が魔法をかける前に誰かが治癒魔法をほどこしたのだと思ったそうだ。
自分が魔法をかけ氷像になったこと、さらに氷像から人間の姿に戻ったことを知って、とても驚愕していた。しかも事件から三週間も経っていると聞き、更にショックを受けていた。
でも一応、事件自体は解決している。
モレノはあの場でランベルト様に殺され、部下の茶髪青年は自害した。けれど、なんにんかの手下を逮捕することができたのだ。
彼らによって、モレノが使っていた魔道具は、隣国の闇魔導師が制作する闇道具だったと判明。闇魔導士は隣国政府によって逮捕投獄された。また、アジトにあった禁制品の魔道具はすべて王宮魔術師が処分した。
それからモレノたちに私の髪の毛を提供した人間も、わかった。私を初めてのお茶会に誘ってくれた、カルステン伯爵令嬢ロザリア様だった。
あの件で私を恨んでいたらしい。『ちょっとした意趣返しをしよう』とメイドに誘われて、私の服についていたものをこっそり取ったそうだ。メイドがザネッラ商会に買収されていたらしい。
彼女は自分のしたことが私の誘拐に繋がったと知り、みずから修道院に入ったという。
一連の事件で大活躍だったのが、王立騎士団のステファンさんだ。
モレノ・ザネッラの捜索のために、元々騎士団と憲兵でアジトになりそうな場所を探してはいた。
だけどあまたある候補地からあの場所を特定できたのは、ステファンさんの地道な聞き込み捜査のおかげだったという。彼は近衛騎士団長へ貢献することが私への恩返しに繋がると考えていたそうだ。
そしてその捜査の過程でたまたま、魔女を呼ぶ方法を知っていたあの老人に出会ったそうだ。
老人は長年橋の下で野宿生活をしており、つい最近、救貧院に入ったばかりだとか。たぶん国王陛下では辿り着けなかった人物だろう。
陛下はステファンさんに多大な報奨を用意したけれど、彼は『ミレーナ嬢へのお礼でしたことに礼はいただけません』といって頑なに固辞しているという。真面目な方なのだ。
「私が氷になっている間に、ずいぶんと多くことがあったというのに」
となりを歩くランベルト様が深いため息をつく。
王宮の『憩いの庭』をふたりきりで散策している。ランベルト様の姿がもどったのは一昨日だ。この二日間は嵐のような忙しさだったけれど、今はようやく落ち着いたところだ。
彼に『夕涼みをしよう』と誘われて、庭に出てきた。
「私は阿呆な氷になって、なにもできなかったのだからな。イヤになる」
「なにをおっしゃいますか。ランベルト様が私を氷結してくださったから、生きて一緒にお散歩ができるのです」
「そうだが」と言って彼は、足を止めて私を見た。
茜色の空のもと、むせかえるような花の香りがする中で、銀の髪に緑の瞳をしたランベルト様は精霊王のように美しい。だけどその表情は悲しげだ。
「私に幻滅しただろう?」
「いいえ」
「魔女にあんな魔法をかけられるほどに、女性の気持ちがわからない冷酷な男だったのだよ?」
「ランベルト様には悲しい理由があったのだと知っていますもの」
「……母のことなど、言い訳にもならない」
ランベルト様は視線を落とすと、わずかに体の向きを変えた。私から離れるかのように。
彼はもう、手袋をしていない。魔女様から『女性に触れても大丈夫』とお墨付きをもらった。
だけれど彼はまだ、私の肌に直接触れていない。むしろ避けているような素振りだ。
「一年半ほど前のことだ」とランベルト様は余所を向いたまま、口を開く。「私は兄に依頼された極秘任務で変装をして、とある地方都市にいた。雑踏で監視対象を尾行しているとき、近くで悲鳴が上がった」
この話はきっと、私と会ったときのことだ。
一年半前……と記憶を探る。
「ひったくりだった。『誰か捕まえて』との声がして、犯人らしき男が私のほうへ駆けてきた。監視対象はちょうど店の中に入ったところで、ガラス戸越しに姿も見える。たいした手間ではなかったから、犯人を取り押さえて盗品のバッグを取り返した」
……思い当たる件がある。だけど、黙ってランベルト様の話を聞くことにした。
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