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第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

23.国王

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アキト殿が聖剣を抜いた後、用意した部屋に案内した。
二人とも、休むと言って今は寝ている。
アレク達はリィカ嬢に会いに行くと行って、出かけていった。


召喚された勇者様二人と、アレク達三人が、昼食を一緒に食べると言って、部屋から出て行くのを見送り、儂は残ったもう一人の息子に向かって口を開いた。

「アーク、お前、よく黙ってたな。正直、何か文句の一つでも言うかと思ったんだが」

「……アレクが、魔王討伐に向かう話のことを言っているのでしたら、私から言うことは、以前から予想はしていた、という事だけです。文句を聞きたいのでしたら、いくらでも言えますが?」

「別に聞きたいわけではないわい。勘弁してくれ。レイズクルスのせいで、散々だったんだぞ」
長々とため息をついて、

「……それにしても、お前も予想していたか」
「ええ。父上が魔王についての情報を、私には隠しませんでしたから。少し調べれば分かります」


魔王が、およそ200年に一度、この世界に誕生する事は、この世界に住む誰もが知っている。しかし、前回いつ誕生したのか、という事は一切触れられない。

そして、勇者と共に行くため、魔王誕生が近くなると、我が国には強い力を持つ者が現れるが、その事実も一切公表されていない。
それを知ることができるのは、ごく一部だけだ。


「それに、昨日、まったく兵士が学園に来なかったのは、最初からアレク達に対処させるつもりだったからではないですか?
 いくら街中が大変だといっても、跡取りの王子が二人いる学園に、全く誰も来ないのは、普通に考えておかしいですよ」

それすらも気付いていたか。
いつの間にか、ずいぶん視野が広くなった。判断力が格段に上がっている。

「――そうだ。あいつらを旅に出すことは決めていたからな。その手始めに、ちょうどいいと思った。――ラインハルトとテオフィルスには、済まないと思っておる」

「――ああ、まあ……」
ラインハルト……騎士団長は、少し困った様子を見せたが、
「まあ、俺もこうなるだろうとは思ってましたから……、バルの奴がやると決めたんだったら、それでいいですよ」

「私もです、陛下。あの子が自分でやると言ったんです。でしたら、それを応援してあげるだけですよ」
テオフィルス……神官長もそれに続いた。

「……陛下、伺っていいですか?」
ヴィート公爵が口を開いた。

「陛下は、勇者を召喚するつもりはなかったのですか?」
聞かれて、儂はうなずいた。

「……ああ。国王に口頭でのみ伝えられている事実がある」
そう前置きして、話し始めた。


前回召喚された勇者シゲキ・カトウ様が、話を聞いてまず、ふざけるなと、これは誘拐だろうと叫んだ。

勇者様が、召喚されるまでどんな生活をされているかなど、誰も想像したことがなかった。平和な世界で、ごく普通の生活を送っているなど、考えたこともなかった。

魔王討伐は引き受けてくれたが、当時の国王が抱いた悔恨の念はひどかったらしい。

だから、できれば次の世では、本当に勇者が必要なのか、自分たちではどうする事もできないのか、それを可能な限り確認して欲しい、と言い伝えられてきた。

「結局は、レイズクルスの先走りのせいで、同じ事の繰り返しになったがな。もし、勇者様が現れていなければ、聖剣は我々に力を貸してくれたのか……。後世に、せめてそれだけでも確認して残したかったな」

「父上……」
気遣うように声を掛けてくるアークに、笑いかける。

「お前は気にすることはない、アーク。――勇者様の怒りは、儂が受け止める。いくらでも礼を尽くす。幸い、理性的な方らしいしな。こちらが礼を持って対応したものを、理不尽に返されることはなさそうだ。それだけでも十分有り難い。
 ――ただ、儂は何においても勇者様最優先で動く。その分、抜けも出るだろうから、お前に任せていいか?」

その言葉に、アークの表情が明るくなる。
そういえば、この子に任せると言ったのは、初めてかも知れない、と思う。

「はい。お任せ下さい!」


※ ※ ※


昔のアークは病弱だった。だからこそ、次期国王として不安視する声も多かった。
その筆頭が、戦争急進派と呼ばれていた派閥。

しかし、実のところ、彼らが戦争を望んでいたわけではないことを、儂は知っていた。彼らも、魔王がそろそろ誕生するであろう事を知っていた。


この国は、魔王の誕生する魔国から一番遠い。
故に、魔王を倒すための聖剣を保持し、聖剣を使える勇者を召喚する役目を持つ。

そして、それと同時に魔王の誕生によって、魔物は活発になり、物価は上がり、治安は悪くなる。起こる問題は多数だ。やらねばならぬ事がたくさんある。

そんな時の国王が病弱では迷惑だ。だからこそ、戦争急進派は、何としてもアレクシスを王にしようとして、実際の所、儂もそう考えていた。

もしも、魔王の誕生がもっと早かったなら、王太子の座はアレクシスにしていただろうと思っている。

だが、アークは、婚約者に支えられて、良くなってきた。頑張ってくれた。


そして、アレクがどんどん強くなることに、覚悟せざるを得なかった。
この子は、王太子になる器じゃない。それにとどまらない。
きっといつか、魔王を倒す旅に出ろ、と言わなければならない。

だから、ただその時が来ただけだ。
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