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2.四の使い手、オーノ
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「あそこの洞窟だ」
「動物はいないの?」
「いない。ただ、瘴気の浄化は必要だけど」
「大丈夫。そのくらいやれるから」
時々咳き込んでしまうくらいには、瘴気がひどい。旅に出てかなりの時間が経過した。瘴気の濃さ、侵された生き物の多さからして、もうすぐ“ゴール”は近いと感じている。
私は腕を広げて目を瞑る。集中する。自分の中にある魔力が光に変換されて、周囲に広がる。空気が変わったのが、目を瞑っていても分かる。
「あいかわらず、リアはすごい」
「オーノが教えてくれなかったら、こんなにできるようになってない」
「……そうだよな。まったく、マギーア家は損してると思うよ。こんなにリアはすごいのに」
「それを言ったら、王家だって損してると思う。オーノほどの魔法の使い手を手放してるんだから」
「別に。俺はただの邪魔者だったから」
「それを言ったら、私だっておんなじ」
二人で顔を見合わせて、笑った。ただの傷のなめ合いだとしても、共有できる気持ちがあるのは心地よかった。
***
オーノの本来の名前、アウトノは“秋”という意味があるらしい。単に秋に生まれたからそう名付けられたのだと、オーノは笑った。
オーノは国王の子らしいけど、母親の身分が低くて王位継承権もない。それなのに、彼には四つの属性の魔法を扱う才があった。ほとんどの人は扱えて一つか二つらしいから、まさに天賦の才能だった。
これが、王妃から生まれた兄王子の癇に障ったらしく、一言で言えば虐待を受け続けてきたらしい。父親である国王も王宮に勤める使用人たちも、誰も止める人はいなくて味方もいなかった。
それでも、と彼は笑う。たとえ適当でも名前をつけてもらった。虐待しながらも必要な知識は身につけさせてもらえた。何も知らされないまま放り出された私と違って、自分で納得して旅に出た自分の方が、よほど幸せだったんだと。
――そう言う彼の顔は、とても辛そうだったけれど。
そして、彼に「自分にも名前を付けてほしい」と頼まれた。虐待されていた“アウトノ”じゃない名前で呼ばれたいと。
ちょっと前まで自分の名前さえなかった私には、とても難しい頼まれごとだった。何日も悩んで思いついたのが「オーノ」だった。“アウトノ”とどことなく似た響きも残しながらもまったく違う名前に、彼は嬉しそうに笑ってくれたのだ。
***
洞窟で一晩休んで、翌朝。……とはいっても、空はずっと瘴気に覆われているから、朝と夜の境目なんて、本当に微々たるものだけど。
昨晩浄化した空気は、すでに瘴気に侵されかけていた。前は一晩は軽くもったものだけど、最近はそれも難しくなっている。だからこそ、そろそろ近い。――“瘴気の源”に。
「行こうか」
「うん」
私たちは軽く笑みを交わして、瘴気の中へと再び歩んでいく。
緊張はあるけど、怖くはなかった。この先にあるのは、破滅の未来。だけど、私もオーノも自ら望んで、その未来を選んだのだ。
***
それは、隣国へと足を踏み入れたときの話だ。
『よくぞいらっしゃった、聖女様、四の使い手様。短い間だろうが、我が国滞在中は旅の疲れを癒してくれ』
そう言って私たちを歓迎してくれたのは、隣国のキヨード王国の国王陛下だった。オーノが「不仲な国なんだよね」と言っていたから構えていたのだけど、私の見た目にも表情を変えず、丁寧に挨拶をしてくれた。
予想外の反応に戸惑ってオーノを見たけど、彼も何を言っていいか分からなかったらしい。案内されるまま王宮の一室に泊まって、食事や入浴をさせてくれた。困惑しつつもゆっくり休めた私たちが出発する際、国王陛下が頭を下げた。
『本当に、申し訳ない。……だから、私は魔法が嫌いだ。強い力を持つごく少数の者に、世界と全ての人の命を背負わせてしまう。世界を担うのはこの地に生きる全ての人であり、命を背負うのは国を背負う者であるというのに』
なぜ頭を下げたのか、なぜ謝るのか。そして言っている意味も、私には分からなかった。ただオーノが「ありがとうございます」と一言言って、私の手を引いて歩き出したから、それに従って歩くしかなかった。
『リア、知ってる? この国では魔法の力が使われていないこと』
『え?』
聞き返した私に、オーノは説明してくれた。
私たちが住んでいたアムレート王国は、たくさんの魔法を使った道具があった。日常の生活道具から戦うための道具まで、それらはすべて魔法の力が組み込まれていた。私がそれらを使ったことはないけれど、その道具のおかげで人々は便利な生活を送れていた。
『でも、魔力がなければ道具は使えない。魔法の力が弱い者は徹底的に淘汰されてしまう』
身分が高いほど魔力を多く持つ者が多くなる。力の弱い者は便利な道具の恩恵を受けられず、ますます貧富の差が広がる。
だからこの国は魔法の力を発展させなかった。代わりに発展させたのが“科学”と呼ばれるものから生まれた道具だ。これは魔力のあるなしに関係なく、使い方さえ覚えれば皆が扱えるらしい。
『この国に入って驚いた。瘴気の影響を最低限に抑え込んでいる。この状況下で皆が普通に生活できている。この国の国王は、本気で民たちの命を背負っているんだよ』
羨ましいなとつぶやくオーノに、私が言える言葉なんか何もなかった。
――魔法の力に頼るのを止めたこの国で、古代から残る魔法の遺跡を発見し、神託を降ろしたのだという神と出会ったのは、この数日後だった。
「動物はいないの?」
「いない。ただ、瘴気の浄化は必要だけど」
「大丈夫。そのくらいやれるから」
時々咳き込んでしまうくらいには、瘴気がひどい。旅に出てかなりの時間が経過した。瘴気の濃さ、侵された生き物の多さからして、もうすぐ“ゴール”は近いと感じている。
私は腕を広げて目を瞑る。集中する。自分の中にある魔力が光に変換されて、周囲に広がる。空気が変わったのが、目を瞑っていても分かる。
「あいかわらず、リアはすごい」
「オーノが教えてくれなかったら、こんなにできるようになってない」
「……そうだよな。まったく、マギーア家は損してると思うよ。こんなにリアはすごいのに」
「それを言ったら、王家だって損してると思う。オーノほどの魔法の使い手を手放してるんだから」
「別に。俺はただの邪魔者だったから」
「それを言ったら、私だっておんなじ」
二人で顔を見合わせて、笑った。ただの傷のなめ合いだとしても、共有できる気持ちがあるのは心地よかった。
***
オーノの本来の名前、アウトノは“秋”という意味があるらしい。単に秋に生まれたからそう名付けられたのだと、オーノは笑った。
オーノは国王の子らしいけど、母親の身分が低くて王位継承権もない。それなのに、彼には四つの属性の魔法を扱う才があった。ほとんどの人は扱えて一つか二つらしいから、まさに天賦の才能だった。
これが、王妃から生まれた兄王子の癇に障ったらしく、一言で言えば虐待を受け続けてきたらしい。父親である国王も王宮に勤める使用人たちも、誰も止める人はいなくて味方もいなかった。
それでも、と彼は笑う。たとえ適当でも名前をつけてもらった。虐待しながらも必要な知識は身につけさせてもらえた。何も知らされないまま放り出された私と違って、自分で納得して旅に出た自分の方が、よほど幸せだったんだと。
――そう言う彼の顔は、とても辛そうだったけれど。
そして、彼に「自分にも名前を付けてほしい」と頼まれた。虐待されていた“アウトノ”じゃない名前で呼ばれたいと。
ちょっと前まで自分の名前さえなかった私には、とても難しい頼まれごとだった。何日も悩んで思いついたのが「オーノ」だった。“アウトノ”とどことなく似た響きも残しながらもまったく違う名前に、彼は嬉しそうに笑ってくれたのだ。
***
洞窟で一晩休んで、翌朝。……とはいっても、空はずっと瘴気に覆われているから、朝と夜の境目なんて、本当に微々たるものだけど。
昨晩浄化した空気は、すでに瘴気に侵されかけていた。前は一晩は軽くもったものだけど、最近はそれも難しくなっている。だからこそ、そろそろ近い。――“瘴気の源”に。
「行こうか」
「うん」
私たちは軽く笑みを交わして、瘴気の中へと再び歩んでいく。
緊張はあるけど、怖くはなかった。この先にあるのは、破滅の未来。だけど、私もオーノも自ら望んで、その未来を選んだのだ。
***
それは、隣国へと足を踏み入れたときの話だ。
『よくぞいらっしゃった、聖女様、四の使い手様。短い間だろうが、我が国滞在中は旅の疲れを癒してくれ』
そう言って私たちを歓迎してくれたのは、隣国のキヨード王国の国王陛下だった。オーノが「不仲な国なんだよね」と言っていたから構えていたのだけど、私の見た目にも表情を変えず、丁寧に挨拶をしてくれた。
予想外の反応に戸惑ってオーノを見たけど、彼も何を言っていいか分からなかったらしい。案内されるまま王宮の一室に泊まって、食事や入浴をさせてくれた。困惑しつつもゆっくり休めた私たちが出発する際、国王陛下が頭を下げた。
『本当に、申し訳ない。……だから、私は魔法が嫌いだ。強い力を持つごく少数の者に、世界と全ての人の命を背負わせてしまう。世界を担うのはこの地に生きる全ての人であり、命を背負うのは国を背負う者であるというのに』
なぜ頭を下げたのか、なぜ謝るのか。そして言っている意味も、私には分からなかった。ただオーノが「ありがとうございます」と一言言って、私の手を引いて歩き出したから、それに従って歩くしかなかった。
『リア、知ってる? この国では魔法の力が使われていないこと』
『え?』
聞き返した私に、オーノは説明してくれた。
私たちが住んでいたアムレート王国は、たくさんの魔法を使った道具があった。日常の生活道具から戦うための道具まで、それらはすべて魔法の力が組み込まれていた。私がそれらを使ったことはないけれど、その道具のおかげで人々は便利な生活を送れていた。
『でも、魔力がなければ道具は使えない。魔法の力が弱い者は徹底的に淘汰されてしまう』
身分が高いほど魔力を多く持つ者が多くなる。力の弱い者は便利な道具の恩恵を受けられず、ますます貧富の差が広がる。
だからこの国は魔法の力を発展させなかった。代わりに発展させたのが“科学”と呼ばれるものから生まれた道具だ。これは魔力のあるなしに関係なく、使い方さえ覚えれば皆が扱えるらしい。
『この国に入って驚いた。瘴気の影響を最低限に抑え込んでいる。この状況下で皆が普通に生活できている。この国の国王は、本気で民たちの命を背負っているんだよ』
羨ましいなとつぶやくオーノに、私が言える言葉なんか何もなかった。
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