【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
656 / 681
第十九章 婚約者として過ごす日々

魔封じの枷、完成

しおりを挟む
「うーん…………」

 リィカは、魔封じの枷を目の前にして唸った。それをアレクが心配そうに見るが、何も言えることがない。

「一つだけ。もし仮に一つで無理ならまた報告を、ですか」

 ユーリが苦笑した。リィカの「失敗してもいいなら」に対しての国王の返答が、それだった。
 失敗していい数は一つだけ。一つ失敗して、それでも感覚が掴めないようであれば、再度報告。貴重なものなのでしょうがないが、リィカにはかなりプレッシャーがのし掛かる話だった。


※ ※ ※


 魔封じの枷の作成にある程度の目処がついてから、一週間がたった。一週間たってようやく、リィカは再び魔封じの枷作りに着手することができた。

 一週間かかった理由は、リィカ自身が晩餐やら鏡作りやらお茶会やらで忙しかった、というのもあるが、一番は国王がなかなか決断を下せなかったからである。

 唸りながら悩みながら、出した結論がそれである。実際に唸って悩んでいるところを、リィカも目撃してしまったせいで、できないとも言いにくい。何としてもこれで感覚を掴まなければと思うのだが、思えば思うほどにプレッシャーだ。

「いきなり作ろうとしないほうが良いですよ。まずは、魔力を探っていってはどうですか?」
「……そう、なんだけど」

 ユーリのアドバイスに、躊躇う。分かってはいるのだが、早く作らなきゃという焦りがなくならない。

「何かあるんですか?」
「ライアン伯爵から催促されたんだ。……気にするな、リィカ。それで失敗したら、その方が大変だ」

 ユーリの問いにはアレクが答えた。
 そうなのだ。リィカが王宮にいるせいで、ライアン伯爵も会いに来やすくなっていて、遠回しにまだかまだかと言ってくる。熱心なのはいいのだが、現状どうすることもできない。
 結局、国王やアークバルトが対応することもあったりする。

 リィカはふーと息を吐いた。
 アレクの言うとおりだ。ゆっくりやろうと思って、魔封じの枷に手を伸ばす。自分が水の魔力を乗せるべき魔力をゆっくり探る。その魔力を完全に覚えられるまで、探って感じ続ける。

 地味すぎる作業だが、それが一番の早道だ。

 ――アレクとユーリが見守る中、集中したリィカは、結局その日のうちに失敗することなく一つ目を完成させた。


※ ※ ※


「できたのか」

 そう言う国王の声には、驚きとほんのわずかな呆れが混ざっていたが、リィカは気付かず謝罪した。

「は、はい。その、遅くなってしまって、申し訳ありません」
「ちっとも遅くないだろう。大体、作り始めたのは今朝じゃないのか。最初は失敗するかもしれぬと言っておったのに」
「……あ、え、えっと」

 責めるようにも聞こえる言葉に、リィカは言葉に詰まる。だがそこは、当然一緒にいるアレクとユーリがフォローしてくるだろうと思っているからこそ、国王も言えるわけで。

「早くできたんですから、いいじゃないですか」
「これでも、失敗しないように慎重にやっていたんですよ」

 責め返されてしまい、国王は苦笑する。リィカが大切に思われているのは良いことだ、と内心で思いつつ、別のことを口にした。

「それで、今あるものを全部作れるか?」
「はい。ただ、やっぱり時間はかかってしまいますけど……」

 申し訳なさそうな顔のリィカに、国王は頷いた。これで、一瞬で全部できますと言われたら、その方が引いていた自信がある。

「では、一日一つずつ作ってくれ。今後かかる時間が短くなるようなら、増やすかもしれぬが。空いた時間を、魔法師団の指導に当てて欲しい」

 リィカを見る。すぐ頷くかと思ったが、何かをためらうような様子を見せる。やはり荷が重いのかと思ったが、それを理由に話をなしにすることはできない。そう思い、少し厳しめに問いかける。

「どうした」
「いえその……元々はわたし、勉強するために王宮へ来たと思ったのですが」
「そういえばそうだったな」

 これはさすがに笑うしかない。これまで平民として暮らしてきたリィカだ。学ぶべきこと、知らなければならないことは、たくさんある。確かに、その勉強のために王宮へ来てもらった。

 だが実際のところ、勉強らしい勉強はしていない。これでいいのかと思ってしまうのは、分からなくもない。けれどここまでリィカを見てきた国王の感想は、そこは優先しなくていいというものだった。

「そなたのフォローは、アレクでも誰でも、儂でもできる。だが、魔法師団員への指導はそなたしかできない。ということで、頼んだ」
「……はい、かしこまりました」

 一瞬、押し黙ったリィカだが、結局素直に頭を下げた。

 それを見ながら、国王は思う。
 あくまでも、リィカの指導を受けるかどうかは個人の自由であり、希望者のみとした。その条件であれば、普通に考えれば魔法師団長であるレイズクルスとその一派が、来ることはない。

 だが果たして、どう出てくるか。

 リィカがきっかけとなって、その権力が落ちてはきているものの、まだまだ強い。そして、レイズクルスもその程度は分かっているだろう。

 落ちてきていることに納得するような人物ではない以上、リィカに接触できるこの機会を、逃すとも思えない。接触して……何とかしてリィカを貶めようとするだろうが、逆にそれを破れれば。

(レイズクルスの権力を、一気に落とすチャンスにもなる)

 魔法師団を大々的に改革するためには、どうしてもあの師団長の存在が邪魔だった。果たしてリィカはどこまでやってくれるのか。不安も大きいが、その反面、期待もしている国王だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸
ファンタジー
 ──大勇者時代。  誰も彼もが勇者になり、打倒魔王を掲げ、一攫千金を夢見る時代。  そんな時代に、〝真の勇者の息子〟として生を授かった男がいた。  名はユウト。  人々は勇者の血筋に生まれたユウトに、類稀な魔力の才をもって生まれたユウトに、救世を誓願した。ユウトもまた、これを果たさんと、自身も勇者になる事を信じてやまなかった。  そんなある日、ユウトの元へ、ひとりの中性的な顔立ちで、笑顔が爽やかな好青年が訪ねてきた。 「俺のパーティに入って、世界を救う勇者になってくれないか?」  そう言った男の名は〝ユウキ〟  この大勇者時代にすい星のごとく現れた、〝その剣技に比肩する者なし〟と称されるほどの凄腕の冒険者である。 「そんな男を味方につけられるなんて、なんて心強いんだ」と、ユウトはこれを快諾。  しかし、いままで大した戦闘経験を積んでこなかったユウトはどう戦ってよいかわからず、ユウキに助言を求めた。 「戦い方? ……そうだな。なら、エンチャンターになってくれ。よし、それがいい。ユウトおまえはエンチャンターになるべきだ」  ユウトは、多少はその意見に疑問を抱きつつも、ユウキに勧められるがまま、ただひたすらに付与魔法(エンチャント)を勉強し、やがて勇者の血筋だという事も幸いして、史上最強のエンチャンターと呼ばれるまでに成長した。  ところが、そればかりに注力した結果、他がおろそかになってしまい、ユウトは『剣もダメ』『付与魔法以外の魔法もダメ』『体力もない』という三重苦を背負ってしまった。それでもエンチャンターを続けたのは、ユウキの「勇者になってくれ」という言葉が心の奥底にあったから。  ──だが、これこそがユウキの〝真の〟狙いだったのだ。    この物語は主人公であるユウトが、持ち前の要領の良さと、唯一の武器である付与魔法を駆使して、愉快な仲間たちを強化しながら成り上がる、サクセスストーリーである。

【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)
ファンタジー
俺こと“有塚しろ”が転移した先は巨大モンスターのうろつく異世界だった。それだけならエサになって終わりだったが、なぜか身に付けていた魔法“ワンオペ”によりポンコツ鎧兵を何体も召喚して命からがら生き延びていた。 百体まで増えた鎧兵を使って騎士団を結成し、モンスター狩りが安定してきた頃、大樹の上に人間の住むマルクト王国を発見する。女王に入国を許されたのだが何を血迷ったか“聖騎士団”の称号を与えられて、いきなり国の重職に就くことになってしまった。 平和に暮らしたい俺は騎士団が実は自分一人だということを隠し、国民の信頼を得るため一人百役で鎧兵を演じていく。 そして事あるごとに俺は心の中で呟くんだ。 『すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ』ってね。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私は逃げ出すことにした

頭フェアリータイプ
ファンタジー
天涯孤独の身の上の少女は嫌いな男から逃げ出した。

処理中です...