【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十七章 キャンプ

VSナイジェル?

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「『……全ての敵を薙ぎ払え』――《嵐の下降風ダウンバースト》!』」

 ナイジェルの姿を確認した途端に、聞こえた詠唱と唱えられた魔法。風の上級魔法だ。それがリィカに向けて一直線に放たれた。

「おい、ナイジェル、やめろ!」

 慌てたように止める声は、レンデルだ。リィカは周囲を見回して、その魔法が自分だけではなくて、近くにいる兵士たちにも当たってしまうことに気付く。

「《火防御フレイム・シールド》!」

 混成魔法を唱えれば、難なく防御には成功する。だがすぐに凝縮魔法を魔物へ放つと、《火防御フレイム・シールド》は自然に破壊される。

 それ自体に驚きはない。攻撃魔法との併用が可能な《防御シールド》系統の魔法だといっても、限界は存在する。二十発もの魔法を放つのだ。保つことなど不可能だろうと思っていた。

 だが、まさか背後から攻撃されることまで考えなければならないとなると、《防御シールド》を保てないことに不安が残る。

「下がれ子爵風情が。この俺様の邪魔をするな」
「するに決まってるだろ! リィカに後ろから攻撃するとか、本気か!? この状況でリィカが倒れたら、あっという間に魔物が押し寄せてくるぞ!」
「あんな小娘に何ができる? この俺様がこうして来てやったのだ。何も問題ない」

 レンデルとナイジェルの会話に、眉をひそめる。確かに、レーナニアにもそろそろ嫌味だけでは済まなくなりそうだと言われたが、この状況でそれがやってくるとは。

「つい今さっき、あっさりリィカに魔法を防がれたじゃないか! お前なんかで役に立てるはずないだろ!」

「あっさりとは、貴様の目は節穴か。その直後に《防御シールド》が壊れたのだ。貴様が邪魔しなければ、小娘に俺の魔法を防ぐことなど不可能だ」

(いや、壊れたのは別の要因なんだけど)

 そうツッコみたいが、そんな余裕もない。取り巻きたちは兵士たちが押さえてくれたようだ。けれどそのせいで、魔物と戦う兵士たちが少なくなってしまっている。

(この状況で、本気で勘弁して欲しいんだけど)

 本当にどうにかしてくれるなら、別にリィカはナイジェルに任せても構わない。だが、ここまで数ヶ月ほどの間に何度かナイジェルの魔法を見てきて、はっきり言って無理だとしか思えない以上、譲るわけにはいかない。

 それをした途端、あっという間に魔物を後ろに通すことになる。ついでに、ナイジェルもただでは済まないだろうが。

(しょうがないか、ちょっと追いつかない)

 兵士たちが抜けたせいで、魔物の相手が追いつかなくなっている。兵士たちのせいではないが、このままでは危ない。
 リィカは凝縮魔法ではなく、上級魔法を発動させた。

「《嵐の下降風ダウンバースト》!」

 ナイジェルと同じ魔法を選んだのは、半ば意識してのことである。ナイジェルはどうやら水と風の適性があるようだが、風魔法を使うことが多く、特にこの魔法がお気に入りのようだ。

 魔力付与をしたので、威力と範囲がさらに広がっているこの魔法を見て、自分の魔法との威力の違いに気付いて下がってくれればいいな、という希望を込めてみたのだ。

「ハンッ」

 ナイジェルの鼻で笑うような様子が見えた。まあたぶんそうだろうなと思ってはいたが、通じることはないようだ。兵士たちやレンデルの驚いた顔を見る限り、それ相応に威力はあったと思うのだが、一番分かって欲しい人には伝わっていないようだ。

「フン、お前たち前に出ろ。そこの偉そうにしている不心得者を叩きのめしてやる。――兵士ども、俺は侯爵家の息子だぞ! 邪魔するなっ!」
「だからやめろっ、ナイジェル!」

 レンデルが叫び、兵士たちも止めようとしてくれているのは感じる。けれど、この状況が続くのは、正直ありがたくない。

(――もういいや)

 それをしてどういう結果になるのか分からないけれど、後で正直にアークバルトに事情を話せば、どうにかしてくれるだろう。他力本願だし、虎の威を借る狐状態でもあるが、これ以上は付き合っていられない。

「ナイジェル様、いつでも好きなタイミングで魔法を放ってきて下さい。……他の誰も邪魔しないで下さいね。そして、わたしが防げたら大人しく後ろに下がって下さい」
「ちょっ……リィカっ!?」
「ほお。貴様ずいぶん大きく出るではないか」

 レンデルが驚き、ナイジェルの声は、侮られたと思ったのか、怒っているようだ。だがリィカも否定はしない。侮りではなく、ここまで見てきた力を見ての、正当な判断だ。

「《地獄の門インフェルノ・ゲート》!」

 青筋を立てているナイジェルに背を向けたまま、リィカは混成魔法を発動させる。火と土の混成魔法。地面が炎で包まれる魔法だ。

 ナイジェルより、魔物の対応の方が重要だ。凝縮魔法では間に合わない。この魔法で、地面の上にいる魔物は倒れ、さらにその後ろにいる魔物達も炎に怯えたように、その動きが止まる。
 空を飛ぶ魔物は関係ないと、襲ってくるが……。

「《風の千本矢サウザンドアロー》!」

 風の中級魔法を放ち、これらを撃退する。そして、チラリとナイジェルに目を向ければ、何やらプルプル震えていた。

「この小娘が! この俺様を、無視するかっ! 謝れば許してやろうと思ったのに、もう容赦はしないぞっ!」
(何を謝って許してもらえばいいんだろう)

 リィカは疑問に思うが、やはり口に出す余裕はない。覚えていたら、後で誰かに聞こうと思いつつ、後方で魔法の詠唱が始まったのが聞こえた。

(今魔法放ったら、怒るんだろうな)

 急ぐ様子もなく、のんきに詠唱しているようにしか聞こえない。まあ普段魔物と戦うときは、詠唱中は他の人たちに魔物を抑え込ませているのだから、危険も何も感じていないのかもしれない。

(ま、いいや)

 ナイジェルに割ける意識はそんなにない。《地獄の門インフェルノ・ゲート》のおかげで、魔物の大半の足が止まった。火の海となった地面を、やはり進んではこれないようだ。

 凝縮魔法を生み出し、放つ。空を飛んでいる魔物は、火の海の地面に落下し、足を止めている魔物も打ち倒す。

「しばらくこの火は消えません。今のうちに、できるだけ倒しちゃって下さい」
「あ、ああ……」

 周囲の兵士たちにそう言うと、呆けたような返事が返ってきたが、すぐ我に返って、剣技や魔法で攻撃を始める。その瞬間、ナイジェルの詠唱が終了した。

「《嵐の下降風ダウンバースト》!」

 リィカに、周囲にいる兵士たちをも巻き込む形で、上級魔法が放たれた。「リィカっ!」という悲鳴のような声は、レンデルだ。
 リィカはチラッと後ろに視線を送って、凝縮魔法一発を放つ。

「え……?」

 そう疑問の声をあげたのは誰だったのか。
 魔物を一撃で倒していることからも、それなりの威力を有していることは分かっていただろう。それでも、初級魔法よりも小さな魔法だ。

 その小さな魔法が上級魔法と激突して……そして双方ともに消滅した。

「相打ち……?」

 レンデルが呆然とつぶやく。当たり前のように、小さな魔法で対抗できるはずがないと思い込んでいた。上級魔法が小さな魔法を飲み込んで、リィカに直撃すると思い込んでいたのだ。
 だから、相打ちという結果は予想外にも程があった。

「ばかな……あいうち、だと……?」

 そして、予想外だったのはナイジェルもだろう。レンデル以上に信じられないというように愕然としている。

「もっと威力を込めようと思えばできます。あえて相打ちで終わるようにしました。分かったら下がって下さい。そしてさっさと脱出して下さい」

 リィカはナイジェルを見ようともせず、淡々と言った。

「もう間もなくBランクの魔物が姿を見せます。これ以上は、邪魔です」
「……Bランクっ!?」

 リィカの言葉に、周囲から悲鳴があがる。それと同時に、魔物の後ろに巨大な影が見えた。巨人の魔物、アンタイオス。

 リィカに対戦経験はないが、両足が地面に着いている限り、無限に回復するという魔物だ。
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