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第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ
魔王討伐の任務
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魔王が誕生し、学園内に入り込んだ魔物を倒した、その翌朝。アレクは、父である国王が呼んでいると言われて、執務室へと向かっていた。その途中でバルとユーリを見かけた。
「二人ともどうした?」
アレクは城に住んでいるとしても、バルもユーリも別に家がある。何か用がなければ城には来ない。来たとしても、向かう先は騎士団の練習場だ。城の中心部にいることが珍しい。
「国王陛下に呼ばれたんだよ」
バルがそう告げて、ユーリも頷く。そうなのかと思い、アレクはそのまま一緒に執務室へと向かう。訪問を告げて中に入ると、待っていたらしい国王はやや表情が強張っていた。
「父上。二人も父上に呼ばれたと聞いて一緒に来ましたが、問題ないですか?」
「ああ、三人に同じ話だからな」
話の内容によっては順番に話をすることになると思ったが、問題ないらしい。頷いた国王はやはり強張った顔のまま、口を開いた。
「まずは、三名とも昨日はご苦労だった。学園長も褒めていた。良くやったな」
「ありがとうございます」
三人に同じ話だという時点で、これは予想通りだった。アレクは頭を下げる。だが、国王は続けた。
「――さて、本題はここからだ。三人とも……」
そこまで言って、言葉が途切れる。アレクがその顔を見ると、唇を噛みしめている。言いにくそうな、言いたくなさそうな顔だと思う。
「父上?」
アレクが声をかけると、国王はハッとしたように顔を見て、辛そうに表情を歪めた。だがそれは一瞬で消えて、代わりに現れたのは「国王」としての顔だった。
「アレクシス、バルムート、ユーリッヒ。――そなたら三名に、魔王討伐の任務を命じる。旅に出て、見事討伐を果たして帰還せよ」
ヒュッとアレクの喉が鳴った気がした。
魔王討伐の旅とは、このアルカトル王国から始まる旅だ。
魔王が誕生したとき、この国にある召喚の魔法陣で勇者を召喚する。そして聖剣グラムを勇者へと託し、アルカトル王国の強者が、勇者の供として一緒に旅に出る。
それらがアレクの頭を巡る。心臓がバクバクする。何度も深呼吸を繰り返して何とか落ち着かせる。そして、おそらく落ち着くまで黙って待っていてくれた国王に向き直った。
「父上……いえ、陛下。伺ってもよろしいでしょうか」
「言うが良い」
「勇者は、召喚されたのでしょうか」
旅に出るということは、勇者に従うということ。勇者が召喚されなければ話は始まらないが、アレクはその話を聞いていない。昨晩、自分が休んだ後にでも召喚されたのだろうか。
「いや、まだだ」
国王はあっさりと否定した。驚くアレクたちに、さらに国王が告げる。
「聖剣グラム。あれが本当に召喚された勇者しか扱えぬものなのか、確かめたい。アレクシス、バルムート、そなたら二人に確かめさせる」
アレクがバルと顔を見合わせる。
「来い。聖剣の元へ案内しよう」
国王が立ち上がって歩いて行けば、それを追いかけないわけにはいかない。アレクは小さい頃から城の中を探検していたが、聖剣のある場所を見つけたことはなかった。
だが、それはすぐに近衛兵に呼び止められたことで終わった。
「国王陛下。魔法師団長より、陛下に急ぎ謁見の間においで頂きたいと、連絡がございました」
「何だと?」
国王が眉をひそめた。それはアレクも同様だ。魔法師団長であるレイズクルス公爵とは、決して友好な関係ではない。はっきり言ってしまえば政敵だ。その師団長からの連絡。当然ながら警戒する。
「何でも、勇者様の召喚に成功したとのことです。これから勇者様を謁見の間にお連れするので、陛下にもお越し頂きたいと」
「何だとっ!? もしかして先走ったのか!」
国王が声を荒げた。ギリッと噛みしめた歯の音が聞こえそうなくらいに怒っている。だが、アレクもその理由は分かった。つい先ほど、「まだ勇者は召喚していない」と聞いたばかり。つまり、国王は召喚の指示をしていないのだ。
「師団長はいるのか」
「は、はい……。謁見の間に……」
近衛兵の返事を聞いて、そのまま足早に謁見の間へ歩き出す。国王の怒りを正面から受けてしまった近衛兵の顔色が悪い。とばっちりを受けてしまった近衛兵に、アレクは「気にするな」と一言告げてから、後を追った。
※ ※ ※
「陛下、お待ちしておりました」
「レイズクルス、勇者を召喚したというのは真か」
魔法師団長のレイズクルスが、普段と同じ横柄な態度でニヤニヤ笑っていた。いくら貴族位一位の公爵だからといっても、国王に対してよくそんな態度を取れるなと、アレクはいつも思う。
「はい、その通りでございます。昨日の魔王誕生より、すぐ召喚の準備を始めました」
国王が怒っているのはその顔を見れば分かると思うのだが、レイズクルスはそれを気にした様子は全くない。恩着せがましさすら感じられるところを見ると、「お前の指示が遅いから、代わりにやってやった」というところだろうか。
「誰が勇者を召喚しろと言ったっ!?」
案の定、国王の怒りが爆発した。自らの行動が完全に逆効果になっていることに気付いていないレイズクルスだが、さすがに目の前の国王の怒りには気付いたらしい。だが、だからといって自分が悪いなどと考えるタイプではない。
「陛下、これは異なことを仰る。魔王が誕生した以上、勇者を召喚するのは当たり前のことでしょう」
「だからといって、儂からの指示も許可もなく、やっていい理由がどこにある!」
再び国王が怒鳴った。だがそのとき、申し訳なさそうな声がかかった。
「陛下、誠に申し訳ないのですが……」
それは、謁見の間の正面扉の前にいる近衛兵からだった。
「その、勇者様方がすぐそこにお見えになっておりまして……」
「…………そうか」
国王が長く深呼吸する。だが、近衛兵の様子にアレクはわずかに眉をひそめた。国王の声の大きさと近衛兵の態度。それを考えると。
(父上の声、外にまで聞こえていたんじゃないだろうか。……で、それを勇者様が聞いてしまった?)
果たしてそれを聞いた勇者がどう思うのか。原因はレイズクルスだとしても、面倒なことにならなければいいなとアレクは思う。
「分かった、中に……いや待て、勇者様、方?」
「ああ、そういえば。ええ陛下、勇者様を召喚したところ、お二人現れました」
「……そういえばではないだろう」
レイズクルスの発言に、国王が渋面になる。今まで分かっている歴史の中で、勇者は一人だけだった。二人現れたことは、今までになかったはずだ。
「中に入って頂いてくれ」
「かしこまりました」
国王の指示に近衛兵が動く。一段高くなっている玉座に座った国王の脇に、アレクは立った。一緒に来たバルやユーリは、そのまま脇に立つ。
そして、謁見の間の扉が開けられた。
まず入ってきたのは、魔法師団員の一人だ。アレクは何となく顔は覚えているものの、名前までは知らない。おそらく、レイズクルスの部下の一人だろう。
その後ろから入ってきたのが、召喚された勇者だろう。黒い髪・黒い瞳は、歴代召喚される勇者に見られる特徴だ。顔立ちの似た、大人と子どもの男性が一人ずつ。もしかして親子なのだろうか。子どもといっても、年齢はそんなに変わらなさそうだとアレクは思う。
「勇者様、ご叩頭をお願いいたします」
先頭を歩いてきた魔法師団員がそう言うが、二人はまっすぐ立ったままだ。
「ゆ、勇者様、頭をお下げ下さい……!」
焦ったようにもう一度言うが、それでも二人は動かない。そして、大人の男性が口を開いた。
「断る。なぜ誘拐犯に対して、そんなことをしなければいけないんだ」
「……誘拐?」
どういうことだと、アレクは思う。魔王が誕生したから勇者を召喚した。国王の指示ではなかったが、それでも今までずっと行ってきた「当たり前のこと」だ。それがなぜ誘拐などという話になるのか。
疑問を浮かべたアレクに、大人の男性が睨んだ。だが何も言わずに視線を国王に戻す。その仕草がアレクを無視しているように感じて、拳を握った。
「――どういうことだ。答えろ」
自然と声が低くなる。だが、国王からの制止がかかった。
「アレクシス、やめなさい」
「――しかし!」
「お前は勇者様がどこから召喚されるのか、召喚される前は何をしていたか、考えたことはあるか?」
「は?」
思いも寄らない国王の言葉に、アレクは押し黙ったのだった。
「二人ともどうした?」
アレクは城に住んでいるとしても、バルもユーリも別に家がある。何か用がなければ城には来ない。来たとしても、向かう先は騎士団の練習場だ。城の中心部にいることが珍しい。
「国王陛下に呼ばれたんだよ」
バルがそう告げて、ユーリも頷く。そうなのかと思い、アレクはそのまま一緒に執務室へと向かう。訪問を告げて中に入ると、待っていたらしい国王はやや表情が強張っていた。
「父上。二人も父上に呼ばれたと聞いて一緒に来ましたが、問題ないですか?」
「ああ、三人に同じ話だからな」
話の内容によっては順番に話をすることになると思ったが、問題ないらしい。頷いた国王はやはり強張った顔のまま、口を開いた。
「まずは、三名とも昨日はご苦労だった。学園長も褒めていた。良くやったな」
「ありがとうございます」
三人に同じ話だという時点で、これは予想通りだった。アレクは頭を下げる。だが、国王は続けた。
「――さて、本題はここからだ。三人とも……」
そこまで言って、言葉が途切れる。アレクがその顔を見ると、唇を噛みしめている。言いにくそうな、言いたくなさそうな顔だと思う。
「父上?」
アレクが声をかけると、国王はハッとしたように顔を見て、辛そうに表情を歪めた。だがそれは一瞬で消えて、代わりに現れたのは「国王」としての顔だった。
「アレクシス、バルムート、ユーリッヒ。――そなたら三名に、魔王討伐の任務を命じる。旅に出て、見事討伐を果たして帰還せよ」
ヒュッとアレクの喉が鳴った気がした。
魔王討伐の旅とは、このアルカトル王国から始まる旅だ。
魔王が誕生したとき、この国にある召喚の魔法陣で勇者を召喚する。そして聖剣グラムを勇者へと託し、アルカトル王国の強者が、勇者の供として一緒に旅に出る。
それらがアレクの頭を巡る。心臓がバクバクする。何度も深呼吸を繰り返して何とか落ち着かせる。そして、おそらく落ち着くまで黙って待っていてくれた国王に向き直った。
「父上……いえ、陛下。伺ってもよろしいでしょうか」
「言うが良い」
「勇者は、召喚されたのでしょうか」
旅に出るということは、勇者に従うということ。勇者が召喚されなければ話は始まらないが、アレクはその話を聞いていない。昨晩、自分が休んだ後にでも召喚されたのだろうか。
「いや、まだだ」
国王はあっさりと否定した。驚くアレクたちに、さらに国王が告げる。
「聖剣グラム。あれが本当に召喚された勇者しか扱えぬものなのか、確かめたい。アレクシス、バルムート、そなたら二人に確かめさせる」
アレクがバルと顔を見合わせる。
「来い。聖剣の元へ案内しよう」
国王が立ち上がって歩いて行けば、それを追いかけないわけにはいかない。アレクは小さい頃から城の中を探検していたが、聖剣のある場所を見つけたことはなかった。
だが、それはすぐに近衛兵に呼び止められたことで終わった。
「国王陛下。魔法師団長より、陛下に急ぎ謁見の間においで頂きたいと、連絡がございました」
「何だと?」
国王が眉をひそめた。それはアレクも同様だ。魔法師団長であるレイズクルス公爵とは、決して友好な関係ではない。はっきり言ってしまえば政敵だ。その師団長からの連絡。当然ながら警戒する。
「何でも、勇者様の召喚に成功したとのことです。これから勇者様を謁見の間にお連れするので、陛下にもお越し頂きたいと」
「何だとっ!? もしかして先走ったのか!」
国王が声を荒げた。ギリッと噛みしめた歯の音が聞こえそうなくらいに怒っている。だが、アレクもその理由は分かった。つい先ほど、「まだ勇者は召喚していない」と聞いたばかり。つまり、国王は召喚の指示をしていないのだ。
「師団長はいるのか」
「は、はい……。謁見の間に……」
近衛兵の返事を聞いて、そのまま足早に謁見の間へ歩き出す。国王の怒りを正面から受けてしまった近衛兵の顔色が悪い。とばっちりを受けてしまった近衛兵に、アレクは「気にするな」と一言告げてから、後を追った。
※ ※ ※
「陛下、お待ちしておりました」
「レイズクルス、勇者を召喚したというのは真か」
魔法師団長のレイズクルスが、普段と同じ横柄な態度でニヤニヤ笑っていた。いくら貴族位一位の公爵だからといっても、国王に対してよくそんな態度を取れるなと、アレクはいつも思う。
「はい、その通りでございます。昨日の魔王誕生より、すぐ召喚の準備を始めました」
国王が怒っているのはその顔を見れば分かると思うのだが、レイズクルスはそれを気にした様子は全くない。恩着せがましさすら感じられるところを見ると、「お前の指示が遅いから、代わりにやってやった」というところだろうか。
「誰が勇者を召喚しろと言ったっ!?」
案の定、国王の怒りが爆発した。自らの行動が完全に逆効果になっていることに気付いていないレイズクルスだが、さすがに目の前の国王の怒りには気付いたらしい。だが、だからといって自分が悪いなどと考えるタイプではない。
「陛下、これは異なことを仰る。魔王が誕生した以上、勇者を召喚するのは当たり前のことでしょう」
「だからといって、儂からの指示も許可もなく、やっていい理由がどこにある!」
再び国王が怒鳴った。だがそのとき、申し訳なさそうな声がかかった。
「陛下、誠に申し訳ないのですが……」
それは、謁見の間の正面扉の前にいる近衛兵からだった。
「その、勇者様方がすぐそこにお見えになっておりまして……」
「…………そうか」
国王が長く深呼吸する。だが、近衛兵の様子にアレクはわずかに眉をひそめた。国王の声の大きさと近衛兵の態度。それを考えると。
(父上の声、外にまで聞こえていたんじゃないだろうか。……で、それを勇者様が聞いてしまった?)
果たしてそれを聞いた勇者がどう思うのか。原因はレイズクルスだとしても、面倒なことにならなければいいなとアレクは思う。
「分かった、中に……いや待て、勇者様、方?」
「ああ、そういえば。ええ陛下、勇者様を召喚したところ、お二人現れました」
「……そういえばではないだろう」
レイズクルスの発言に、国王が渋面になる。今まで分かっている歴史の中で、勇者は一人だけだった。二人現れたことは、今までになかったはずだ。
「中に入って頂いてくれ」
「かしこまりました」
国王の指示に近衛兵が動く。一段高くなっている玉座に座った国王の脇に、アレクは立った。一緒に来たバルやユーリは、そのまま脇に立つ。
そして、謁見の間の扉が開けられた。
まず入ってきたのは、魔法師団員の一人だ。アレクは何となく顔は覚えているものの、名前までは知らない。おそらく、レイズクルスの部下の一人だろう。
その後ろから入ってきたのが、召喚された勇者だろう。黒い髪・黒い瞳は、歴代召喚される勇者に見られる特徴だ。顔立ちの似た、大人と子どもの男性が一人ずつ。もしかして親子なのだろうか。子どもといっても、年齢はそんなに変わらなさそうだとアレクは思う。
「勇者様、ご叩頭をお願いいたします」
先頭を歩いてきた魔法師団員がそう言うが、二人はまっすぐ立ったままだ。
「ゆ、勇者様、頭をお下げ下さい……!」
焦ったようにもう一度言うが、それでも二人は動かない。そして、大人の男性が口を開いた。
「断る。なぜ誘拐犯に対して、そんなことをしなければいけないんだ」
「……誘拐?」
どういうことだと、アレクは思う。魔王が誕生したから勇者を召喚した。国王の指示ではなかったが、それでも今までずっと行ってきた「当たり前のこと」だ。それがなぜ誘拐などという話になるのか。
疑問を浮かべたアレクに、大人の男性が睨んだ。だが何も言わずに視線を国王に戻す。その仕草がアレクを無視しているように感じて、拳を握った。
「――どういうことだ。答えろ」
自然と声が低くなる。だが、国王からの制止がかかった。
「アレクシス、やめなさい」
「――しかし!」
「お前は勇者様がどこから召喚されるのか、召喚される前は何をしていたか、考えたことはあるか?」
「は?」
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