【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
259 / 681
第九章 聖地イエルザム

闇魔法を使う少年

しおりを挟む
不死アンデッドが巣くっているという古い教会に行くことになった、勇者一行。

「お疲れでしょうから、本日は休んで頂いて、明日で構いませんが」

イグナシオにはそう言われたが、今日行くことに決めた。

確かに、普通なら「お疲れ」状態だろうが、こちらはユグドラシルの所から飛ばされてきただけだ。
その前は、移動も何もしていない。

いわゆる野宿状態が続いていたが、夜番をしていたわけでも何でもなく、ユグドラシルとバナスパティのおかげで、快適な日々を過ごしていたと言っても過言ではない。

それを言うわけにはいかないが、疲れは問題ないのでこれから向かう、とだけ伝えた。



そうしたら、「食事だけでも如何ですか?」と勧められ、現在は一行の六人で食事中だ。

最初はイグナシオも同席する予定だったが、来客を告げられていた。

それでも、最初は勇者一行を優先させようとしていたが、それをアレクが断った形だ。

「教会に乗り込むに当たって、六人で話し合いをしたいので、お構いなく」

そう言われて、イグナシオも引き下がった。


※ ※ ※


食事が終わる頃に、一人の男性が現れた。
最初、この聖地に飛ばされて兵士たちに囲まれたとき、その代表者としていた男だ。

「先ほどは大変失礼致しました。私は、この聖地イエルザムにて神官兵隊長を務めております、ウリックと申します」

その男は、丁寧に頭を下げた。


「……神官……兵隊長?」

初めて聞いた役職名に、アレクが疑問を呈する。

「はい。イエルザムはすべて教会が中心となって回ります。軍に所属する者すべてが神官ですので、所属する兵は神官兵と呼ばれています。
 神官兵隊長は、神官兵のトップ……、恐れ多くも私はイエルザムの軍の最高責任者の地位を拝命しております」

へえ、とアレクは思う。

(どうりで、スムーズに代表にまで話が通ったわけだ)

まさか、軍のトップとはさすがに思わなかった。



「この聖地では、闇の魔法を使える神官も多いのですか?」

興味津々、という様子で聞いたのはユーリだった。
さすがに神官だけあって、関心があるらしい。

「いえ、残念ですが、光の祝福を受けた神官がほとんどです」

ウリックはといえば、苦笑している。
闇の教会があるとはいっても、この聖地でもどうしても光の教会が優勢なのだ。

「現在、闇の祝福を受けて闇魔法を使えるのは、この聖地においてはイグナシオ様だけです。それと数年前に一人、闇の祝福を求めて来た者がおりましたが、その程度です」

「そうなのですか」

いささか意外そうにユーリは頷いた。
闇の教会があるのだから、もっと闇魔法の使い手がいるかと思っていた。


神官兵だけでどうにもならないときには、冒険者に依頼したり、ルバドール帝国へ協力を要請したりもするらしい。

しかし、今のこの事態ではどちらも難しい、という事だった。


※ ※ ※


「んーっ!」

ユーリが大きく伸びをした。
服を着替えたのだ。

キリムの炎で服がボロボロになり、その後毛布だけ纏っていた所から、バナスパティが持ってきた服を着ていたが、サイズも合わず落ち着かない。

最初は街に行ってどこかで購入しようと考えていたが、教会側が用意してくれた。


不死アンデッドが巣くう古い教会までの案内も、ウリックがしてくれるらしい。

行きましょう、と言われ、教会の入り口で待つだけの予定のリィカと暁斗の表情が、明らかに強張った。が、それでも立ち上がる。


イグナシオは、まだ来客の対応中とのことだ。

「数年前に闇の祝福を受けた者が、今イグナシオ様を訪ねて来ているんですよ」

ウリックの説明に、一行は「へえ」とでも言いたげな顔をした。

進んでいくと、闇の教会の入り口に、イグナシオと、もう一人少年がいた。アレクたちとそう年齢の変わらなそうな少年だった。


その少年が、パッと一行を見る。

「イグナシオ様、彼らが勇者様のご一行ですか?」

「そうだけど、あまり言い触らしては駄目だからね」

イグナシオが困ったように言っている。

「分かってます。それよりも」

少年が軽くイグナシオに返事をすると、勇者一行を見た。

「ボク、ダランと言います。ボクも何かこの聖地の力になりたいんです。その不死アンデッドの巣くうという教会に、ボクも一緒に行かせてもらえませんか?」

その申し出に、勇者一行が、そしてイグナシオとウリックも絶句した。



「――ダラン、相手は不死アンデッドだ。闇魔法では相性が悪い。私が行かないのも、そのせいだよ」

イグナシオが困ったように、説得を始める。

「その通りだ、ダラン。君が闇の祝福を受けてから、どのくらい魔法を使えるようになったかは知らないが、足手まといになるだけだ」

ウリックも同じように説得する。
肝心の勇者一行は、困ったような顔をしているだけだ。

だが、ダランは「平気」と笑う。

「自分のことくらい、自分で守ります。ボク、強いんですよ?」

そう言って取り出したのは、冒険者カード。冒険者としての身分証明書だ。

「――ランクB!?」

イグナシオが驚く。
アレクたちも驚いた。

冒険者の最高ランクはA。
その一つ下のランクBは、かなりの強さだ。

冒険者でランクBだからといって、魔物のBランクと同じ強さがあるというわけではないが、それでも一流と呼ばれる強さを持つのが、ランクB冒険者だ。

ダランの若さでランクBとは、かなり珍しい。自らを強いというのも分かるものだ。


ちなみに、魔物の強さも同じくランクで表されるので、混同して分かりにくい、という意見が大半で、アレクたちも冒険者をやっているとき、同じ気持ちだった。

だが、改善されることもなく、ずっと来てしまっているのが現状だ。


「どうですか? 一緒に行ってもいいですか?」

改めてダランに詰め寄られて、アレクは目を泳がす。

考えてみれば、旅が始まってからずっとこのメンバーで戦ってきた。
別の誰かが入ってくる、と言うことがなかったのだ。
そのせいなのか、忌避感が強い。

どうしようか、と思っていたら、ユーリの声が飛び込んできた。

「いいんじゃないですか? 闇魔法を見てみたいですし」

「……あっさりだな。理由、そこなのか」

「こういう人に断りを入れる方が面倒じゃないですか。何があろうと自己責任だということくらい、ランクBなら分かっているでしょうし。
 見たことのない闇魔法を見られるんです。僕たちにメリットがないわけじゃありません」

「……………」

黙り込むアレクの横で、ダランが笑い出した。

「あはははは。そう思っていても、普通口にしないと思うんですけど。
 ええ、もちろん。死んでも文句は言いませんが、不死アンデッドにはなりたくないので、浄化はお願いします。あとはケガしたら治療をお願いします」

しれっと要求を出してくるダランをユーリが睨み、アレクに視線を向ける。

アレクは、他の四人の顔を見て、だれも拒否する様子がないことを確認すると、頷いた。

「分かった。付いてきたいのなら勝手にしろ。ただ、本当に自己責任だからな。――それと、敬語なしで普通に話せ」

「いいの? 助かるなぁ。勇者様のご一行ってもっと堅苦しいかと思ったけど、そうでもないんだな」

遠慮の欠片もなく言葉遣いを切り替えたダランに、アレクは呆れたが、イグナシオは心配になったらしい。

「……ダラン、頼むから失礼な事をしないでくれよ?」

「大丈夫ですって。いくらボクでもその辺はわきまえてます」

「……本当かなぁ」

なおもイグナシオは心配そうにつぶやき、さらに勇者一行に頭を下げた。

「こんな話になってしまって、申し訳ありません。ダランのお守りをよろしくお願い致します」

「だから、守ってもらわなくて大丈夫だって」

軽くダランが突っ込むが、さらにイグナシオの顔が不安そうになる。その軽さが信頼を損ねているんじゃないんだろうか、とアレクは思う。

(何だか、妙な話になったな)

暁斗とリィカが来るのは入り口までで、ついて来るのは今日初めて出会った人物、といういささか変則的な形に、そう思った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

最強種族のケモ耳族は実はポンコツでした!

ninjin
ファンタジー
家でビスケットを作っていた女性は、突然異世界に転移していた。しかも、いきなり魔獣に襲われる危機的状況に見舞われる。死を覚悟した女性を救ってくれたのは、けものの耳を持つ美しい少女であった。けもの耳を持つ少女が異世界に転移した女性を助けたのは、重大な理由があった。その理由を知った女性は・・・。これは異世界に転移した女性と伝説の最強種族のケモ耳族の少女をとの、心温まる異世界ファンタジー・・・でなく、ポンコツ種族のケモ耳族の少女に振り回させる女性との、ドタバタファンタジーである。

慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔
ファンタジー
前世で遊んだ乙女ゲームと瓜二つの世界に転生していたエカテリーナ・ハイデルフトが前世の記憶を取り戻した時にはもう遅かった。 運命のまま彼女は命を落とす。 だが、それが終わりではない。彼女は怨霊と化した。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

処理中です...