【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十章 カトリーズの悪夢

バルの戦い②

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アレクもバルも、苦戦を強いられていた。

途中から、モーニングスターが飛んでこなくなった。
泰基がすべて対処してくれているようだ。
それは、素直に有り難い。

代わりに、泰基からのフォローもなくなったが、それでもいつ飛んでくるか分からない鉄球を警戒するよりは、戦いやすくなった。

だが、響いてきた泰基の悲鳴に、チラリと視線を向けて、愕然とした。
人食い馬マンイート・ホースと呼ばれていた魔物が、炎を、風を、その口から出していた。

「――なっ!?」
「タイキさん!!」

アレクも、バルも、思わず動きを止めた。
使えるはずのない魔法を、人食い馬マンイート・ホースが使っていた。


※ ※ ※


動きの止まったバルに、しかし戦っていたクサントスも一緒に動きを止めた。

「心配せずとも、あれは魔法ではないぞ?」

口の端を上げ、面白がるようにバルに言った。

「……魔法でねぇなら、何だ」

声を低くして、相手を威圧するようにバルが言うが、クサントスは面白そうな表情を崩すことはなかった。

「魔法ではなく、あの魔物自身の能力だ」
「……………………」

バルは黙って相手を睨む。

意味は分かった。
例えば、キリムの炎を吐く能力、首の再生能力。そういうものと、同様なのだろう。

分かりはしたが、それで状況は改善しない。
余計に不利になっただけだ。

炎の渦に巻かれた泰基が心配だったが、強引に暁斗が助けに入ったことで、何とか生き延びてくれたようだ。
助けに行きたいのはやまやまだが、相手がそれを許してくれそうにない。

バルは、腹部に手を当てる。
この傷も問題だった。
この傷と痛みのせいで、剣を振るのに力が入りきらないのだ。

「ゆくぞ」

再び、クサントスが距離を詰めてきた。
ウォーハンマーを振り上げてくる。

――ギィイイィィィィン!

何とも嫌な音がして、バルの魔剣とぶつかり合う。

「――ぐっ……」

バルは小さく呻いた。
傷にその震動が響いて、さらなる痛みをもたらす。

魔力を流すと強度を増して、相手の剣をへし折ることの出来る、魔剣フォルテュード。

その能力も、ウォーハンマー相手では効果がない。だが、強度が増すおかげで、正面から打ち合うことはできていた。

(――アレクは、大丈夫なのか)

バルは、ふとそう思う。

アレクの剣は、一級品ではあっても普通の剣。
こんな重量級の武器と打ち合えるのか。

ズキン。

響く痛みが、バルにそれどころではないことを教えてくれる。
今は、自分のことだけに集中するべきだ。


クサントスのウォーハンマーを、受け止め、躱し、いなす。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」

バルが、息を荒くする。

力を緩めていられない。
傷が痛いなどと言っていられない。
それをすれば、一瞬でやられる。

そうやってどれだけ打ち合いをしたのか。
表面だけ見れば互角。
しかし、バルがギリギリ精一杯なのに対して、クサントスは余裕の表情だ。

――ズルッ!

バルの足が、滑った。

「―――――――――!?」

なぜ。
そう思って、すぐに理解した。

腹部からの出血が地面に落ちている。落ちるくらいに、出血がひどくなっている。
血に濡れた地面が、滑りやすくなっていたのだ。

体勢が崩れる。
普段であれば、すぐに立て直せただろう。
だが、傷を負い、消耗している今のバルには無理だった。

「もらった!」

クサントスが、上段からウォーハンマーを振り下ろした。

「――くっ!」

バルは、剣を掲げる。
何とか間に合った。
ウォーハンマーを受け止めた。

しかし、崩れた体勢で受け止めたその威力を、バルの腕は堪えきれなかった。

――ガラン

魔剣が地面に落ちる。
バルは、地に膝をついた。

バルは、すぐ剣に手を伸ばす。
すぐ追撃が掛かってくるかと思ったが、しかしクサントスは逆に後ろに下がった。

「せっかくだ。貴様も受けてみろ。ゲーギ!」
「ヒヒーン!!」

クサントスの発した言葉と、上がったいななきに、バルは凍り付いた。
アレクと戦っていたはずの、黄の毛色の馬が、いつの間にか自分の横にいた。

ゲーギと呼ばれた、黄の毛色の馬は、口を開けなかった。
代わりに、頭上に岩の固まりが出来ていた。

ゲーギが頭を振ると、その岩の固まりが、バルに向かって飛んできた。

(早ぇ)

痛みを堪えつつ、何とか躱す。

だが、再びゲーギの頭上に岩の固まりが出来ていた。
再び発射され、何とか躱す。が、しかし。

(――しまった)

躱すのに精一杯で、剣を手に取れなかった。

「オーロ!」

クサントスが、別の馬の名前を呼ぶ。
自分と戦っていた、青い毛色の馬。それが、気が付けばバルの前にいた。

「ヒヒーン!!」

驚く暇も何もない。
そのいななきと共に、開けられた口から、水流が射出された。

「!!!」

躱せなかった。
バルは、まともにその攻撃を受けた。

「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

バルは悲鳴を上げる。
水流が、腹部の傷を直撃している。

「ゲーギ」
「ヒヒーン!」

さらにクサントスの声と、馬のいななきが聞こえる。
ガンッ、と背中に固いものがぶつかった。

「――がっ、はっ……」

バルは、地面に倒れ伏した。
背中にぶつけられたものが、ゲーギの放った岩の固まりであるなど、確認するまでもなかった。

「ここまでだな。トドメだ」

倒れ伏すバルに、クサントスが容赦なく、ウォーハンマーを振り下ろした。

(――まだだ)

バルは、必死で足を伸ばす。
クサントスの足に、自分の足を引っかける。

「なにっ!?」

ほんの僅か、クサントスの体勢を崩すことに成功した。
ウォーハンマーは、少しだけ狙いが逸れ、バルの顔のすぐ横の地面を叩いた。

その衝撃も強かったが、何とかバルはクサントスから距離を開けることに成功した。

ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ

息が荒い。
頭がクラクラする。
目がかすむ。

(――こいつは、まじでやべぇ)

剣すら手放してしまった。
体を起こしていることすら、辛い。


かすむ視界に、ゲーギとオーロの二体が、アレクの方に向かっていくのが見えた。

「――――! アレク……」

叫びたくても、声がまともに出ない。

「悪あがきを。ほんの少し、生き延びたところで何になる」

クサントスが、またもバルに近づく。
ウォーハンマーを、上段に構えた。

「次こそ、本当にトドメだ!」

振り下ろされるそれを、どうにかする術は、もうバルには残されていなかった。


もう駄目だと、無理だと、本気で思った。
ここで死ぬのだと、バルは本気で思った。

水球がウォーハンマーに命中し、逸らされるまで、本気でそう思ったのだ。


「何だと!?」

クサントスが、水球が飛んできた方向を見る。
バルも、何とか目を向ける。

「――タイキ、さん……?」

泰基が右手を前に出していた。

「なぜ、魔法を……」
「バル! 早く、剣を!」

その言葉と同時に、水球が発射される。おそらく、《水球アクアボール》だろう。
分からない事ばかりだが、クサントスが泰基が放つ魔法の対処をしている今がチャンスだ。

バルは体を何とか動かし、地面に落ちている魔剣を手に立ち上がった。

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