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エイシアの状況
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馬を飛ばしまくった俺は、わずか数日で南の国境にある森にたどり着いた。この辺は雪なんか影も形もない。驚くくらいに暑い。
フゥと息を吐き、剣を握りしめてから森に入る。馬は繋がない。無理をさせたから、ゆっくり休むように声をかけて、そのまま放してやる。
俺の持っている剣は、軍に支給されている普通の剣ではなく、遠征先で出会った刀匠が、俺のために作ってくれた剣だ。もちろん俺がそんな剣を持っていることは、国王たちには言っていない。言えば、取り上げられるのが目に見えている。
森に入ってすぐ異変に気付いた。妙に静かだ。この森はこんなに静かだっただろうかと、警戒しつつ中を進む。そして、暑いはずの場所に妙な冷気を感じて、俺は足を止めた。
「……もしかして」
ある種の確信を持って、その冷気の方向に足を進める。そして、見つけたそれに苦笑した。
「この場所って、魔法の威力落ちるんじゃなかったっけ?」
目の前にあるのは、ガチガチに凍らされた魔物の像。氷で作った像ではなく、凍らされた魔物である。エイシアがいつこの場所に来たのかは知らないが、この暑い場所でこんなガチガチの氷状態を維持するって、すごくないだろうか。
さらに足を進める。所々、まるで目印のように凍らされた魔物が点在している。それを頼りに、俺は奥へ奥へと足を進める。生きている魔物とは一切出くわさない状況が異常過ぎる。全く警戒する気が起きないのは、その原因を何となく察したからだろうか。
そうして進むこと、しばし。
「おすわりっ!」
やたらめったら楽しそうに聞こえた声に、俺は脱力した。どんな状況なのか、見たいような見たくないような。俺が来る必要ってあったんだろうか。だからといって、ここまで来て引き返すのも何なので、仕方なく声の聞こえた方に向かった。
そして、そこにいたのは、思い切り元気そうなエイシアと、氷付けにされた魔物が何体か。そしてその魔物と同じ魔物が五体ほど、まさに「お座り」している。さらに、その奥に息を潜めているたくさんの魔物の存在を感じた。
「何やってんの」
「やっと来たわねっ!」
なんか力が抜けてしまって、呆れ半分に声をかけると、驚いた様子もなくエイシアが返してきた。
「やっとじゃない。割と危ない橋渡って、ここまで来たんだけど」
「どうせあんた立場危ないんだから、気にする事じゃないわっ!」
「……あのね」
確かにそうかもしれないけど、だからといってわざわざ危ない橋を渡りたくない。俺だけの問題であれば気にしないけど、王城にいるはずの俺の隊員たちにも危ない橋を渡らせているのだ。
だが、目の前の彼女は、相変わらず自信に満ちた姿だ。婚約破棄されて、実家から勘当されて、なぜそんなに自信満々なのか、そっちが不思議だ。
「で、何やってんの」
「見たら分かるでしょ! このか弱い女の子の私が生き残るために必要なことよ!」
「か弱い女の子は、魔物に"お座り"させないって」
どう考えても、魔法で魔物を倒して脅して、言うことを聞かせているようにしか見えない。今なお"お座り"している魔物を見る。エイシアを見る目が怯えているように見えるのは、きっと俺の気のせいじゃない。
「……ま、元気で良かったよ。じゃ、悪いけど、俺いったん帰るから」
「なんでよっ!」
「俺の隊員たちがいるから。流石に国王たちに俺がいないことに気付かれてるだろうし」
ここに来るまでに数日。さすがにもう王都にいないことはバレただろう。皆は大丈夫だろうか。副官を信じてここまで来たが、俺の方に帰らないという選択肢はない。
「私はどうするのよっ!」
「ここにいても平気そうに見えるけど」
「あんたが来るまでって思ってたから、手加減せず魔法を使えただけよ! いつまでもこんなの続けてらんないわ!」
「……あ、そっか」
やっぱりそれなりにエイシアにとってはキツイ場所だったのか。その割には元気そうだけど、長く続けるのは無理か。いや、その前に。
「なんで俺が来るって思ったの」
「来ないつもりだったわけ!?」
「……いや、隊のみんなもいるし、ちょっと悩んだ」
エイシアは無言のまま眉をひそめた。
俺が隊の皆と仲良くなってから、俺への嫌がらせが皆にまで及ぶこともあった。皆には全く関係のないはずの俺のミスを、隊全体のミスにされたこともあった。
俺は何の許可を得ることもなく、王都を抜け出してここまで来てしまった。間違いなく、その責任は皆に押しつけられる。そのとき皆はどうなってしまうのか。いや、副官が何とかできていなかったら、今頃皆は大変な目に合っているかもしれないのだ。
エイシアもそれは分かっているだろう。だから、一緒に王都に来るなら来てもいいと思う。実家に帰るわけにはいかないけれど、町外れの方にいれば見つかることもないはずだ。
「ねぇ、副官はあんたがここに来ること、知ってるのよね?」
「ああ、もちろん。あいつが皆を何とかしてくれるって言うから、頼んできた」
「じゃ、帰る必要はないと思うわ。隣国の方へ向かいましょ」
「……なんでさ」
国境を接している国はいくつかあるけれど、隣国と言って浮かぶ国はたった一つ。この森の北にあるのが俺の生まれた国であるならば、この国の西にあるのが隣国だ。
大抵の国境は辺境地帯であり、魔物の跋扈する領域だが、西にある隣国だけは、魔物の領域を挟んでおらず、交流も多いのだ。
だからといって、なぜそっちに向かうのか。一応王子である俺が、まさか勝手に行くわけにもいかない。下手すれば国際問題になる。だが、心配している俺を余所に、エイシアはやはり自信満々に言い放った。
「あの副官が隣国の王子だからよ!」
「………………は?」
驚いた俺は、絶対に悪くないと思う。
フゥと息を吐き、剣を握りしめてから森に入る。馬は繋がない。無理をさせたから、ゆっくり休むように声をかけて、そのまま放してやる。
俺の持っている剣は、軍に支給されている普通の剣ではなく、遠征先で出会った刀匠が、俺のために作ってくれた剣だ。もちろん俺がそんな剣を持っていることは、国王たちには言っていない。言えば、取り上げられるのが目に見えている。
森に入ってすぐ異変に気付いた。妙に静かだ。この森はこんなに静かだっただろうかと、警戒しつつ中を進む。そして、暑いはずの場所に妙な冷気を感じて、俺は足を止めた。
「……もしかして」
ある種の確信を持って、その冷気の方向に足を進める。そして、見つけたそれに苦笑した。
「この場所って、魔法の威力落ちるんじゃなかったっけ?」
目の前にあるのは、ガチガチに凍らされた魔物の像。氷で作った像ではなく、凍らされた魔物である。エイシアがいつこの場所に来たのかは知らないが、この暑い場所でこんなガチガチの氷状態を維持するって、すごくないだろうか。
さらに足を進める。所々、まるで目印のように凍らされた魔物が点在している。それを頼りに、俺は奥へ奥へと足を進める。生きている魔物とは一切出くわさない状況が異常過ぎる。全く警戒する気が起きないのは、その原因を何となく察したからだろうか。
そうして進むこと、しばし。
「おすわりっ!」
やたらめったら楽しそうに聞こえた声に、俺は脱力した。どんな状況なのか、見たいような見たくないような。俺が来る必要ってあったんだろうか。だからといって、ここまで来て引き返すのも何なので、仕方なく声の聞こえた方に向かった。
そして、そこにいたのは、思い切り元気そうなエイシアと、氷付けにされた魔物が何体か。そしてその魔物と同じ魔物が五体ほど、まさに「お座り」している。さらに、その奥に息を潜めているたくさんの魔物の存在を感じた。
「何やってんの」
「やっと来たわねっ!」
なんか力が抜けてしまって、呆れ半分に声をかけると、驚いた様子もなくエイシアが返してきた。
「やっとじゃない。割と危ない橋渡って、ここまで来たんだけど」
「どうせあんた立場危ないんだから、気にする事じゃないわっ!」
「……あのね」
確かにそうかもしれないけど、だからといってわざわざ危ない橋を渡りたくない。俺だけの問題であれば気にしないけど、王城にいるはずの俺の隊員たちにも危ない橋を渡らせているのだ。
だが、目の前の彼女は、相変わらず自信に満ちた姿だ。婚約破棄されて、実家から勘当されて、なぜそんなに自信満々なのか、そっちが不思議だ。
「で、何やってんの」
「見たら分かるでしょ! このか弱い女の子の私が生き残るために必要なことよ!」
「か弱い女の子は、魔物に"お座り"させないって」
どう考えても、魔法で魔物を倒して脅して、言うことを聞かせているようにしか見えない。今なお"お座り"している魔物を見る。エイシアを見る目が怯えているように見えるのは、きっと俺の気のせいじゃない。
「……ま、元気で良かったよ。じゃ、悪いけど、俺いったん帰るから」
「なんでよっ!」
「俺の隊員たちがいるから。流石に国王たちに俺がいないことに気付かれてるだろうし」
ここに来るまでに数日。さすがにもう王都にいないことはバレただろう。皆は大丈夫だろうか。副官を信じてここまで来たが、俺の方に帰らないという選択肢はない。
「私はどうするのよっ!」
「ここにいても平気そうに見えるけど」
「あんたが来るまでって思ってたから、手加減せず魔法を使えただけよ! いつまでもこんなの続けてらんないわ!」
「……あ、そっか」
やっぱりそれなりにエイシアにとってはキツイ場所だったのか。その割には元気そうだけど、長く続けるのは無理か。いや、その前に。
「なんで俺が来るって思ったの」
「来ないつもりだったわけ!?」
「……いや、隊のみんなもいるし、ちょっと悩んだ」
エイシアは無言のまま眉をひそめた。
俺が隊の皆と仲良くなってから、俺への嫌がらせが皆にまで及ぶこともあった。皆には全く関係のないはずの俺のミスを、隊全体のミスにされたこともあった。
俺は何の許可を得ることもなく、王都を抜け出してここまで来てしまった。間違いなく、その責任は皆に押しつけられる。そのとき皆はどうなってしまうのか。いや、副官が何とかできていなかったら、今頃皆は大変な目に合っているかもしれないのだ。
エイシアもそれは分かっているだろう。だから、一緒に王都に来るなら来てもいいと思う。実家に帰るわけにはいかないけれど、町外れの方にいれば見つかることもないはずだ。
「ねぇ、副官はあんたがここに来ること、知ってるのよね?」
「ああ、もちろん。あいつが皆を何とかしてくれるって言うから、頼んできた」
「じゃ、帰る必要はないと思うわ。隣国の方へ向かいましょ」
「……なんでさ」
国境を接している国はいくつかあるけれど、隣国と言って浮かぶ国はたった一つ。この森の北にあるのが俺の生まれた国であるならば、この国の西にあるのが隣国だ。
大抵の国境は辺境地帯であり、魔物の跋扈する領域だが、西にある隣国だけは、魔物の領域を挟んでおらず、交流も多いのだ。
だからといって、なぜそっちに向かうのか。一応王子である俺が、まさか勝手に行くわけにもいかない。下手すれば国際問題になる。だが、心配している俺を余所に、エイシアはやはり自信満々に言い放った。
「あの副官が隣国の王子だからよ!」
「………………は?」
驚いた俺は、絶対に悪くないと思う。
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