“赤い葉”の名を与えられた聖女は、復讐を願う

田尾風香

文字の大きさ
5 / 6

番外編1 兄と姉

しおりを挟む
 その日、アムレート王国王都は盛り上がっていた。

「聖女様、バンザーイ!」
「四の使い手様、バンザーイ!」

 世界が光に満ちて、瘴気が消えた翌日。
 世界を救った“聖女”と“四の使い手”だという二人が、民衆たちの前に姿を現した。街中をパレードするのを、民衆たちは両手を挙げて称えた。

 そして、聖女が魔法の使い手で有名なマギーア家の娘であり、四の使い手が王子であり次期国王だと知れ渡ると、そこにマギーア家と王家への称賛の声も加わったのだった。


***


 パレードから戻り、場所は王宮。
 各貴族から、お礼と祝いの品が続々と届いている。諸外国にも伝達したから、やがてそちらからも届くようになるだろう。

 それらの品を見て顔を輝かせているのは、リアの姉であるプリンチェだ。妹の代わりに“聖女”を名乗っている彼女は、大変ご満悦だ。一方、弟であるオーノの代わりに“四の使い手”を名乗っている王子は、難しい顔をしている。

「まだあの二人は戻らないのか?」
「はい、今だに姿は見せません」

 王子は眉をひそめた。

「見逃している可能性はないだろうな?」
「ございません。万が一のことを考え、周辺を確認しておりますが、見当たりません」
「そうか。――ならいい。今後も決して警戒を怠るな。見つけ次第、捕らえて牢に入れろ」
「かしこまりました」

 丁寧に頭を下げる側近に対して、贈り物を見て喜んでいたプリンチェが、王子を見た。

「ジェズ様、殺さないのですか?」
「自分の功績をぶんどられたと知ったときの、あの生意気な弟の顔を見たいからな」

 プリンチェは「殺す」という物騒な単語を、何一つ表情を変えずに発言する。対する王子であるジェズが、口の端を上げて答えると、プリンチェはやや不満そうにした。

「私は別に、あの不気味な妹を見たくありませんわ」
「ふむ、では女の方は見つけ次第殺してしまおうか。男の方のみ、生かして捕らえろ」
「はっ」

 側近は何一つ取り乱さない。動揺することなど、何もないからだ。

 不気味な色をして生まれた女と、王位継承権を持たぬくせに、地水火風の四つの魔法が使える王子が悪い。世界を救うという大役を任せてやったのだから、それだけで喜ぶべき。その功績くらい、面倒を見てやった自分たちに渡すのが当たり前。

 少なくとも、彼らにとってはそれが“常識”なのだ。


***


 パレードから三日後。
 自分たちの正義を疑うことなく英雄としてもてはやされ、英雄の名をもって諸外国への圧力を強めようかという話が出た頃、その報告が上がった。

「魔法も魔道具も使えないだとっ!?」

 側近からの報告に、椅子を倒してジェズは立ち上がる。その隣で、プリンチェがいつものように魔法を使おうとして……悲鳴を上げた。

「本当に発動しませんわ!」
「…………どういうことだ?」

 その様子を見て、ジェズは側近に問いかける。が、力なく首を横に振られた。

「分かりません。魔道具どれが一つだけであれば、故障していると判断できますが、すべての魔道具が使えず魔法も使えないとなると……」
「――チッ」

 ジェズが舌打ちをして歩き出した。

「父上のところへ行く」

 どう考えても異常事態だ。あちらにも報告が行っているだろうから、とりあえず相談しようと、国王である父親のもとへ向かった。

「ジェズ! お前、何をした!」

 しかし、その父親からの第一声はジェズの予想を外れた。

「何を、とは?」
「瘴気が消えて数日だぞ! 瘴気が消えたことと、魔法や魔道具が使えなくなったこと、無関係のはずがないだろう!」

 知るか、と言いかけたのは我慢した。国王は本当のことを知っているのだから、人がたくさんいる状況で、そんなことを聞くなと言いたい。そもそも、本当に関係があるかどうかも定かではない。

「――父上、まずは人払いを」

 ジェズが冷静に言えば、父親も我に返った顔をした。人払いして二人だけになったところで、改めて父親が口を開いた。

「それで、何をした?」
「知りませんし、それとこれが関係あるんですか?」
「貴族どもが騒いでおるのだ。お前とプリンチェの説明を求めるとな」
「――チッ」

 また舌打ちした。確かに異常事態だ。こうなったら手は一つだ。

「急ぎ、旅に出た二人を捜索させます。そして、あの二人を拷問してでも事情を聞き出しましょう。何だったら“偽物二人”がいたせいで、神の機嫌を損ねたのだとでも説明すればいいでしょう」
「……そ、そうだな。では急げ」

 オドオドしている父親に、ジェズはため息をつきたくなる。貴族どもが騒いだくらいで狼狽えるなと言いたい。そんなもの、口先でごまかせばいいだけなのだ。

 国王の前を辞したジェズは、近寄ってきた側近に、改めて二人の捜索を指示したのだった。


***


 二日後。
 探しているが、弟であるアウトノも、プリンチェの不気味な妹も見つからない。そもそも、捜索どころではなくなった。

「キヨード王国に、支援を求める」
「俺は反対です!」

 国王と主立った貴族たちを集めた、会議の場。
 力ない国王の宣言に、ジェズは声をあげた。魔法の力を軽視し、“科学”なるものに頼っている国。そんな国の支援を求めるなど、正気ではない。

 当然、他の者たちからも反対の声が上がると思ったのに、誰からもその声は出ない。それどころか。

「王子殿下。今の我々は、夜に光を灯すこともできないのですよ」
「火がつけられないから、食事すら作れないと料理人たちに言われてしまい、食材を食べざるを得ない始末」
「食材とて、冷蔵ができないせいで、すぐに腐ってしまっています」
「水もです。井戸からくみ上げるのも一苦労で、使用人たちから限界だと言われています」

 口々に上がる魔道具が使えなくなった弊害に、ジェズはギリッと歯ぎしりした。
 言われなくても分かっている。ジェズとて、この二日まともな食事ができていない。怒鳴りつけたが、できないものはできないと言われてしまった。

 そう考えると、魔法の力がなくても使えるという、キヨード王国の道具に惹かれるのは分かる。だが、それはプライドが許さなかった。

「困っているからと支援を求めたりしたら、何をふっかけられるか、分からないぞ!」

「それでも、現状の改善が見込めない以上、支援を求めるより方法がありません。――それとも殿下には魔法も魔道具も使えないこの事態が、如何いかにして起こり、いつ改善するのか、分かっているのですかな?」

「分かるはずがないだろう! 何度も言っているが、瘴気の浄化とこの事態に関係はない!」

 旅に出た二人が見つかっていない以上、ジェズにできるのは「関係ない」と言い続けることだけだ。
 この状況になって、さっさと王宮からいなくなって家に戻ってしまったプリンチェに腹が立つ。そのせいで、ジェズが一人で矢面に立つしかないのだ。

「では、キヨード王国へ支援を求めるということで、決定する」

 まるでジェズの反対がなかったかのように国王が口にして、貴族たちもホッとした顔を見せた。それを見て、ジェズはまたも歯ぎしりした。

 せっかく英雄になったのだ。その功績を出して、キヨード王国に魔道具を売りつけようとしたのだ。だというのに、今や逆に白い目で見られ、思惑とは別の方向へと話が進んでしまっている。

(このままで済むと思うな)

 そう思ったジェズだが、事態はさらに悪化した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

短編 お前なんか一生結婚できないって笑ってたくせに、私が王太子妃になったら泣き出すのはどういうこと?

ヨルノソラ
恋愛
「お前なんか、一生結婚できない」 そう笑ってた幼馴染、今どんな気持ち? ――私、王太子殿下の婚約者になりましたけど? 地味で冴えない伯爵令嬢エリナは、幼い頃からずっと幼馴染のカイルに「お前に嫁の貰い手なんていない」とからかわれてきた。 けれどある日、王都で開かれた舞踏会で、偶然王太子殿下と出会い――そして、求婚された。 はじめは噂だと笑っていたカイルも、正式な婚約発表を前に動揺を隠せない。 ついには「お前に王太子妃なんて務まるわけがない」と暴言を吐くが、王太子殿下がきっぱりと言い返す。 「見る目がないのは君のほうだ」 「私の婚約者を侮辱するのなら、貴族であろうと容赦はしない」 格の違いを見せつけられ、崩れ落ちるカイル。 そんな姿を、もう私は振り返らない。 ――これは、ずっと見下されていた令嬢が、運命の人に見初められる物語。

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!

158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・ 2話完結を目指してます!

裏切者には神罰を

夜桜
恋愛
 幸せな生活は途端に終わりを告げた。  辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。  けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。  あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

処理中です...