【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第十九章 婚約者として過ごす日々

二人きりの部屋

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「なぁリィカ、鏡作るの、早くなかったか?」

 国王たちの元を辞して部屋に戻ると、アレクも一緒についてきた。そして、今すぐにでも鏡作りに取りかかろうとするリィカを止めた。魔封じ作りで魔力を空にした後である。せめて明日にしろと言うと、リィカは不承不承頷いた。

 その代わりというわけでもないが、あの場で思った疑問を口にすると、リィカはコテッと首を傾げた。

「鏡、作ってないよ?」
「いや、そうなんだが。そうじゃなくて、あの長方形の形になるのが、ずいぶん早かった気がするんだが」

 旅の間に、何度もリィカが鏡を作るのを見た。あの時から考えると、スピードが上がっている。またさらにリィカの技術が上がったのかと、ため息をつきたい気分で聞いたのだが。

「だから作り方が違うの。アレクに言わなかったっけ? 属性をつけないで純粋に魔力だけで付与していくと、通りが良くて早くできるって」

 それは魔封じを作ったときに、発見したことだ。その時アレクはいなかったが、話はしたはずだ。

「……聞いた気もするが、よく分からん」
「もうっ!」

 リィカは怒るが、アレクと魔法談義は無理なことは一応理解している。こういうとき、ユーリが相手なら、打てば響く感じで話ができるのだが。

(もしかしたら、ジャダーカともできるかもしれないけど)

 一体どこにいるのやら。まったくその存在を感じることがなく、行方不明だと言われたライバルを思い出す。

 どこかで魔力付与の練習をしているんだろうか。できるようになったんだろうか。戦ったとして、今度はどうなるか。正直、ジャダーカが魔力付与まで身につけてしまったら、勝ち目は完全になくなるなと思うのだが、今さらである。

「リィカ、何を考えてる?」
「え? ジャダーカとだったら、魔法の話できるのかなぁって……」

 この場にバルかユーリがいたら、なぜよりによってその名前を出すんだ、と言ったかもしれない。しかし、残念ながらこの場にいるのはアレクとリィカの二人だけである。侍女も「ご用がありましたら、お呼び下さい」と言って、場を離れてしまった。

 案の定ムスッとしたアレクだが、リィカは首を傾げるだけだ。

「……それで、どう作り方が違うんだ?」

 何かを押し殺したかのようなアレクの質問に、リィカはさらに不思議に思う。話を聞きたがったことも不思議だが、聞かれればリィカだって話したい。

「今まではね、水の魔力で最初の長方形を作ってたの。そうすると、魔石全体に水の力が行き渡って、ほら、途中で水がタプタプしたと思うけど」

「……あ、ああ」

「でも鏡って、前面だけ映ればいいわけだから、魔石全体に水の力を渡らせる必要ってなかったんだよね。多分、サルマさんたちはそこに気付いて、作り方を変えたんだと思うけど」

 だから、最初は水の魔力を使わず、純粋な魔力のみで形作る。その後、魔石の表面のみに水の魔力を付与して、最後に土の魔力を付与する。

 今までは魔石全体に水だけではなく、土の付与もしていたせいで、鏡の裏面が多少ゴツゴツしてしまった。けれど、表面だけの付与であれば、裏側は最初に形作った綺麗なままだ。

「最初の段階から早く作れるけど、その後も表面だけだから、多分早く作れると思う。土の付与が少なくても水が固まるから、わたしが作ったのより明るいんだと思う」
「……そうか」

 リィカの表情は、とても生き生きしている。もう少し気の利いた返事をしたいのだが、それができるほど話を理解できない。

「やっぱりすごいよね。また会って、色々教えてもらいたいなぁ」
「……まあ、気持ちは分かるが」

 分かるが、果たして色々教えてくれるかどうかは、別問題だろう。
 リィカがすごいと思うのは自由だが、サルマたちからしたら、自分たちのできないことをリィカたちがどんどんやっているのだ。それこそ「すごい」と思われているだろうと思う。

 だがやはり、リィカと一緒に魔法談義は無理だ。喜ぶだろうとは思うのだが、話を聞くだけしかできない。

 となれば、もう話題を変えてしまおう。せっかく二人きりなのだから。

「……あの、アレク?」

 リィカが少し顔を赤くして戸惑った様子を見せる。アレクが体をくっつけるようにピッタリ座って、肩を抱き寄せたからだが。

「寝室の話、聞いたか?」

 耳元で囁くと、リィカの顔どころか耳まで真っ赤に染まった。それが可愛くて嬉しくて、さらに口元を近づける。

「結婚まで使えないなんて、ひどいよな。そう思うだろう?」

 完全に唇が耳についた状態でさらに囁くと、リィカが小さく悲鳴を上げて離れようとするが、腕の力を入れてそれを阻止する。
 ……まあ正直言えば、リィカが何と言ったのか、すでにアレクは侍女から聞いている。聞いているし予想通りでもあるのだが、それで素直に引き下がるのは悔しいのだ。

「父上に頼めば、駄目だとは言われない気がするんだよな」

 さらにさらに囁けば、リィカが首まで真っ赤にして顔を横にブンブン振った。その様子が、本当に可愛い。

「わ、わたしは、けっこんごで、いいからっ」

 よほど混乱して動揺しているのか、ろれつが回っていない。その様子にアレクはさらに嬉しくなって、トドメを刺してみた。

「あの時は、リィカから誘ってくれたのにな」
「さ、さ、さそ……っ」

 "あの時"とは言わずとしれた、ベネット公爵邸で一緒に過ごした夜のことである。
 リィカの顔が、赤くなりすぎて顔から湯気が出そうだ。そろそろ止めておくか、と抱き寄せた肩から手を離せば、リィカは顔を自分の膝に埋めた。

「うー……」

 リィカが何やら唸っている。アレクは、髪が左右に落ちて真っ赤に染まったままのうなじが丸見えで、意識が吸い込まれる。

「ヒッ?」

 吸い込まれるままに口づけすれば、リィカの体がビクッとなった。このまま抑え込んでキスマークをつけようか悩み、結局は何もせず解放する。その途端、リィカが体を跳ねるように起こした。

「アレクっ……!」

 うなじを手で押さえて、赤い顔で若干涙目だ。そんな目で睨まれたところで、ただ可愛いだけで怖さは欠片もない。
 手を伸ばして、肩をソファの背もたれに押しつける。リィカが何かを言う前に、顔を近づけて唇を重ねた。

「…………っ……!」

 リィカの口が動いて、体も何やらゴソゴソ動いたが、アレクはお構いなしにキスを続ける。満足してから口を離すと、リィカの目はトロンとしていて、息が切れていた。それをしたのが自分だと思うと、なぜこうも嬉しいのか。

 ここで終わるのがもったいなくて、さらに手を伸ばす。服に指をかけて軽く引っ張って、肌を露出させる。そこに口づけて、今度こそキスマークをつける。肌についた赤い痕に笑みが浮かんだ。

「二度目の夜が来るまでは、毎日こうやって痕をつけるのもありかもな」

 そう言って服から手を離すと、リィカがプルプル震えていた。どうしたのかと顔を見ると、その顔が怖いことになっていた。

「アレクの、バカっ!!」
「ま、待てリィ……ブッ!」

 リィカの叫びとともに、どでかい水の固まりがその手に生まれて、アレクに直撃したのだった。
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