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第十章 カトリーズの悪夢
リィカを見つけるまで②
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息せき切って面会を求めて来た暁斗とアレクを出迎えたトラヴィスは、アレクの説明に絶句した。
「……その居場所は、間違いございませんか?」
「おそらく、としかいいようがないが」
アレクは、自分自身もかなり焦っていたことに気付いていた。
具体的な場所がどこなのか、確認していなかった。
「…………………」
トラヴィスは、渋面のまま考え込む。
勇者一行を信じないわけではないが、正確性に欠ける。向こうにはリィカが、人質がいるのだ。もし間違っていれば、取り返しの付かない失敗になる可能性がある。
「考え込むなど、珍しい。いつものように突っ走るかと思っておりましたが」
どこか笑いを含んだ声音で言ったのは、チャングスだった。
「よろしいではないですか。その場所に参りましょう」
チャングスの言葉に、アレクも、トラヴィスも驚いた。
彼から賛成論が出るとは思わなかった。
「呼び出しを待つのもありですが、その場合、デウスの仕掛けた罠が満載でしょう。そんな罠の中に飛び込むよりは、相手の準備も整っていないだろう今、飛び込んだ方が良いというものです」
「それはそうだが、だが……」
勇者一行も、その目でリィカを確認したわけではないのだ。
話を聞く限り、居場所の情報は推測の域を出ていない。
「そこは、彼らを信じればよろしい。ずっと共に戦ってきた仲間が、いると言うのです。であるならば、我らはその言葉を信じるだけ。そうではないですかな?」
トラヴィスは、チャングスの言葉に驚きを隠せなかった。
どんな情報でも必ず裏を取れと、一方的な情報を信じるなと、何度もやかましいくらいに言っていたのはチャングスだ。
だというのに、今は信じろと言うのか。
「さじ加減は、難しくはありますが」
チャングスは、トラヴィスがなぜ驚いたのか、それを正確に理解しているのだろう。
教えられる事が嬉しいのか、混乱しているトラヴィスを面白がっているのか。その表情は笑顔だ。
「強い力と確かな技術。その上に確固たる絆に結ばれた者同士が、仲間のために必死に掴んだ情報です。我らには理解できない、彼らにしか分からないものがある。
例え理解できずとも、確かに『ある』と思えるものがあるのなら、それは信じるに値すると思うのですよ」
軍にいても、あるのだ。
理屈でも何でも無く、ただ、これは信じていいと、無条件に思える時があるのだ。
そして、それが間違っていたことは、決してない。
チャングスは、そう語った。
「………………………」
「………………………」
アレクと暁斗は、何となく顔を見合わせていた。
なぜそんな話になってしまったのか、分からない。
ただ純粋に、リィカがいると思われる場所が分かった、というだけの話だったはずだ。
その手段については、具体的に説明できないし、しても分からないだろうから、濁してしまったのは確かだが。
「――分かった」
トラヴィスの声が、アレクと暁斗にも届く。
何かすっきりしたような顔をしているが、一体どういう思考に至ったのか。
「その情報、信じましょう。せっかくデウスを捕らえる機会です。逃すつもりはありません」
アレクたちに向けて言った後、今度はチャングスに言った。
「私とブラウン少佐の二名で向かう。お前は待機だ。良いな」
「……それは、若い者の向こう見ずの行動ですよ。総大将が動いてどうしますか」
「私が行く。そう決めた。私が戻るまで、お前は代理を務めていろ」
「……しょうがないですな」
チャングスは諦めてため息をつく。
だが、小言を加える事も忘れなかった。
「くれぐれも、無茶なさらぬように。勇者様ご一行の後ろに隠れて、デウスの捕縛のみ行うこと。先頭に立って切り込もうなど、なさらぬように」
「いや待て、勇者様方を盾にしろとでも言う気……」
「その通りです。むしろ少将閣下が前に出たら、邪魔でしょう。黙って補佐に徹しなさい」
抗議しかけたトラヴィスを、容赦なくズバッと切って捨てた。
そのやり取りを、アレクは冷や汗をかいて見ている。トラヴィスの姿が、マルティン伯爵に説教されている自分の姿に見えて仕方なかった。
延々と続くかと思われた小言も、ここまでだった。
「今時間を取るわけにはいきませんからな。このくらいで終わりにしましょう。戻ってきたら、たっぷり説教させて頂くとしましょうか」
ゲンナリしたトラヴィスは、一瞬本気で、戻らず逃げようかと考えていた。
※ ※ ※
トラヴィスとバスティアンを連れて戻ったアレクと暁斗は、ユーリと泰基の案内に従って進んでいく。
そして、アレクの魔力が感じる場所に到着。かなり入り組んだ先にある、一軒の家だった。
見た目も何も、周囲にある家と何も変わらない、普通の家だ。
どうするか相談をしていたら、その家から出てきた人影の中に、リィカと、手紙を届けに来た兵士の姿を、見つけたのだった。
「……その居場所は、間違いございませんか?」
「おそらく、としかいいようがないが」
アレクは、自分自身もかなり焦っていたことに気付いていた。
具体的な場所がどこなのか、確認していなかった。
「…………………」
トラヴィスは、渋面のまま考え込む。
勇者一行を信じないわけではないが、正確性に欠ける。向こうにはリィカが、人質がいるのだ。もし間違っていれば、取り返しの付かない失敗になる可能性がある。
「考え込むなど、珍しい。いつものように突っ走るかと思っておりましたが」
どこか笑いを含んだ声音で言ったのは、チャングスだった。
「よろしいではないですか。その場所に参りましょう」
チャングスの言葉に、アレクも、トラヴィスも驚いた。
彼から賛成論が出るとは思わなかった。
「呼び出しを待つのもありですが、その場合、デウスの仕掛けた罠が満載でしょう。そんな罠の中に飛び込むよりは、相手の準備も整っていないだろう今、飛び込んだ方が良いというものです」
「それはそうだが、だが……」
勇者一行も、その目でリィカを確認したわけではないのだ。
話を聞く限り、居場所の情報は推測の域を出ていない。
「そこは、彼らを信じればよろしい。ずっと共に戦ってきた仲間が、いると言うのです。であるならば、我らはその言葉を信じるだけ。そうではないですかな?」
トラヴィスは、チャングスの言葉に驚きを隠せなかった。
どんな情報でも必ず裏を取れと、一方的な情報を信じるなと、何度もやかましいくらいに言っていたのはチャングスだ。
だというのに、今は信じろと言うのか。
「さじ加減は、難しくはありますが」
チャングスは、トラヴィスがなぜ驚いたのか、それを正確に理解しているのだろう。
教えられる事が嬉しいのか、混乱しているトラヴィスを面白がっているのか。その表情は笑顔だ。
「強い力と確かな技術。その上に確固たる絆に結ばれた者同士が、仲間のために必死に掴んだ情報です。我らには理解できない、彼らにしか分からないものがある。
例え理解できずとも、確かに『ある』と思えるものがあるのなら、それは信じるに値すると思うのですよ」
軍にいても、あるのだ。
理屈でも何でも無く、ただ、これは信じていいと、無条件に思える時があるのだ。
そして、それが間違っていたことは、決してない。
チャングスは、そう語った。
「………………………」
「………………………」
アレクと暁斗は、何となく顔を見合わせていた。
なぜそんな話になってしまったのか、分からない。
ただ純粋に、リィカがいると思われる場所が分かった、というだけの話だったはずだ。
その手段については、具体的に説明できないし、しても分からないだろうから、濁してしまったのは確かだが。
「――分かった」
トラヴィスの声が、アレクと暁斗にも届く。
何かすっきりしたような顔をしているが、一体どういう思考に至ったのか。
「その情報、信じましょう。せっかくデウスを捕らえる機会です。逃すつもりはありません」
アレクたちに向けて言った後、今度はチャングスに言った。
「私とブラウン少佐の二名で向かう。お前は待機だ。良いな」
「……それは、若い者の向こう見ずの行動ですよ。総大将が動いてどうしますか」
「私が行く。そう決めた。私が戻るまで、お前は代理を務めていろ」
「……しょうがないですな」
チャングスは諦めてため息をつく。
だが、小言を加える事も忘れなかった。
「くれぐれも、無茶なさらぬように。勇者様ご一行の後ろに隠れて、デウスの捕縛のみ行うこと。先頭に立って切り込もうなど、なさらぬように」
「いや待て、勇者様方を盾にしろとでも言う気……」
「その通りです。むしろ少将閣下が前に出たら、邪魔でしょう。黙って補佐に徹しなさい」
抗議しかけたトラヴィスを、容赦なくズバッと切って捨てた。
そのやり取りを、アレクは冷や汗をかいて見ている。トラヴィスの姿が、マルティン伯爵に説教されている自分の姿に見えて仕方なかった。
延々と続くかと思われた小言も、ここまでだった。
「今時間を取るわけにはいきませんからな。このくらいで終わりにしましょう。戻ってきたら、たっぷり説教させて頂くとしましょうか」
ゲンナリしたトラヴィスは、一瞬本気で、戻らず逃げようかと考えていた。
※ ※ ※
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