【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第八章 世界樹ユグドラシル

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「質問攻めで悪いが、俺からも聞いていいか?」

ユグドラシルとバナスパティに向けて、そう言ったのはアレクだった。

『構わない。何を聞きたい?』

「水害の事だ。俺たちは、過去に水害があったという話など、聞いた事がないし、そのためにユグドラシルが召喚されたことも、もちろん知らない。
 あなたたちが召喚されたのが七千年前と言うことは、その頃に水害がひどかったと言うことか? なぜ今に伝わっていないんだ?」

ユグドラシルとバナスパティは少し困ったような様子を見せる。
口を開いたのは、ユグドラシルだった。

『具体的にいつ頃から水害がひどかったかは、私も知らない。その頃だけなのか、もっと以前より悩まされていたのか、今となっては知る者は……あるいはグラムなら知っているかもしれないがな』

次いで、バナスパティが口を開いた。

『お主らに伝わっていない理由など、簡単だ。人の寿命は短い。如何に伝えようとしたところで、どこかで忘れられていく。だからこそ、人が忘れてもなお残る、ユグドラシルとそれを守る存在が必要だったのだ』

アレクは、グッと唇を噛みしめる。

そうだとすれば、自分たちの何も知らないところで、この二つの存在はずっと自分たちを守ってくれていた事になる。

「……ありがとう。感謝するよ」

頭を下げれば、『おやおや』と困ったような声が聞こえた。

『気にするな。大したことはしていない』

『この地でのんびり過ごすのは悪くない。かの風の勇者やお主らのように、たまに来た人と話すのも楽しんでおるしな』

ユグドラシルとバナスパティは、笑っていた。


※ ※ ※


「質問攻めついでに、僕からも聞かせて下さい」

今度はユーリが口を開く。

「召喚の魔方陣のことですが……、結局勇者以外も召喚可能という事なんですよね? でも、力が失われてきている?」

『ああ。そう言えば、そんな話をしたな』

バナスパティが思い出したように話す。

『力が失われてきているとは、我の想像だ。実際のところは知らぬ。ただ、我らが召喚されて少し後、召喚が連続して行われていたのは確かだ。我らの召喚が成功したことで、おそらく増長した者がいたのであろうな』

やれやれと言わんばかりのバナスパティに、ユグドラシルが苦笑し、後を引き取って話をした。

『たいした事でもないのに、何でも召喚で解決しようとしていたようだ。それで、外の世界から来たものに荒らされて、人の世はしばし混乱していたようだった』

それを何とか静め、外から来たものを「聖なるもの」として崇める事とした。

その流れで、グラムが聖剣と呼ばれ、バナスパティが聖獣と呼ばれるようになった。ユグドラシルも、聖大樹と呼ばれていたらしい。

「……………それはその、すいません」

ユーリは思わず謝った。
昔から人というのは変わっていないのか、という諦めにも似た感情が強い。

「……あんたたちは、突然この世界に召喚されて、何も思わなかったのか?」

ユーリの謝罪に、不思議そうなユグドラシルとバナスパティに、今度はバルが質問した。

『何がだ?』

「タイキさんとアキトが、最初に言ったんだ。こんなのは誘拐だろう、お前たちの事情に興味などない、と言っていた。……だから、あんたたちはどうだったのかと」

『そうか。……やはり時間の経過というのは、酷なものだな』

ユグドラシルの表情は、どこか悲しげだ。

『私は召喚される前に、自らの役割について告げられた。納得した上で、召喚されたのだ』

「……なっ!?」

驚きの声を上げたのはバルだが、アレクもユーリも、リィカも驚く。

『我もだな。納得の上で召喚に応じた。あの召喚の魔方陣は、それが可能なはず。それをしないが故に、過去混乱が起こったわけだが……。今はもう、忘れられてしまったのだな』

「「「「………………」」」」

言うべき言葉が出てこずに、四人が黙り込んでいたら、暁斗と泰基が戻ってきた。

「ただいまぁ……、どうしたの?」

視線が集まって、暁斗が首を傾げる。泰基も訝しげにしている。

「……いや、何でもねぇ」

バルが首を横に振って、言った。

「それよか、皆に言っときたい。アシュラから聞いた、魔族情報だ」

全員の顔が、真剣なものに変わった。


※ ※ ※


「風の魔道具……」
「面白みも何もない名前ですね」
「うん、同感」

リィカとユーリの会話に、バルは力が抜けた。

「……もうちっと何かねぇのかよ。驚け」

「いやだって」

「魔道具を使ってるかも、という話は前からあったじゃないですか。やっぱりそうか、程度ですよ」

「……そうかよ」

バルはガックリした。
一体自分の驚きは何だったのか。

そう思いつつ、他の仲間を見てみれば、アレクと暁斗が驚いた顔をしていたので、少し安心した。

「でも、魔族の情報源って、風の手紙エア・レターで話を聞いてるだけなのかな?」

「他にもあるでしょう。でなければ、ジャダーカがリィカに一目惚れできた理由が分かりません」

「……それ言わないでよ」

リィカがすごく嫌そうな顔をした。
それを見て、バルも思い出した。

「そういや、リィカに恋人がいるって言っちまったな。あれも向こうに伝わったか?」

「もしかして、ジャダーカの狙いがリィカからアレクに移るかもってことですか?」

「いや、恋人が誰とは言ってねぇが……、可能性はあるな」

なぜか面白そうに言うユーリの言葉に、バルはフォローしようとしたが、全くフォローにならなかった。

アレクは、憮然としながらも、どこかやる気を漲らせている。

「俺は構わないぞ。俺が倒してしまえば、リィカの危険が一つ減るからな」

その言葉に、リィカがぷくっと頬を膨らませる。

「わたしの危険減らすために、アレクが危険を背負わないでよ」

「あの結界がなければ、一緒に戦おうと言うんだけどな」

笑うアレクの目は、どこか切ない。
それに気付いて、リィカがどうしたのか聞こうとしたら、バルが口を開いた。

「ジャダーカのことは、とりあえずいい。魔道具は人間の技術だってのも気になるが、現時点じゃどうしようもねぇな。サルマたちに聞いてみるって手もあるだろうが……」

「……どうしても必要なら、聞くよ。でも、聞いたところで何もなんない気がする」

バルに視線を向けられたリィカが、一瞬ためらってから答える。

だが、仮にそれで何かが分かったところで、すでに魔族は自由に魔道具を使っているのだ。聞いたところで何も変わらないだろう。

「僕も同感です。少なくとも、あの三人が魔族と関わって魔道具作りを手助けしていた、とは思えません。だったら、何も聞かずにそのままでいいと思いますよ」

ユーリも同意を示す。
アレクや泰基が頷くのを確認して、バルはさらに続けた。

「じゃあ、その件は終わりだ。――魔族の印象については……まあ何とも言えねぇが」

馬鹿正直だと思った、その印象。
これに関しても、何も言いようがない。

「あ、そう言えば」

暁斗が声を上げた。が、そこで言葉が止まる。

「どうした?」

泰基が聞いて、さらに少し。

「……ええとね、グラムが言ってたんだけど。魔族には脳筋が多いって。バカだから、今まで真っ正面からしか攻めてこなかったって」

「……は?」
「……え?」

リィカと泰基が、呆然とした。

「…………悪い、ノーキンって何だ?」

残念ながら、この世界に人には通じなかった。

「え? ええと……?」

目を泳がせた暁斗は、そのまま視線を泰基にもっていく。
もう何度もこの手の説明を暁斗に押しつけられてきた泰基は、ため息一つで諦めたようだ。

「脳みそまで筋肉だ、とか確かそんな感じの言葉の略語だな。肉体派で、思考が単純だとかバカだとか、そういう性格の人を指して言う言葉だ」

「つまり、どちらかというと悪口的な言葉なんですね。アレクやバルみたいな人のことですか?」

ユーリは、悪口と言っておきながら、そこであっさりと友人の名前を挙げた。

「おいユーリ」
「どういう意味だ」

名前を挙げられた二人が低い声で唸ったが、ユーリは素知らぬ顔をしていた。

泰基は、コメントしにくいことを言うな、と思いつつ、二人をフォローするように言った。

「……いやでも、二人は確かに肉体派だろうが、別に脳筋って感じはしないけどな」

力だけってことはない。戦略も練るし、駆け引きもする。
そう考えると、魔族も脳筋というほどじゃない、という気もする。

泰基は、今まで出会った魔族のことを思い出してみる。

確かに、戦いに思考が偏りがちというか、力尽くでどうにかしようというか、あまり深く考えずに行動しているような面はあった気がする。

「……その考えなしの連中に、知恵を与えているのが、アシュラの魔道具の先にいた奴ってことか?」

泰基がポツリとつぶやいた言葉に、ユーリが頷いた。

「そういうことかもしれませんね……」

つまり、今までは魔族に知恵者はいなかったのに、今回はそれが現れた、ということだ。

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