【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第九章 聖地イエルザム

デート②

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(――むうっ……)

リィカは、口を尖らせた。

横を歩くアレクを見る。
改めて思うが、アレクはカッコいい。

「ん?」

リィカの視線に気付いて不思議そうにしているアレクは、気付いてないのだろう。

「何でもない」

手を繋いでいただけだったが、アレクの腕に自分の腕を絡める。

「――ど、どうした?」

アレクが動揺したようにどもる。

「だめ?」

「……いや、構わないが」

「じゃあ、このままで」

アレクに言って、リィカはこっそり視線を別の所に持っていく。

そこにいたのは、アレクを見て顔を輝かせている女子集団だ。アレクはきっと気付いてない。

さっきから、女の人の目がアレクを追っている。それがどうにも面白くなくて……、どうしようもなく不安になるのだ。


※ ※ ※


「お嬢ちゃん、かわいいねぇ。よっし、オマケだ。もう一本持ってきな!」

「いいんですか? おじさん、ありがとうございます!」

屋台で買い食いをしながら、そんなやり取りが交わされるのを、アレクは横から見ている。
もう何度目になるか分からないやり取りだ。

「はい、アレク」

そして、オマケでもらったものは、大抵自分に回ってくる。

「リィカがもらっているんだ。リィカが食べろ」

「だって、そんなに食べらんないもの。でも、くれるのに断るのももったいないし」

まあ、自分はまだまだ食べられるから、構わないのだが。

「リィカと一緒にいると、オマケのてんこ盛りだな」

「ああいう屋台のおじさんって、女の子相手には大体同じ事言ってオマケしてるよ?」

「そうなのか……?」

リィカだけだと思うのだが、他の女子と一緒に行動したことなどないので、分からない。

アレクは冒険者をしていた頃、バルやユーリと一緒に王都の街中を散策しては買い食いをしていたが、残念ながら一度もオマケをしてもらった事はない。


「おっ、そこの兄ちゃん!」

その男性の声に、アレクが立ち止まる。
声は屋台からだ。目が合ったので、間違いなく自分を呼んだらしい。

「そうそう、そこの別嬪連れたあんただ! 兄ちゃんもずいぶん男前だねぇ」

ニヤッと笑われた。
見れば、その屋台は食べ物ではなかった。

「装飾品か?」

「おう。どうだ、デートなんだろ? 記念に何か女の子に買ってやるのも、男の甲斐性ってもんだぞ?」

デートって分かるものなのか。

一瞬アレクはそう考えるが、考えてみれば、腕を組んで歩いているのだ。普通に考えれば、デート以外の何者でもないのか。

そんな事を考えつつ、アレクは品物に目を落とし、次いでリィカを見る。

「うわぁ……」

感動したように見ているリィカを見て、アレクは目を細めた。
商売人の口車に乗るのは面白くないが、ここはあえて目を瞑る。

「何か欲しいのはあるか? 贈り物プレゼントさせてくれ」

「え? ええっ!? い、いいよ。そんなこと!」

慌てふためいて、断られるのも想定内だ。

「俺がそうしたいんだ。俺のためだと思って、何か選んでくれないか?」

リィカが口を噤む。
こう言えば、リィカはきっと断れない。

「……う、うん」

案の定、頷いた。

「おお、兄ちゃん、やるねぇ」

商売人に面白そうに言われたのは、無視した。


※ ※ ※


言いくるめられたのは分かったリィカだが、どのアクセサリーも可愛いし、綺麗だ。

「これ、みんな宝石なんですか?」

「ああ。あんまり質は良くないがな」

正直な店主だ。けれど、宝石を見る目などないから、構わない。
夢中になって見始めてしまった。


あれもこれも、と決め手がない中、目に入ったのは指輪のペアリング。

手を伸ばす。
触ろうとして……その前に確認が必要だった。

「あの、手に取っていいですか?」

「おお、いいぞ。なんだ嬢ちゃん、それが気に入ったのか? 他のに比べて宝石小さいし、あまり女の子が気に入るもんじゃないが」

確かにその通りだ。一ミリ程度の、本当に小さい赤い宝石がついているだけ。
その宝石に合わせたのか、リング自体も細い。

「でも、なんか、他の宝石と違う気がする……」

リィカが言うと、屋台の店主は「ほう」とつぶやいた。

「嬢ちゃん、いい勘してるね。そいつは、宝石が魔石化した代物だよ」

「宝石が……魔石、化……?」

魔物化とはよく言うが、魔石化とは、初めて聞く言葉だ。
リィカが首を傾げていると、アレクが、気が動転したように店主に話しかけた。

「待ってくれ。魔石化した宝石なんて、とんでもない貴重品だろう。失礼だが、こんな小さい屋台に出るような代物じゃ……」

「なんだ、兄ちゃんは宝石の魔石化を知ってるのか。そう知られてるもんじゃないってのに」

「……………ああ、まあ」

困ったようにアレクが曖昧に頷く。

(――王子様だもんね。普通に知られてないことを知っててもおかしくない)

普段はあまり考えないようにしていることが、こうしたふとした時に、リィカの脳裏をよぎる。

でも、今は王子も何も関係なくデート中だ。
そう言い聞かせて、アレクの腕を引っ張った。

「宝石の魔石化ってなに?」

少し拗ねたように言ってみる。アレクだけ知っててずるい、という雰囲気を込めて言ってみたら、アレクの目が優しくなる。

「そのままだ。宝石が魔石になったんだ」

「……それじゃ分かんない」

その説明では、本当にそのままだ。
今度は演技でも何でもなく、不満そうに言えば、アレクが困った顔になる。

「何て言えばいいか……」

アレクが助けを求めるように店主を見るが、店主は面白がっているのか、説明しようとしない。

リィカはじっとアレクを見たままだ。
アレクは頭をガシガシかいて、たどたどしく説明を始めた。



普通、魔石は魔物の中にある。

魔物に魔力を与えている、魔物の中心部。人間で言う心臓と同じくらいの、魔物にとっての重要な役割を果たしている。

魔石は、魔力が凝縮されて石の形を取った物、とされている。


この世界では、動物が魔物化する。

その過程がはっきり解明されているわけではないが、空間に満ちる魔力が、一定以上動物に取り込まれると、その魔力が魔石となって魔物化するのではないか、と言われている。

そういった魔物化の現象が起こるのは、動物だけ、生き物だけだとされている。

しかし、滅多にないことだが、その「魔物化」現象が無機物にも起こるのだ。


「……つまり、宝石に魔力が取り込まれて……魔物化した? でも、生き物じゃないから、魔物化じゃなくて、魔石化……?」

「嬢ちゃんもなかなか理解早いね。そういうこった」

店主が感心したように、アレクとリィカを交互に見る。

「魔物から取り出した魔石は浄化しなきゃならないが、宝石が魔石化したのは浄化の必要はない。元が宝石だから、純粋に装飾品としても人気だ。金持ちの貴族にとっては、見栄を張るのに良い代物らしい」

普通の魔石は加工できないが、魔石化した宝石は、他の宝石と同じように加工できるらしい。

だが、と店主は続ける。

「滅多にないし、たまに出てもとんでもない高額になる。だから確かに、兄ちゃんの言うように、こんな場所に出てくるものじゃないんだが」

店主は、リィカの持つ指輪の宝石部分を指さした。

「小さいだろ? 何でも、加工の段階で失敗して壊しちまったらしい。でも、滅多に出ない物だから、もったいないって壊れた欠片から作ったらしいんだ。だが、さすがにこんだけ小さいと、貴族様の目には止まらないらしい」

それで、こんな場所まで流れてきた、という事らしい。
だが、やはり小さい宝石、なかなか目にとめる人はいないんだ、と店主は笑った。

「へえ……」

リィカがマジマジと見る。

「気に入ったのか、リィカ?」
「あ、うん。でも……」

アレクに聞かれて、素直に頷く。

でも、値段が高そうだし、何よりこれはペアリングだ。一つだけ売ってくれ、と言っても売ってくれるのか。

が、そんなゴチャゴチャと考えているリィカを、アレクは待たなかった。

「いくらだ?」
「えっ!?」

さっさと店主に値段を聞いて、その金額にリィカが「高い!」と叫ぶのを気にせず、さっさと支払いを済ませてしまった。

「まいどあり!」
「ちょっと……!」

値段が高いのもそうだが、アレクの手にあるのはペアリング。二つの指輪だ。


アレクは、リィカの腕を引いて移動する。
移動した先は、ほんの少し、周りから影になっている場所だ。

アレクは指輪の一つを手に取ると、リィカの手を取る。
左手だ。

そして、その薬指に指輪をはめる。

「いつだったか、タイキさんに聞いた事がある。タイキさん達の国じゃ、左手の薬指にはめる指輪は、婚約とか結婚を意味するらしい。それにあやかって、恋人同士でもつけることがあると言っていた」

言って、はめた指輪にキスをする。
真っ赤になったリィカに、アレクはもう一つの指輪を差し出した。

「リィカの手で、はめてくれないか?」

「…………………」

強引に手に押しつけられて、リィカは指輪を受け取ってしまう。

アレクに付けてもらう事は、考えなかった。

だって、小さい宝石。貴族の目にはとまらない、と言われたものだ。それをアレクにつけてもらうなんて、考えもしなかった。

「………………うん」

小さく頷いて、アレクの左手を取る。
大きな、男の人の手だ。

薬指に指輪をはめる。

(結婚式みたい……)

泰基との結婚式のことを思い出してしまい、慌ててアレクに意識を戻す。今この場で泰基のことを思い出すのは、アレクに対して失礼すぎる。


アレクの指にはめられた指輪をジッと見ていると、アレクの声が振ってきた。

「キスしてくれないのか?」

「ひぇっ!?」

悲鳴を上げてアレクを見れば、アレクは笑っていた。

「冗談……というわけでもないし、やってくれれば嬉しいが、まあ別にいい。ありがとな、リィカ」

「……買ってくれたの、アレクだよ。ありがと」

リィカはアレクに笑顔を見せる。

日本じゃ、指輪にキスなんかしない。そう思ったが、アレクがそうして欲しいというのなら、応えたかった。

恥ずかしいのを我慢する。

――指輪に唇を落とした。



アレクはカッコいい。そして、王子様だ。
自分より相応しい人なんて、いくらでもいる。

さっき、アレクを見て目を輝かせていた女の人の中に、アレクに相応しい人がいたっておかしくない。


でも、今だけは。
アレクが王子であっても、それでも旅の間だけは対等でいられる。

いつかは、この手を離さなければいけない。でも、それは今じゃない。
だから、今は素直にこのペアリングを喜べばいい。

リィカは、そう自分に言い聞かせた。

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