【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第四章 モントルビアの王宮

母さんみたい

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暁斗は走った。
(もうすぐだ。もうすぐ、リィカに会える)
走ってたどり着いた小屋。その中からリィカの気配がする。
夢中で扉を叩いた。

「リィカ! ここにいるの!?」
叫べば、小さく自分を呼ぶ声が聞こえた。

「……暁斗?」
間違いなく、リィカだ。
扉を見れば、閂が掛かっているだけのようだ。外して、扉を開ける。

「見つけた! リィカ……!」
リィカの姿を見た途端に、泣きたくなった。
リィカに近寄ろうとして、不意にむせた。

「……なにここ。すごい空気悪いじゃん。こんなとこに、リィカ閉じ込めてたなんて……!」
けど、おかげで涙は引っ込んでくれた。

「リィカ、まず、ここから出ようよ」
「…………あ、うん、そうね」
けど、なぜかリィカは躊躇う様子を見せる。
どうしたんだろうと思って、もう一度リィカを見る。

そして、気付いた。
「リィカ、手、どうしたの?」
リィカの手が後ろに回っている。
ギクッとしたリィカに、嫌な予感を抱きつつ見てみると、リィカの手が後ろ手に手錠を掛けられていた。

「……なにこれ!」
暁斗の叫びに視線を逸らすリィカを見て、さらに暁斗は外に人が集まっているのを感じた。

「リィカ、動かないでね」
前からリィカを抱きしめるように両腕を背中に回すと、そのまま持ち上げる。
「……えっ! ちょっと、暁斗!?」
「動かないでよ。危ないから」

大人しくなったリィカをそのまま抱えて、小屋から出る。
外には、兵士っぽい人から、メイドっぽい人、執事っぽい人まで、色々雑多に集まっている。
その執事っぽい人が、出てきた暁斗を見て、さらに抱えているリィカを見て、顔をしかめる。

「勇者様、お屋敷へお戻り下さいませ。抱えているソレは、平民の娘。勇者様がお気になさるモノでは……」
「ふざけんなよ」

執事は、最後まで言い切れなかった。
リィカを下に下ろしつつ睨んできた暁斗に、無意識に一歩後ろに下がる。

「リィカの手錠の鍵は、アンタが持ってるの?」
「…………ヒィッ!?」
睨まれて悲鳴を上げながら、首を横に振る執事に、暁斗は舌打ちする。

「じゃ、ベネット公爵かな。あんた、行って取ってきて」
「…………ヒッ!」
悲鳴を上げただけで動かない執事に、さらに暁斗が口を開こうとして……。

「暁斗、大丈夫だから、ちょっと待って」
リィカが、声をかけた。



失敗したなぁ、とリィカは思う。
見つけた、という言葉から、きっと自分が捕まったことを知っていて、探してくれていたんだろう、と容易に想像がついた。

王太子たちに警戒されたくないから手錠もそのままにしていたけれど、こんな事になるんだったら、さっさと壊しておけば良かったと思う。

食事が全然できていないことは、隠し通そう。ちゃんと体、動いてくれよ、と願いつつ、殺気を飛ばしている暁斗を見る。
自分のために怒ってくれているのは分かるけれど、人相手に殺気を飛ばして欲しくない。
だから、声をかけた。

「暁斗、大丈夫だから、ちょっと待って」
「……どこが大丈夫なの? そんなわけない」
「うん。だから、ちょっと待って」

暁斗を安心させるように笑って、手錠に集中する。
数秒ほどでバキバキと音が鳴り始め、そしてバァン! と手錠が弾けて、下に落ちた。

「……………え?」
「いつでも壊そうと思えば壊せたから、そのままにしてただけ。心配掛けてごめんね?」

周りがざわついている。
二日も(多分)手錠を掛けたままだから、手首は痛いし、肩や腕も固まっているみたいだけれど、それはおくびにも出さずに暁斗に笑いかける。

「――やっぱり、リィカはすごいや」
泣き笑いのような顔で言うと、暁斗はそのままリィカにしがみついてきた。

「頭、撫でてよ、リィカ。――見つけたご褒美、ちょうだい」
(またこの子は、何を言い出すのかな!?)
暁斗は、リィカの両肩に手を置いて、頭の先がリィカの首元にあるから、リィカから顔は見えない。

この状況で? と思う。肩や腕も固まっているから、動かすのも大変なのに、と思うが、それは言わない自分が悪い。

「早くしてよ」
不満げに催促してくる暁斗に、しょうがないと思う。
暁斗の望みは何としても叶えようとしている自分に笑う。凪沙が死なないでいたら、暁斗のこと、甘やかしまくって育てたんじゃないだろうか。

右手を動かしてみれば、かなり痛みが走ったが、動いてくれた。
そのまま、暁斗の頭に手を置いて、撫でる。
やはり痛いが、無視して暁斗に声をかける。

「この間から、どうしたの? 頭を撫でられて喜ぶ年じゃないでしょ?」
ほんの少しからかうように、言う。
「……うん。だから、すっごく恥ずかしい」
暁斗の声は、消え入りそうだった。

「でも、すごく嬉しい。リィカも知ってるでしょ。オレには母さんがいない。父さんはたくさん撫でてくれたけど、母さんの手は知らない。ずっと、母親に撫でられる他の子が羨ましかった」

母さん、と言葉が出て、リィカは緊張する。
暁斗は、何を言うんだろうか。

「――なんかね、リィカが母さんみたいだな、って思うんだ。母さんが、リィカみたいな人だったらいいなって思う。いつも優しくて、暖かくて、側にいるとほっとする。――リィカ、手止めないでよ。もっと撫でて」

思わず手を止めた。それが不満だったのか、文句を言われてまた動かす。
心臓が、バクバク鳴っていた。
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