181 / 681
第六章 王都テルフレイラ
罪は罪?
しおりを挟む
話が終わると、アレクたちが戻ってきた。
まずリィカが目を向けたのは、老人だった。
「えっと、ワズワース様ですよね。わたしリィカと言います。助けてくれてありがとうございました」
頭を下げたら、泣きそうな顔をされた。
「礼なんぞする必要はない。……すまなかったの」
なんで謝られるのが分からず首を傾げると、さらに泣きそうな顔をされた。
「リィカ、その……落ち着いたのか?」
泰基の言い方に、口が綻んだ。
本当は、大丈夫かって聞こうとしたんだろうなというのが、分かってしまった。
「大丈夫だよ。そんな気を使わなくていいから」
笑ったのに、泰基の目から心配の色が消えない。
困ったな、と思いながら他のみんなを見れば、泰基はまだましだった。
「アレク」
お礼を言わなきゃと思って目を向ければ、一番ひどい顔をしていた。
「ありがとう。アレクのおかげで、わたし正気に戻ったって聞いた。……アレクが何を言ってくれたか、わたし覚えてなくて……ごめんね。教えてくれないかな?」
そうしたら、みんなの雰囲気が少し変わる。バルとユーリが厳しい顔になった。泰基と暁斗はアレクを気遣う顔になる。
「……覚えていないなら、それでいい。落ち着いて良かった」
アレクは無理に笑ったような笑顔だった。
どうしたのか聞きたかったけれど、口にするのは憚られた。
※ ※ ※
「リィカ嬢、改めて我が国の者が本当にすまなかった」
ウォルターに頭を下げられて、ひぇっと思う。こっちは平民なのに、王太子がそんな簡単に頭を下げないでほしい。
「国王やライト侯爵の子息たちに罪を認めさせて、君に謝罪させようと思ったが、どうにも自分が悪いということを認めようとしなくてね」
ウォルターは申し訳なさそうに言ったが、リィカは何やら不穏な単語を聞いた気がした。
(……国王? 謝罪?)
「どうしようもないから、縛りあげて目と口塞いで連れてくるから、煮るなり焼くなり好きにしていい。あの炎の竜巻の的にしてもいいし、他の魔法の練習台にしてもいい」
「………………はい?」
何の話なのか、本気で理解できなかった。
「あの、なぜ国王陛下なのでしょうか?」
ここからが分からない。なぜ国王から謝罪されることになるのか。
聞くぐらい許されるだろうと思って、質問した。
「君に出ていけと怒鳴っただろう? 君だって衝撃を受けていたはずだ」
リィカは口ごもった。怖かったのは確かだ。手が震える。でもおかしい。
「……わたしは平民です。国王陛下の仰ること、間違ってないです。わたしが遠慮しなきゃダメだったんです」
ウォルターが顔をしかめたので、言い過ぎたかと思った。
謝ろうとリィカが思った時、ウォルターがワズワースを見た。
「ワズワース、どうしたらいいんだ?」
「ワシを頼るなと言いたいが、これは難しいのぉ」
ぼやくように言うと、リィカに向き直った。
「ライト侯爵の子息たちは連れてきて良いかな?」
国王よりは理由は分かる。思い出そうとして、
「………………!」
体が震えた。こんなんじゃ心配かけるだけなのに、止まらない。
「……あ、の、あの方たちも貴族様ですよね。罪でもないと思います。わたしは助けて頂いただけで、十分ですので」
震えながらも何とか最後まで伝える。
ワズワースは何かを言いたそうにした。実際に言ったのはアレクだった。
「……リィカ、そうじゃない。貴族だろうと何だろうと罪は罪だ」
(――ああ、そうか)
どこか納得してしまった。さっき、何が引っかかったのか、分かってしまった。
確かに、彼らからしたらそうなんだろう。
でも、現実は違う。貴族が平民に何をしたところで、罪になんてならない。それが当たり前の事実だ。
事実は揉み消される。何もなかったことにされる。だから、何かされても黙って耐えてやり過ごすのが、一番被害が少ない方法なのだ。
謝罪されるなんて、とんでもなかった。
「皆様、話はそこまでにしましょうか」
エレインが話を遮った。
「リィカさんも本調子ではないでしょうし、今日はここまでにしてください」
ホッとした。
このまま話を続けられても、リィカは頷けない。言われれば言われるだけ、苦しくなるだけだ。
そろそろ夕飯だから食べて休みましょう、と言われて、リィカは頷いた。
まずリィカが目を向けたのは、老人だった。
「えっと、ワズワース様ですよね。わたしリィカと言います。助けてくれてありがとうございました」
頭を下げたら、泣きそうな顔をされた。
「礼なんぞする必要はない。……すまなかったの」
なんで謝られるのが分からず首を傾げると、さらに泣きそうな顔をされた。
「リィカ、その……落ち着いたのか?」
泰基の言い方に、口が綻んだ。
本当は、大丈夫かって聞こうとしたんだろうなというのが、分かってしまった。
「大丈夫だよ。そんな気を使わなくていいから」
笑ったのに、泰基の目から心配の色が消えない。
困ったな、と思いながら他のみんなを見れば、泰基はまだましだった。
「アレク」
お礼を言わなきゃと思って目を向ければ、一番ひどい顔をしていた。
「ありがとう。アレクのおかげで、わたし正気に戻ったって聞いた。……アレクが何を言ってくれたか、わたし覚えてなくて……ごめんね。教えてくれないかな?」
そうしたら、みんなの雰囲気が少し変わる。バルとユーリが厳しい顔になった。泰基と暁斗はアレクを気遣う顔になる。
「……覚えていないなら、それでいい。落ち着いて良かった」
アレクは無理に笑ったような笑顔だった。
どうしたのか聞きたかったけれど、口にするのは憚られた。
※ ※ ※
「リィカ嬢、改めて我が国の者が本当にすまなかった」
ウォルターに頭を下げられて、ひぇっと思う。こっちは平民なのに、王太子がそんな簡単に頭を下げないでほしい。
「国王やライト侯爵の子息たちに罪を認めさせて、君に謝罪させようと思ったが、どうにも自分が悪いということを認めようとしなくてね」
ウォルターは申し訳なさそうに言ったが、リィカは何やら不穏な単語を聞いた気がした。
(……国王? 謝罪?)
「どうしようもないから、縛りあげて目と口塞いで連れてくるから、煮るなり焼くなり好きにしていい。あの炎の竜巻の的にしてもいいし、他の魔法の練習台にしてもいい」
「………………はい?」
何の話なのか、本気で理解できなかった。
「あの、なぜ国王陛下なのでしょうか?」
ここからが分からない。なぜ国王から謝罪されることになるのか。
聞くぐらい許されるだろうと思って、質問した。
「君に出ていけと怒鳴っただろう? 君だって衝撃を受けていたはずだ」
リィカは口ごもった。怖かったのは確かだ。手が震える。でもおかしい。
「……わたしは平民です。国王陛下の仰ること、間違ってないです。わたしが遠慮しなきゃダメだったんです」
ウォルターが顔をしかめたので、言い過ぎたかと思った。
謝ろうとリィカが思った時、ウォルターがワズワースを見た。
「ワズワース、どうしたらいいんだ?」
「ワシを頼るなと言いたいが、これは難しいのぉ」
ぼやくように言うと、リィカに向き直った。
「ライト侯爵の子息たちは連れてきて良いかな?」
国王よりは理由は分かる。思い出そうとして、
「………………!」
体が震えた。こんなんじゃ心配かけるだけなのに、止まらない。
「……あ、の、あの方たちも貴族様ですよね。罪でもないと思います。わたしは助けて頂いただけで、十分ですので」
震えながらも何とか最後まで伝える。
ワズワースは何かを言いたそうにした。実際に言ったのはアレクだった。
「……リィカ、そうじゃない。貴族だろうと何だろうと罪は罪だ」
(――ああ、そうか)
どこか納得してしまった。さっき、何が引っかかったのか、分かってしまった。
確かに、彼らからしたらそうなんだろう。
でも、現実は違う。貴族が平民に何をしたところで、罪になんてならない。それが当たり前の事実だ。
事実は揉み消される。何もなかったことにされる。だから、何かされても黙って耐えてやり過ごすのが、一番被害が少ない方法なのだ。
謝罪されるなんて、とんでもなかった。
「皆様、話はそこまでにしましょうか」
エレインが話を遮った。
「リィカさんも本調子ではないでしょうし、今日はここまでにしてください」
ホッとした。
このまま話を続けられても、リィカは頷けない。言われれば言われるだけ、苦しくなるだけだ。
そろそろ夕飯だから食べて休みましょう、と言われて、リィカは頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します
枯井戸
ファンタジー
──大勇者時代。
誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。
そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。
名はユウト。
人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。
そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。
「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」
そう言った男の名は〝ユウキ〟
この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。
「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。
しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。
「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」
ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。
ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。
──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。
この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。
【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ
一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。
百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。
平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。
そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。
『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
生贄公爵と蛇の王
荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。
「お願いします、私と結婚してください!」
「はあ?」
幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。
そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。
しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる