【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十九章 婚約者として過ごす日々

問題点の洗い出し

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 国王、そしてアークバルトたちとの話が終わった。確実に話は前進しただろう。最初の一歩を踏み出しただけだが、その一歩はとても大きかった。

 だから、問題は魔族だ。国王からは完全に投げられた形だ。一言、「警備等で希望があれば言え」と言ってくれただけ。

 今は四人だけで話し合っているのだが、問題は山積みだ。

「どうしたものですかね」
「結婚式に襲ってくるのは、確定なのか?」
「分かりませんが、僕はなるほどと思いましたよ。王太子殿下の結婚式の情報を手に入れるのは難しくありませんから、カストルもおそらく入手するでしょう」

 貴族たちの間ではすでに常識となっている事柄だし、一般への情報解禁もそろそろだ。ユーリは話を続ける。

「各国の要人たちも招かれる中で殺害されでもしたら、アルカトルの面目が丸つぶれです。そして、それ以上にまず僕たち勇者一行に非難が集まるでしょう。そうなれば、僕たちは何も出来なくなります」

 魔王を倒したはずなのに、魔族が活動していることがまず問題視される。もっとも、それ自体の説明は可能だが、分かっていたのになぜ警戒を怠ったのかと、責任を問われることになる。

 そして、勇者一行の評価が下がれば、アルカトル王国も勇者一行を庇っていられなくなる。そうして孤立させておいて、今度は魔族が人の土地を奪っていく。

「そうなったときに、果たして僕たちが動いて魔族から人々を守ろうとするのか。したところで、それを人々が受け入れるのか。まあ難しい問題ですね。そうやって混乱している状況であれば、人数の少ない魔族も行動しやすくなる、というわけです」

「……嫌な予想を、堂々と言うな」

 考えられる最悪なことを簡単に言ってのけたユーリに、アレクが顔をしかめた。リィカは口を結んでうつむいてしまう。口を開いたのはバルだ。

「そうならねぇように策を考えろってのを、陛下は言ってたんだろうが。どうするんだ?」
「……さて、どうしましょうかねぇ」

 ユーリが指を組んで考え込む。本当に結婚式に襲って来るのかどうかも、ただの予測でしかないが、可能性としては高い。


 結婚式の流れは、まず王都の教会で神へ結婚の報告をする。それから街中を馬車で移動して王宮へ入り、結婚式が執り行われる。

 教会での神への報告は、立ち会うのは結婚する本人たち以外は神官長と数名の神官、そして近しい親族のみ。アレクは立ち会うだろうが、リィカすら立ち会えるかどうかは不明だ。

 街中の移動は、いわゆるパレードだ。まっすぐ王宮へは向かわず、街中を一巡して民たちの祝福を受けながら王宮へと向かう。

 最後の王宮での結婚式が、各国の要人たちも参列しての、盛大な結婚式となる。人々が想像する結婚式がこれに当たる。

「教会にいるときの襲撃はまずない、と思いたいですね。立ち会い者が少ない分、何かが起こったとしてもそれを隠蔽するのも容易ですから」

 殺害されたとして、その事実だけは隠せなくても、誰がやったかの事実の隠蔽は簡単にできる。参列者もアレクしかいないとなれば、勇者一行の知名度を落とすには足りないだろう。

「その後のパレードの方が問題か?」

 アレクが頷いて疑問を投げかければ、ユーリも頷いた。

「ええ、そうですね。もしここでの襲撃となれば、結構面倒なことになりますね。ルートのどこで襲撃を仕掛けてくるかも分かりません。そして、平民たちへの被害がどのくらい及ぶか、分かりません」

 高確率で、パレードのルートには人々が押しかけるだろう。そんな場所で魔族の襲撃があれば、どれだけの人が巻き込まれるのか想像もできない。

「ですが、僕であればやはりここでの襲撃も避けますね」
「なぜだ?」
「襲撃で目撃証言する人が死んでしまったら、意味がないですから。それに、やはり平民たちだと目撃証言が弱いですから」

 このアルカトル王国内だけであれば効果はあるかもしれないが、他国にまで知名度を落とそうと思うのなら、あまり良い手ではない。

「ですので一番高い可能性は、やはり王宮での結婚式でしょうね。各国の要人たちが見ているその目の前で、王太子殿下かレーナニア様を殺害する。それが一番効果的な方法です」

 アレクは顔をしかめた。気分のいい話ではないが、理解はできる。そしてそれがあるから、襲撃もこの結婚式のときに来るだろうと、高確率で予測できる。

「もしそうだとして、どう対処する?」
「王太子殿下とレーナニア様は、《結界バリア》の魔石があればどうにかなるとは思うんですが」

 一度発動して消えてしまうと、次の発動まで数秒のタイムラグがあるという欠点はあるが、最初の一撃さえ受け止めてくれれば、後は自分たちが対処すればいいだけの話だ。

「問題は、お二方はウエディング姿になるわけですよね。魔石を忍ばせておける場所があるかどうか」
「小さな石だろう。衣装の裏側にポケットでも作ってもらえばいいんじゃないか?」
「できれば、Cランクの魔石を使いたいんですよね」

 魔石はランクが上がるほどに大きくなる。Cランクともなると、かなりの大きさだ。服の裏側に隠せるようなものでもない。

「なぜ、そんな大きいのを使いたいんだ?」

「魔族がどんな攻撃を仕掛けてくるか、分からないからです。僕たちがこうして予想していることを、カストルだって予想していると思うんですよね。なので、《結界バリア》くらい簡単に壊せるくらいの威力を伴った攻撃をしてくる可能性が高いと思うんです」

 だから大きな魔石を使って、できる限りの魔力を込めて《結界バリア》の威力を上げたいとの説明は、納得するしかない。だが、そうすると魔石をどう持っていてもらうかの問題が出てくる。

「そして、僕たちもですよ。僕たちだってどうしたって正装するしかありません。ああいう衣装は確実に動きを阻害しますからね。武器だけならアイテムボックスで持ち込めるでしょうけど、アレクやバルは影響が大きいでしょう? それに、リィカはドレス姿になるでしょうし」

 アレクとバルはそろって顔をしかめた。パーティー等での正装は、それを着て剣を振るうことなど考慮されているはずもない。わずかでも動きは鈍り、その僅かな鈍りは戦いにおいて致命傷となりかねない。

「わたしも、ドレスの裾踏んで転びそう」

 リィカの言葉に、ユーリが苦笑しつつ頷く。
 いくら後衛だといっても、突っ立ったままではないのだ。ドレスで戦うのは絶対に無理だ。そういう意味では、一番影響が少ないのはユーリか。

「後は、戦いの余波ですね。どうしたって周囲に影響がいきますから。攻撃が飛んでいったら避けて下さい、というわけにもいきませんし」
「それも《結界バリア》で対応するしかないんじゃない?」
「そうなんですけど、それだって相応の強固さがないと、壊れそうな気がして」

 結婚式で魔族との戦いともなれば、それは衆人環視の中での戦いとなるだろう。魔族側がそこを気にしてくれるはずもない。むしろそこで勇者一行を倒す場面を見せつければ、それは魔族側に大きなアドバンテージになる。

 問題は山積みだが、それよりもリィカにはどうしても気になることがあった。

「……本当に、結婚式のときに戦うしかないのかな。一生に一度の、最高に幸せになるはずの、お祝いの場なのに」

 その祝うはずの場で戦いが起きて、そしておそらくは血が流れるのだ。そんな結婚式になってしまうことが、何よりも悲しく思える。

 表情を曇らせるリィカに、アレクもバルも何も言えない。だから、こういうときにズバッと言うのは、やはりユーリだった。

「それは魔族に言って下さい、と言うしかないですよ。僕たちがどうこうできる話ではありませんから」
「それは、そうだけど」

 リィカはうつむくが、ユーリは話を続ける。

「王族や貴族の結婚式はただの祝いの場ではなく、各国の要人たちが集まることから、様々な駆け引きが行われる場でもあります。リィカが思うほど、綺麗な場でもないんですよ。血が流れたことだって、過去の歴史を見ていけば、ないわけでもありません」

 一息ついて、また続ける。

「だから僕たちができるのは、その場で魔族たちに勝つこと。そして、話し合いの席につかせること、共存の道を探り手を取り合うこと。結婚式での戦いがそれらのきっかけとなるのであれば、それは十分に意義のある式だと思いますよ」

「……そ、か」

 小さくつぶやいた。
 こういう、色々なところで自分の常識と貴族たちの常識の差が見える。結婚式に襲ってくるかもしれないと国王があっさりと言って、アレクたちも受け入れたのは、結婚式がただ幸せを祈る場ではないからか。

「――うん、分かった」

 だったら、それを受け入れるしかない。襲ってきて戦うしかないのなら、せめてそれが無駄にならないように。この世界の未来に繋がるように。自分たちが今するべきなのは、そのための準備だ。

 しっかり覚悟を決めてリィカは頷く。それに一番嬉しそうにしたのは、もちろんというかアレクだ。それを見てユーリは笑って、そしてリィカに問いかけた。

「で、どうしたらいいと思いますか、リィカ?」
「……わたしに聞くの?」
「アレクやバルが、この手のことに役立つはずないでしょう?」

 サラッと友人たちをこき下ろして、ムッとした二人を無視して話を続ける。

「それに、アキトやタイキさんが僕たちの知らない知識を色々出してたじゃないですか。リィカにもその記憶があるんでしょう? 何かアイディアありませんか?」
「……あー」

 なるほど、と思う。空想上のものではあっても、日本には色々あった。実現可能かどうかはさておき、それらからヒントを得るのは悪くない。

「…………」

 とりあえず真っ先に浮かんだのは、色々なキャラたちの"変身"シーンだった。

「特定の道具を使って、必要なときになると戦闘服……みたいなのに変身できる、みたいなのはあったけど」
「なんですかそれ」

 ユーリに突っ込まれたが、そう言われてもリィカも困る。ぶっちゃけ、細かい設定まで覚えていない。

「つまり、簡単に持ち歩ける道具があって、その道具の力を解放することで着ている服が戦う用の服に替わる、みたいな?」

 だいぶ適当な説明である。たぶん感覚としては間違っていないはずだと思うが、果たして通じるかどうか。

 アレクとバルは完全に理解を諦めている。そんなだから役に立たないとユーリに言われるんだと思う。ユーリが難しい顔をしているのを見ながら、リィカ自身も考えるように話を続けた。

「でも、服の着替えの魔道具作りに時間を掛けるのってもったいない気がする。アレクたちのは、服を作る段階でなんとかできないのかな」

 魔道具で服をパーッと代えてみせたら、驚かれるだろうし喜ばれるかもしれない。だがアークバルトとレーナニアの命がかかっている以上、時間をかけるべきはそこではないと思う。

 パーティー用の衣装を着ていても、普通に動ければいいだけの話だ。リィカ自身はどうすればいいかは悩みどころだが、服飾関係の人に相談してどうにかできるのではないかと思う。

「《結界バリア》の方は……ところどころに起点になる魔石を置いとくことで、強化してみるとか?」

 必要なのは、アークバルトやレーナニア、そして各国の要人たちを守るほうだろう。こちらをどうにかしないと話にならない。

「どういうことですか!?」

 身を乗り出したユーリに、リィカは「えーと」と言いながら話を始めたのだった。
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