【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十章 カトリーズの悪夢

バリアの魔石

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時間を遡る。

モントルビア王国の王都モルタナで、サイクロプスとカークスとの戦闘を終えた後。

世話になったルイス公爵親子が、魔族に命を狙われていた事を知って、ユーリが《結界バリア》の魔法を魔石に込めていた。

その様子を見ながら、アレクは疑問をぶつけていた。

「魔族が正面から仕掛けてくれば、《結界バリア》の魔石も役立つだろうが、不意打ちとか暗殺みたいな手段で来たら、あっても意味ないんじゃないか?」

世間に出回っている生活魔法の魔石もそうだが、手で触れなければその効果は発動しない。

結界バリア》の魔石が、手で触れて発動するのであれば、不意打ちなどの手段で来られたら、触れる間もなくやられてしまう。

「それとも、常時《結界バリア》が発動しっぱなしになるのか?」
「そういうことも、出来ないわけじゃありませんが」

一段落したのか、ユーリが手を止めてアレクの質問に答えていた。

「常時発動させると、魔石があっという間に消耗するんですよ。ですから、よほど必要な場合でなければ、そういうものは作らないようです」

作らない、ときっぱり言い切らないのは、ユーリ自身も《結界バリア》の魔石を作るのは初めてだからだ。

サルマたちから魔道具作りを教わったときに、魔石に魔法を封じ込めるのをやっていなかったら、《結界バリア》の魔石を作ることを、思い付かなかっただろう。

「元々《結界バリア》の魔法は、詠唱によって様々な形に変えられる魔法です。大体は、前面だけか、四方を囲むように発動させるかの、どちらかですが」

アレクは頷く。
実戦でも必要となる《結界バリア》は、大体その二択だ。

「魔石に《結界バリア》の魔法を封じ込めるときのみ、発動する《結界バリア》の詠唱がある、と父様から聞いた事があったんです。それを思い出して、試してみたら出来ました」

それが、自動で発動する《結界バリア》だと言う。
魔石を身に付けている者に向かう攻撃を察知して、自動で発動して防ぐらしい。

この上なく便利だが、身に付けている者一人にしか効果がない。
そして、弱点もある。


※ ※ ※


「自動で攻撃を察知して発動する、《結界バリア》の魔法が封じられた魔石だが、連続での発動はできない」

口を半開きにしたまま動かないデウスに、アレクが、その弱点を教えてやる。

この場合の「連続」とは、連続攻撃の事ではない。
むしろ、二連続、三連続と間髪入れずに攻撃をされるのならば、《結界バリア》はしっかり防いでくれる。

「一度攻撃を防いで《結界バリア》が消えた直後すぐに攻撃すると、発動しないんだよ」

察知能力が追いつかないのか何なのか、理由は定かではないそうだが、《結界バリア》が発動して消えた直後数秒程度は、攻撃を仕掛けても発動しない。
この弱点があるから、《結界バリア》の魔石は実戦向きではないのだ。

「そんな……馬鹿な……。今まで、一度も、こんなことは……」

「あんたが、それを知っている奴と戦ったことがなかっただけだろう。知っていれば、対処は簡単だ」

デウスもその弱点を知らなかった。
なまじ自分で《結界バリア》を使えただけに、その弱点を教えられることもなかったのだろう。

「おのれ……オノレェェェェェェェ……」
「剣の腹で殴っただけだが、立ち上がれるほど手加減はしてないぞ」

地面に倒れたデウスを見ながら、アレクは告げる。

さてどうしようかとアレクが悩んでいたら、バルがバスティアンから猿ぐつわと両手の拘束具を借りていた。
それで、デウスを拘束していく。

デウスが睨んでくるが、無視だ。
これでもう、リィカに命令が行くことはない。

視線をリィカたちの方に向ける。

「なっ!?」
「アキト!?」

アレクとバルが同時に叫ぶ。
暁斗の腹に、剣が突き刺さっていた。


※ ※ ※


泰基は、その光景が信じられなかった。

リィカが暁斗を刺した。
いや、暁斗が自分から刺されに行った。ご丁寧に、防御の魔道具の魔力を、押さえ込んでいた。

暁斗の背中から、剣が飛び出ている。
何かを言いたいのに、叫びたいのに、言葉が出ない。
その光景が現実だと、認めたくなかった。

「首輪を…………!!」

暁斗の、かすれて苦しそうな声が聞こえた。
何のことだと考えてしまうくらい、泰基は動揺していた。

「タイキさん」

冷静なユーリの声に名前を呼ばれ、泰基はようやく現状を認識した。
リィカの元に走って行くユーリを、慌てて追い掛けた。


暁斗は、剣の刺された腹部だけでなく、口元にも血がにじんでいる。
リィカは、暁斗に腕を押さえられたまま、まったく動こうとしない。

ユーリが、下の首輪に指を触れる。

「タイキさん、一気に魔力を流して下さいね」
「分かった」

ユーリは、暁斗に視線は向けたものの、何も言わない。
泰基も我慢した。
先に、リィカだ。

泰基は、もう一つの首輪、上の首輪に指を触れる。
ゾクッとするくらいに、禍々しい魔力を感じる。言われたとおりに一気に魔力を流し込んだ。

時間は、必要なかった。
ほんの数秒で、隷属の首輪は、砂のようになって崩れ落ちた。

リィカが目を閉じて、その体が崩れ落ちた。


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