【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第六章 王都テルフレイラ

罪は罪?

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話が終わると、アレクたちが戻ってきた。

まずリィカが目を向けたのは、老人だった。
「えっと、ワズワース様ですよね。わたしリィカと言います。助けてくれてありがとうございました」
頭を下げたら、泣きそうな顔をされた。

「礼なんぞする必要はない。……すまなかったの」
なんで謝られるのが分からず首を傾げると、さらに泣きそうな顔をされた。



「リィカ、その……落ち着いたのか?」
泰基の言い方に、口が綻んだ。
本当は、大丈夫かって聞こうとしたんだろうなというのが、分かってしまった。

「大丈夫だよ。そんな気を使わなくていいから」
笑ったのに、泰基の目から心配の色が消えない。
困ったな、と思いながら他のみんなを見れば、泰基はまだましだった。

「アレク」
お礼を言わなきゃと思って目を向ければ、一番ひどい顔をしていた。

「ありがとう。アレクのおかげで、わたし正気に戻ったって聞いた。……アレクが何を言ってくれたか、わたし覚えてなくて……ごめんね。教えてくれないかな?」

そうしたら、みんなの雰囲気が少し変わる。バルとユーリが厳しい顔になった。泰基と暁斗はアレクを気遣う顔になる。

「……覚えていないなら、それでいい。落ち着いて良かった」
アレクは無理に笑ったような笑顔だった。
どうしたのか聞きたかったけれど、口にするのは憚られた。


※ ※ ※


「リィカ嬢、改めて我が国の者が本当にすまなかった」
ウォルターに頭を下げられて、ひぇっと思う。こっちは平民なのに、王太子がそんな簡単に頭を下げないでほしい。

「国王やライト侯爵の子息たちに罪を認めさせて、君に謝罪させようと思ったが、どうにも自分が悪いということを認めようとしなくてね」

ウォルターは申し訳なさそうに言ったが、リィカは何やら不穏な単語を聞いた気がした。
(……国王? 謝罪?)

「どうしようもないから、縛りあげて目と口塞いで連れてくるから、煮るなり焼くなり好きにしていい。あの炎の竜巻の的にしてもいいし、他の魔法の練習台にしてもいい」

「………………はい?」
何の話なのか、本気で理解できなかった。

「あの、なぜ国王陛下なのでしょうか?」
ここからが分からない。なぜ国王から謝罪されることになるのか。
聞くぐらい許されるだろうと思って、質問した。

「君に出ていけと怒鳴っただろう? 君だって衝撃を受けていたはずだ」
リィカは口ごもった。怖かったのは確かだ。手が震える。でもおかしい。

「……わたしは平民です。国王陛下の仰ること、間違ってないです。わたしが遠慮しなきゃダメだったんです」
ウォルターが顔をしかめたので、言い過ぎたかと思った。
謝ろうとリィカが思った時、ウォルターがワズワースを見た。

「ワズワース、どうしたらいいんだ?」
「ワシを頼るなと言いたいが、これは難しいのぉ」
ぼやくように言うと、リィカに向き直った。

「ライト侯爵の子息たちは連れてきて良いかな?」
国王よりは理由は分かる。思い出そうとして、
「………………!」
体が震えた。こんなんじゃ心配かけるだけなのに、止まらない。

「……あ、の、あの方たちも貴族様ですよね。罪でもないと思います。わたしは助けて頂いただけで、十分ですので」
震えながらも何とか最後まで伝える。

ワズワースは何かを言いたそうにした。実際に言ったのはアレクだった。
「……リィカ、そうじゃない。貴族だろうと何だろうと罪は罪だ」

(――ああ、そうか)
どこか納得してしまった。さっき、何が引っかかったのか、分かってしまった。

確かに、彼らからしたらそうなんだろう。
でも、現実は違う。貴族が平民に何をしたところで、罪になんてならない。それが当たり前の事実だ。

事実は揉み消される。何もなかったことにされる。だから、何かされても黙って耐えてやり過ごすのが、一番被害が少ない方法なのだ。
謝罪されるなんて、とんでもなかった。


「皆様、話はそこまでにしましょうか」
エレインが話を遮った。
「リィカさんも本調子ではないでしょうし、今日はここまでにしてください」

ホッとした。
このまま話を続けられても、リィカは頷けない。言われれば言われるだけ、苦しくなるだけだ。

そろそろ夕飯だから食べて休みましょう、と言われて、リィカは頷いた。
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