【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第八章 世界樹ユグドラシル

事情説明①

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「……ククノチの本体を引きずり出したときか」

唐突なアレクの、低い言葉にリィカは身をすくませる。

主語がなくても、何を言いたいのか分かる。
バナスパティの言った、生命力を使った、という話だろう。

(バレないと思ってたのに、余計な事言わないでよ)

八つ当たりである事は分かっているし、治すために貴重な物を提供してくれたのだから、文句を言うのは違うのだが、それでも言いたくなる。

隠そうと思ったことを、隠せた例しがない。
必ず何かでバレる。

ため息をついたリィカだが、それにさらにアレクの表情が険しくなっていたことには気付かなかった。


「出来ましたよ」

ユーリがカップに入れて持ってきた。
薬の何とも言えない匂いが、立ちこめる。

アレクに体を起こしてもらう。
リィカがカップを受け取ろうとしたら、アレクに取られた。

「飲め」

カップが口元に来る。

アレクがリィカを支えている手は、片手だけだ。それなのに不安定な感じがまったくしない。
すごいな、と思いつつも、カップに口を付ける。

「……おいしくない」

文句を言いながら、全部飲み干した。

「アレク、ありがとう。ユーリも」

支えてくれたアレクと、作ってくれたユーリにお礼を言うと、ユーリが笑った。

「どういたしまして。世界樹の事情もですが、ククノチの所で何があったのか、アレクとリィカ側の事情も、きちんと聞かせて下さいね?」

笑ったと思ったが、目は全く笑ってなかった。

「怒ってる……?」

「おや、そう見えますか? 生命力を使って儚くなった方々の話は有名ですからね。気になりますが、それだけですよ?」

(……絶対ウソだ。怒ってる)

そう思ったが、言ったらやぶ蛇になると思って、懸命にもリィカは飲み込んだ。


※ ※ ※


『ふむ。娘の回復まで少々掛かるか。良ければククノチの所での事情とやら、聞かせてくれぬか? 古い友人だが、ここまで全く応答なく、突然そなたらを送ってきたからな。何かあったのなら、我も知りたい』

「あなたにとってのいい話にはならないが、それでも良ければ構わない」

アレクの言葉に、バナスパティは少し考えるそぶりを見せる。

『……なるほど。構わぬよ。聞かせてくれ』

アレクはリィカを見る。リィカも頷いたのを確認して、話を始めた。


途中、リィカも補足しつつ、話は終わった。
何せ、ククノチと香織の過去についてはリィカしか知らない。
アレクも初耳だった。

「それで、仮の姿だとか本体のことだとか知ってたのか」
と、納得したように言っていた。

『そうか。それでククノチは逝ったか。主らが送られてきたほとんど直後に、気配がなくなったからな。そうではないかと思っておった』

悼むようにバナスパティは目を閉じる。

どうやら恨まれる事はなさそうだと、アレクが安心していると、リィカと目が合う。リィカもホッとした顔をしていた。

リィカが体を起こした。

「――すごい、もう回復してる」

『世界樹の葉は、この世界の最高の回復道具と心得よ。回復の早さも段違いだ。だが、過信するな。生命力の減少は世界樹であってもそう治せるものではない。
 初めてであり、そなた自身も使い過ぎぬよう気をつけたからこそ今回は難なく治ったが、続けばその限りではない』

「……はい」

リィカの顔は不満そうだ。多分、他に方法がなかったからしょうがない、とか思っているんだろうな、とアレクは思う。

多用するつもりはないのだろうが、だからといって使う事をためらったりもしないだろう。

(もっと、強くならないとな)

ククノチの所では、自分がもっとしっかりしていれば、リィカにそんな無茶をさせずに済んだのだ。
無茶をさせないためにも、もっと強くなりたかった。

(――魔剣か)

ククノチに教えられた情報だ。それを探して手に入れるのも、一つの方法だろうか。


『さて、では我の側の事情を説明させて頂こう』

バナスパティが話を切り出し、語り始めた。


※ ※ ※


世界樹ユグドラシル。
小島の上に立つ、巨大な木。この世界を保っていると言われる木だ。


この樹が登場したのは、はるか彼方昔。
原因は、水害だった。

津波や洪水、河川の氾濫などに悩まされていた人々が、何とかできないかと考えていた。

その時、ある人が言った。

「大陸の外に広がる海。その水を減らせば、水害も減るのではないか」

どうやって。出来るわけない。
だが、出来てしまった。

海水を吸い上げて成長する植物を、異界から召喚することに成功したのだ。

たった一本あったところで、何も変わらない。そう思われていたのに、その植物はみるみるうちに巨大な樹へと生長した。

水面は、人の目では変化は感じなかった。だが、水害は激減した。


『その樹……当時はただ大樹とだけ呼ばれておったがな。それがユグドラシルだ。異界から召喚された際、その性質が変質したか大きく伸びたか、したらしい』

そこでバナスパティは言葉を切ったが、話はツッコミどころ満載だ。
どこから何を突っ込むべきかが難しい。

けれど、まずここかな、と思ったリィカが口を開いた。

「異界から召喚って、どういうことですか?」

『そのままだ。勇者とてそうだろう? 我もそうだし、グラムもそうだ。ククノチは召喚ではなく、異界から迷い込んだ形になるようだがな』

「……えーと」

ツッコミどころが増えた。
勇者が召喚された。これはOKだ。ククノチの迷い込んだ、という表現も理解できる。

「グラムって聖剣ですよね? それに、バナスパティ……さんも、召喚された?」

呼び捨てにするのもどうかと思い、迷いつつもさんを付ける。

『バナスパティで良い。グラムの話も知らぬか。勇者は知っておるのか?』

視線を向けられた暁斗は頷いた。

「……グラムに聞いたから、知ってる」

驚きの視線が暁斗に集まるが、それに暁斗は反応しようとはしなかった。

『ふむ。娘よ、グラムの話は興味があるなら聞いてみるが良い。話すかどうかは知らぬがな。
 我については、その通りだ。ここは海に浮かぶ小島だ。そうそう人は立ち寄れぬ。ユグドラシルに危害を加える魔物を倒し追い払う役割を求められて、我は召喚された』

「どうやって召喚されたんですか?」

召喚された目的も大切だが、手段の方が正直疑問だ。
グラムの話も、暁斗がそれを知っているらしい話も気になるが、それも今は後回し。

リィカの疑問に、バナスパティは呆れた顔をした。

『どうも何も、召喚の魔方陣を使ったのだろう。他に方法があるのか?』

そう言われた所で、リィカの頭はパニックだ。何か色々前提がズレている気がする。そう思うが、それがよく分からない。

「召喚の魔方陣というのは、アルカトル王国にある魔方陣のことですか? あれは勇者を召喚するための陣だと思っていましたが」

ユーリが代わりに質問した。
別に助け船を出すつもりでもなく、純粋に疑問を口にしただけだが。

リィカが、そうそう、と内心で頷く。

『どこにあるのかまでは知らぬが……。なるほど、今は勇者を召喚するためだけにしか使われておらぬのか。
 そのように情報を改変していったのか。あるいは昔召喚しすぎたせいで、使い過ぎて力を失いつつあるのか、力が溜まるのに時間が掛かるのか。そんな所であろうな』

バナスパティは、一人(一匹?)で納得したように頷くが、聞いている側は大混乱だ。
が、聞く側の混乱に付き合ってくれるつもりはないらしい。

『召喚については、それで良いな? では、本題に入るぞ』

(いや、良くないし)

リィカは頭の隅で思ったが、混乱している頭では口に出せないままに終わった。
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