【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十四章 魔国

魔族の会話

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「……あれは、何だ?」

 アレクの声は動揺していた。

 誰からともなく来た道を引き返し、今は海ギリギリの場所にいる。
 すでに来た道は海の下に消えているから、それ以上は戻れないが、あの場にいた魔族から見つかることはないだろう。

 アレクの声に、誰も応えない。
 魔国に来て最初に見る光景が、魔族が畑を耕している姿など、誰が想像しただろうか。
 別に魔国に入った途端に、魔族との戦闘の連続になって欲しかったわけではないが、想像と外れすぎている。

 そして、それよりも衝撃を受けたのは、耕している畑の近くに生えていた植物。細く、今にも枯れそうな植物を抜いていた魔族たちが言った言葉だった。

「何とか収穫できたな」
「そうですね。これでまた、しばらくは食べられそうです」

 笑顔で話していた内容に愕然とした。それを思い出しながら、泰基が喉に何かが引っかかったような声で話す。

「……あれは育ててたのか? てっきり枯れた雑草か何かだと……」
「……うん。あんな状態のものは、クレールム村でも収穫しなかったよ。そのまま捨てられてた」

 泰基のコメントにリィカが返す。
 リィカは、このメンバーで唯一の農業経験者でもある。故郷のクレールム村にいた頃はまだ子供だったが、収穫の時期は手伝うのが当たり前だったから、その程度は分かる。

 あれは、村にいた頃なら「駄目になっちゃったな」と大人たちが言って処分していた状態のものだ。収穫できた、と喜べるものではない。

「ショックを受けるって言ってたけど……」

 リィカは、香澄からもらった杖を握りしめる。
 香澄は言っていた。自分の知っている事は、人間と常識と違う。ショックを受ける覚悟はした方がいいと。

「リィカ、その杖、変身できるっていう杖だよね?」
「う、うん、暁斗。香澄さんがそう言ってた」
「使おう」

 あまりにもサラリと、暁斗がそう言ったので、リィカは理解し損ねた。

「……暁斗?」
「使おうよ、その杖。そして話をしてみよう。例えショックを受けても、何も知らないで魔王と戦うなんて、オレには無理だ」

 リィカの目に迷いが生じる。その目がアレクに向けられる。
 リィカの視線を受けたアレクは一瞬怯んだが、動揺を押さえ込んだ。

「……分かった、使おう。俺も、何も知らないまま、ただ魔王を倒すだけはできない」

 バル、ユーリ、泰基へと視線を移していき、誰からも反論が出ないことを確認して、最後にリィカを見た。
 リィカは黙って頷き、手にした杖に魔力を流した。


※ ※ ※


 魔族たちは近づいてくる六人に気付き、一気に緊張した。
 見慣れない顔だが、それは別にいい。問題は、六人中四人が帯剣し、明らかに一般人とは違う様相である事だ。

「あ、あの、兵士様方が、このような場所に、何のご用で……?」

 今、兵士のほとんどは魔国の外へ出て、人間の地にいるはず。例外は魔王の近くにいる側近だが、魔王の側近がこんな所に来るとは考えにくい。

「あ、いやその……」

 六人の中で、一番年嵩の者が戸惑うように向けた視線の先は、先ほど収穫したばかりの畑だ。その目の動きに、魔族の緊張度合いが増した。
 恐る恐る口を開く。

「……その、申し訳ありませんが、やはり収穫らしい収穫はできなくて、兵士様方に差し上げられるようなものは何も……」

 実際には先ほど収穫したばかりだが、これを上げてしまえば自分たちの食べる分はなくなる。さっさとしまえば良かった、と思いつつ、見つからないことを祈って後ろ手に隠す。

 その手の動きを追うように、六人の視線がその魔族に向かう。駄目か、と思った魔族だが、言われたのは別の事だった。

「いや、それはいい。それより、ここの近くに他に畑はあるか?」
「…………っ……!」

 それを答えていいものだろうか。自分たちの答え次第で、その相手がひどい目に合うかもしれないのに。
 だが、葛藤は一瞬だった。魔族は、一定の方向を指さした。

「あちらに少し行くと、そこにも畑がございます」
「そうか、分かった。ありがとう」

 その方向に、六人が歩いて去っていく。
 それを見送り、魔族は大きく息を吐いた。

「行ってくれたか。しかし、何だって兵士様がいらっしゃるんだよ。人間に勝ったのか? それとも負けたのか?」
「知るかよ。どっちにしても、戻ってこないで欲しいけどな」
「全くだ。勝ったならともかく、負けたならそのまま向こうで死ねってんだ」
「バカッ、余計な事言うなって。もし結界仕掛けられたら、俺たちじゃ何もできないんだから」
「あ、ヤバ」

 慌てて周囲を見渡すが、すでにその六人の姿は跡形もなく、ホッと胸をなで下ろしたのだった。


※ ※ ※


「勝っても負けても戻ってくるな?」
「どういうこと?」

 その六人、勇者一行は、去っていったように見せかけて、近くにあった建物の影に隠れていた。
 聞こえた会話に、どうしようもなく胸騒ぎが、した。

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