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第十二章 帝都ルベニア
リィカ、危機的状況
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アレクが部屋でニヤけている頃、リィカはそんな場合ではなかった。
(――この人、誰? 怖い……)
入浴前まではいなかった人が、目の前にいた。
入浴する前に一緒にいた人たちは、いい人たちだった。
ルシア皇女の世話をしている侍女だという人たちは、リィカを“平民”ではなく、あくまでも”勇者の一行”として遇してくれていたのだ。
見下される感じはなくリィカも安心していたのだが、入浴から上がってみれば、そこにいたのは見た事のない人だった。
髪を一寸の乱れなくまとめ上げ、つり上がった目をさらにつり上げる。入浴上がりで、タオル一枚体に巻いただけのリィカを、吟味するように上から下まで視線を動かす。
皇城の侍女たちをまとめる侍女長だと名乗った。
「全く、皇女殿下も何をお考えなのか。勇者様のご一行をお世話を一介の侍女にやらせるとは。なぜ侍女長の私に声をかけないのでしょう」
愚痴のように口にするが、リィカは何も反応できない。
侍女長の他に三名ほどいるが、その三名も尤もだとでも言うように頷いている。
「勇者様のご一行の一人というからどのような女性かと思いましたが、平民の娘ですか。拍子抜けですね。大方勇者様方の夜のお相手といったところですか」
「――ちがっ……」
「さて、ではどうしましょうか」
リィカが否定しかけた言葉は聞いてもらえる事はなく、侍女長の言葉に遮られる。
リィカは胸が締め付けられるような感じがした。
こういった言葉は、久しぶりに聞いたかもしれない。
違うと、そんなんじゃないと反論しなければいけないのに、言葉が出てこない。
強くならなきゃ、と決意したはずなのに、何も変わってない。
「……そうですね。纏うものはこれで良いでしょう」
侍女長が手にとったそれに、リィカは真っ青になった。
※ ※ ※
リィカはうつむいて歩いていた。
できるだけ周囲を気にせず、前を歩く侍女長の足下だけを見て歩く。
リィカが纏っているのは、薄い夜着。日本で言うならベビードールだ。太ももまで見えているショート丈の夜着。
それを夕方も近いとは言え、まだまだ早い時間から着させられて皇城内を移動している。
流石にそれだけでは、と侍女長に付き添っていた一人が言ってくれたおかげで、その上から一枚ガウンを羽織ることはできたが、それとて丈は短い。
足は丸見えだ。
ガウンを羽織ったところで、それも含めて夜着姿であることは分かってしまうだろう。
人が……当然男性も多くいる場所を、リィカはそんな格好で歩かされている。靴も履かせてもらえず、裸足だ。
泣きたくなるのは堪える。
向かう先は、みんなのいる部屋だ。そこまで行ってしまえば、アイテムボックスから服を取り出して着てしまえばいい。
けれど、そんなリィカの耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「侍女長殿ではないか。後ろにいる娘は、ずいぶん素晴らしい格好をしておるな」
「リーチェン公爵閣下」
侍女長が一礼しているのが見えた。
リィカの肩が跳ね上がる。
ルードリックと会ったあの場にいた公爵。なぜ平民の娘がいるのか、と言ってきた人物だ。
リィカが少し顔を上げてみれば、公爵の他にもう一人いる。
ニヤニヤした目と合って、リィカは逃げるようにうつむいた。
「公爵閣下。それにジョーズ伯爵閣下も。どのようなご用でしょうか?」
「なに。後ろの娘を少し貸してもらおうと思っただけだ。お誂え向きの格好をしておることだしな」
ヒュッと息を呑む。
息ができない。
手が震える。
「それは出来かねます」
けれど、きっぱりした侍女長の声が聞こえて、リィカは意外な気持ちでその背中を見つめた。
「なんだと!?」
「平民の娘であっても、勇者様のご一行の一人。勇者様をお慰めするのがこの娘の役目。私が他の者に勝手に引き渡すような真似はできません。どうしても望むのであれば、勇者様へお頼み下さいませ」
きっぱり言われて白けた二人の貴族を横目に、侍女長は「行きますよ」と言って歩き出したので、リィカは慌てて後を追い掛ける。
(――つまり、わたしのこの格好も“勇者”のため、ってこと?)
侍女長は、平民出のリィカが魔法を使うなど、考えもしていないのだろう。
だから平民の娘が勇者の一行にいる理由を考えて、たどり着いた答えが、今のリィカの格好に繋がっているということだ。
何となく分かった。
この人は、別に平民だからとリィカを蔑んでいるわけではないのだ。
あくまで勇者のために、勇者一行の一人であるリィカの役目を考えて、その役目に相応しい格好にさせた、というだけなのだ。
それが分かったところで、こんな格好にさせられて歩かされる恐怖から解放されるわけではないけれど。
(――この人、誰? 怖い……)
入浴前まではいなかった人が、目の前にいた。
入浴する前に一緒にいた人たちは、いい人たちだった。
ルシア皇女の世話をしている侍女だという人たちは、リィカを“平民”ではなく、あくまでも”勇者の一行”として遇してくれていたのだ。
見下される感じはなくリィカも安心していたのだが、入浴から上がってみれば、そこにいたのは見た事のない人だった。
髪を一寸の乱れなくまとめ上げ、つり上がった目をさらにつり上げる。入浴上がりで、タオル一枚体に巻いただけのリィカを、吟味するように上から下まで視線を動かす。
皇城の侍女たちをまとめる侍女長だと名乗った。
「全く、皇女殿下も何をお考えなのか。勇者様のご一行をお世話を一介の侍女にやらせるとは。なぜ侍女長の私に声をかけないのでしょう」
愚痴のように口にするが、リィカは何も反応できない。
侍女長の他に三名ほどいるが、その三名も尤もだとでも言うように頷いている。
「勇者様のご一行の一人というからどのような女性かと思いましたが、平民の娘ですか。拍子抜けですね。大方勇者様方の夜のお相手といったところですか」
「――ちがっ……」
「さて、ではどうしましょうか」
リィカが否定しかけた言葉は聞いてもらえる事はなく、侍女長の言葉に遮られる。
リィカは胸が締め付けられるような感じがした。
こういった言葉は、久しぶりに聞いたかもしれない。
違うと、そんなんじゃないと反論しなければいけないのに、言葉が出てこない。
強くならなきゃ、と決意したはずなのに、何も変わってない。
「……そうですね。纏うものはこれで良いでしょう」
侍女長が手にとったそれに、リィカは真っ青になった。
※ ※ ※
リィカはうつむいて歩いていた。
できるだけ周囲を気にせず、前を歩く侍女長の足下だけを見て歩く。
リィカが纏っているのは、薄い夜着。日本で言うならベビードールだ。太ももまで見えているショート丈の夜着。
それを夕方も近いとは言え、まだまだ早い時間から着させられて皇城内を移動している。
流石にそれだけでは、と侍女長に付き添っていた一人が言ってくれたおかげで、その上から一枚ガウンを羽織ることはできたが、それとて丈は短い。
足は丸見えだ。
ガウンを羽織ったところで、それも含めて夜着姿であることは分かってしまうだろう。
人が……当然男性も多くいる場所を、リィカはそんな格好で歩かされている。靴も履かせてもらえず、裸足だ。
泣きたくなるのは堪える。
向かう先は、みんなのいる部屋だ。そこまで行ってしまえば、アイテムボックスから服を取り出して着てしまえばいい。
けれど、そんなリィカの耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。
「侍女長殿ではないか。後ろにいる娘は、ずいぶん素晴らしい格好をしておるな」
「リーチェン公爵閣下」
侍女長が一礼しているのが見えた。
リィカの肩が跳ね上がる。
ルードリックと会ったあの場にいた公爵。なぜ平民の娘がいるのか、と言ってきた人物だ。
リィカが少し顔を上げてみれば、公爵の他にもう一人いる。
ニヤニヤした目と合って、リィカは逃げるようにうつむいた。
「公爵閣下。それにジョーズ伯爵閣下も。どのようなご用でしょうか?」
「なに。後ろの娘を少し貸してもらおうと思っただけだ。お誂え向きの格好をしておることだしな」
ヒュッと息を呑む。
息ができない。
手が震える。
「それは出来かねます」
けれど、きっぱりした侍女長の声が聞こえて、リィカは意外な気持ちでその背中を見つめた。
「なんだと!?」
「平民の娘であっても、勇者様のご一行の一人。勇者様をお慰めするのがこの娘の役目。私が他の者に勝手に引き渡すような真似はできません。どうしても望むのであれば、勇者様へお頼み下さいませ」
きっぱり言われて白けた二人の貴族を横目に、侍女長は「行きますよ」と言って歩き出したので、リィカは慌てて後を追い掛ける。
(――つまり、わたしのこの格好も“勇者”のため、ってこと?)
侍女長は、平民出のリィカが魔法を使うなど、考えもしていないのだろう。
だから平民の娘が勇者の一行にいる理由を考えて、たどり着いた答えが、今のリィカの格好に繋がっているということだ。
何となく分かった。
この人は、別に平民だからとリィカを蔑んでいるわけではないのだ。
あくまで勇者のために、勇者一行の一人であるリィカの役目を考えて、その役目に相応しい格好にさせた、というだけなのだ。
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