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第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

18.第二王子 アレクシス③

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次の日。
俺は父上に呼ばれた。執務室に行く途中で、バルとユーリに会った。

「あれ、二人ともどうしたんだ?」
挨拶もそこそこに聞くと、二人も父上に呼ばれたと言う。

だったら一緒に行くか、と執務室に入ると、いささか表情が強張っているように見える父上がいた。

「三人とも、来たな。まずは、昨日はご苦労だった。学園長も褒めていたぞ。良くやったな」
「ありがとうございます」
そう言って頭を下げる。

「さて、ここからが本題だ。――三人とも……」
父上が、ぐっと押し黙った。ひどく言いにくそうな……言いたくなさそうな……?
唇をかみしめている。

「……父上……?」
俺が声を掛けると、父上はハッとしたように俺の顔を見て、一瞬辛そうに表情をゆがめる。

だが、すぐにその表情も消えた。そこにあったのは、俺にはあまり見せない「国王」としての顔だった。

「アレクシス、バルムート、ユーリッヒ。お主ら三名に、魔王討伐の任務を命じる。討伐の旅に出て、見事果たして帰還せよ」
「「「――……………………えっ……………?」」」


魔王討伐の旅。
このアルカトル王国から始まる旅だ。
魔王が誕生したとき、この国にある召喚の魔方陣で勇者を召喚する。国で保持している聖剣グラムを勇者に託す。
そして、このアルカトル王国の強者は、勇者の旅の供として一緒に旅立つ。


心臓がバクバクして止まらない。
――俺が、俺たちが、魔王討伐の旅に……?

胸に手を当てて、何とか落ち着かせようと呼吸する。
何度も呼吸して少し落ち着いた、と思った所で、黙って俺たちの様子を見ていた父上に向き直った。

「父上……いえ、陛下。伺ってもよろしいでしょうか」
「言うが良い」
「……勇者は、召喚されたのですか?」

旅に出ると言うことは、その勇者に従うということだ。
勇者が召喚されなければ、話は始まらないが、そんな話は聞いていない。
昨晩のうちにでも召喚したのか、と思って聞いたのだが……、

「いや、まだだ」
あっさり否定された。目を見開く俺たちに、さらに父上が告げた。

「聖剣グラム。あれが、本当に召喚された勇者しか扱えぬものなのかを確かめたい。アレクシス、バルムート、そなたら二人に確かめさせる」
俺とバルは顔を見合わせる。

「付いてこい。聖剣の元に案内しよう」
立ち上がり、歩いて行く父上の後を、誰からともなく追いかけた。
小さい頃から城中の探検をしていた俺も、聖剣の場所は知らない。

すると、近衛兵が呼び止めた。
「――国王陛下! こちらにいらっしゃいましたか! 魔法師団より、陛下に急ぎ謁見の間においで頂きたい、と連絡がございました」

「魔法師団だと? なぜだ」

「何でも勇者様の召喚に成功した、とのことです。これから勇者様を謁見の間にお連れするので、陛下にもお越し頂きたい、と」

「何だと!? もしかして、先走ったか……! 師団長も来ておるのか!」

まだ勇者は召喚していないんじゃなかったのか?
ギリッと噛みしめた口から音が聞こえるくらいに、父上が怒っていた。

「……は……はい……謁見の間に……」
「…………チッ……」

小さく舌打ちの音が聞こえると、父上はそのまま謁見の間へ歩き出した。
俺たちも、一瞬悩んだが、そのまま父上の後を追った。


「おお、陛下、お待ちしておりました……」
「レイズクルス、勇者を召喚したというのは真か」

魔法師団長が声をかけてきたのを最後まで聞かずに、父上が問いかける。
ちなみに、レイズクルス、というのが、魔法師団長の家名だ。

「はい。その通りでございます。昨日の魔王誕生から、すぐに準備を始めまして……」

父上は怒っていることを隠そうともしていないのだが、こいつはそれに全く気付かない様子で、自分の手柄を自慢するかのように、笑顔で話し続けている。

「誰が、勇者を召喚しろと言った!!?」
そして、父上の怒りが爆発した。
だらだらと笑顔で話しをしていた魔法師団長は、そのまま固まる。

「……え……陛下、これは異な事を仰る。魔王が誕生したのです。勇者を召喚するのは当たり前の事で……」

「だからといって、儂からの指示もなく、許可も得ずに、やっていい理由がどこにある!!」

再び、父上の怒りが爆発したとき、
「……国王陛下……誠に申し訳ありませんが……」
横から本当に申し訳なさそうな声がかかった。
謁見の間の正面扉の前にいる近衛兵だ。

「……実は、勇者様方が、いらっしゃっておりまして……その……」
「…………………………………………そうか…………」

もしかして、父上の怒鳴り声が外まで聞こえてたんじゃないのか。
父上が、長い深呼吸をして、ようやくそうつぶやくと、

「分かった。入って頂いて……、いや待て、勇者様……方……?」
「あ、そうなのです。陛下」
口を開いたのは魔法師団長だ。

「召喚された勇者様がお二人いらっしゃいまして……、」
勇者が、二人いる……?

「……分かった。勇者様方に中に入って頂け」
父上はどう思ったのか、ただそれだけを指示した。

――そして、謁見の間の扉が開かれた。


まず入ってきたのは、名前までは覚えていないが、魔法師団員だ。
そして、その後ろから、黒い髪、黒い瞳の、似た顔立ちの男性二人。もしかして、親子だろうか。

「勇者様、ご叩頭をお願いいたします」
魔法師団員がそんな事を言うが、二人は立ったまま動こうとしない。

「ゆ、勇者様、頭をお下げ下さい……!」
焦ったようにさらに言葉を重ねるが、それでも二人は動かない。

そして、大人の男性の方が口を開いた。
「断る。なぜ、誘拐犯に対して、そんなことをしなければいけないんだ」
――誘拐!!?

「ふざけるな! 誘拐とは何のことだ!!」
考えるより先に、言葉が付いて出た。

「アレクシス、黙りなさい」
父上からの制止の声がかかったが、納得はできない。さらに声を上げようとしたが、

「お前は、勇者様がどこから召喚されるのか、召喚される前は何をしているのか、考えたことはあるか?」
「――……えっ?」

その思いもよらない父上の言葉に、俺は押し黙るしかなかった。

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