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望む未来へ
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静かに雪の降る中、足を進める。そうしてたどり着いた場所は、墓地だった。
「ここは……」
「身寄りのない人たちを葬るための、共同墓地だよ。そして、ここに俺の母も眠ってる」
「えっ!?」
さすがにエイシアも来たことがなかったようだ。説明すると、驚いた顔をした。
「なんでっ!? あんたを産んだあんたの母親でしょっ! 普通なら王族の墓地に葬られるはずでしょっ!」
「そうなんだけど、"奴隷"の母は入れられないって、ここに入ったんだ」
俺は頭を触る。俺の赤い髪は母から引き継いだものだ。そして、この国で赤い髪の人間の大半が奴隷の身分だ。だけど、別に母は奴隷だったわけじゃない。他国からこの国に来ただけだったのだ。
『出会った時のあの人は、とても格好良くて素敵だったんだけど。ごめんね、私の見る目がなかったわ』
碌に日の光も入らない、寒々とした北側の部屋に押し込められて。病気になっても診てもらうこともできず、亡くなった母。
『世界はね、もっと広いのよ。私のいた国なんて、赤い髪の人間なんてゴロゴロいた。もちろん、奴隷なんかじゃない』
そう語る母の言葉を、当時の俺はほとんど理解できなかったけれど。
ただ、戦いは男の仕事であるはずなのに、女性であるはずの母がなんで剣に詳しかったのか、俺に色々教えられたのか。不思議だったその疑問に、ボンヤリと答えを得たような気はした。
『ごめんね。私は自業自得でいいけれど、それをあなたにも背負わせてごめんね。セルウス、なんて名前までつけられて』
それも知っていた。セルウスって名前は、この国の古い言葉で"奴隷"って意味の言葉だから。王太子たちがわざわざそう教えてくれたから。
『本当はね、あなたにこう名前をつけたかったの。――シリウスって』
どことなく響きは似ているから、母が言ったその希望をきっと父がねじ曲げて、俺の名前は"セルウス"になった。
『シリウスにはね、光り輝くもの、焼き焦がすものって意味があるのよ』
最初の意味はともかく、二つ目は少々不穏な響きに聞こえた。けれど、母は笑う。その笑いの意味を、俺は未だに理解できていない。ただ、俺には不釣り合いに思えるほどの、強い名前をつけてくれようとしていたんだと、それだけは理解した。
墓標の前で手を合わせつつ、おれはポツポツとエイシアに話をした。いつもは賑やかなエイシアが、遮ることなく俺の話を最後まで聞いてくれた。
「セルウスって呼ばれるの、嫌だった?」
「そんなことないよ。どんな意味があっても、俺の名前だし。エイシアに呼ばれて嫌なわけがない」
「そ。ならいいわ」
神妙な顔をしたエイシアは、俺の言葉にニカッと笑う。うん、そういう顔の方がエイシアに似合ってる。それに、俺の言ったことも本心だ。
「多分さ、あの頃から思ってたんだ。その広い世界を見てみたいって。母さんのいた国も、それ以外の国も。色んな場所を見てみたい」
他の誰にも言ったことがない、俺の望むことだ。
「それが俺のやりたいことなんだけど、エイシアはどうする……」
「あんたにしては面白そうなこと言うじゃないっ! 嫌だって言ってもついてくから、覚悟なさいっ!」
俺が最後まで言い切る前に断言された。ビシッと指を指されて、俺は苦笑した。
「あーいや、言うだけなら簡単だけど、メチャクチャ大変なことを俺言ってると思うんだけど」
「だからなにっ!? あんたと私がいれば、大抵のことは何とかなるわよっ!」
「だからなんでそんなに自信満々なの……」
本当にエイシアは相変わらずだ。でもそれが頼もしくて嬉しい。俺は手を差し出した。
「エイシア、一緒に来てくれる?」
「当たり前でしょっ!」
元気な手が、俺の手を握る。
「ずっとどこまでも、一緒に行くわ。――シリウス」
呼ばれた名前に、目を見開いた。イタズラが成功したような顔のエイシアを見て、本当に敵わないなと思う。
繋がれた手が温かくて、離しがたくて。俺たちは手を繋いだまま、宿へと戻っていった。
*****
隣国の軍が国境を越えた頃、幾度となく魔物から人々を助けてくれていた、"赤の魔剣士"と"銀の雪姫"と呼ばれた二人の姿を見ることがなくなった。
色々な憶測が飛び交うものの、どれも推測に過ぎず、やがて話題に上ることもなくなった。
また、軍を率いて来た隣国の第二王子が「逃げられましたね」と言って笑っていた、という話もあったが、それが誰のことを指していたのかどうかは、不明である。
ーーーーー
(後書きっぽいものを)
これでいわゆる第一部的なものが終わりになります。次、閑話休題的な話が入って、第二部になります。
「ここは……」
「身寄りのない人たちを葬るための、共同墓地だよ。そして、ここに俺の母も眠ってる」
「えっ!?」
さすがにエイシアも来たことがなかったようだ。説明すると、驚いた顔をした。
「なんでっ!? あんたを産んだあんたの母親でしょっ! 普通なら王族の墓地に葬られるはずでしょっ!」
「そうなんだけど、"奴隷"の母は入れられないって、ここに入ったんだ」
俺は頭を触る。俺の赤い髪は母から引き継いだものだ。そして、この国で赤い髪の人間の大半が奴隷の身分だ。だけど、別に母は奴隷だったわけじゃない。他国からこの国に来ただけだったのだ。
『出会った時のあの人は、とても格好良くて素敵だったんだけど。ごめんね、私の見る目がなかったわ』
碌に日の光も入らない、寒々とした北側の部屋に押し込められて。病気になっても診てもらうこともできず、亡くなった母。
『世界はね、もっと広いのよ。私のいた国なんて、赤い髪の人間なんてゴロゴロいた。もちろん、奴隷なんかじゃない』
そう語る母の言葉を、当時の俺はほとんど理解できなかったけれど。
ただ、戦いは男の仕事であるはずなのに、女性であるはずの母がなんで剣に詳しかったのか、俺に色々教えられたのか。不思議だったその疑問に、ボンヤリと答えを得たような気はした。
『ごめんね。私は自業自得でいいけれど、それをあなたにも背負わせてごめんね。セルウス、なんて名前までつけられて』
それも知っていた。セルウスって名前は、この国の古い言葉で"奴隷"って意味の言葉だから。王太子たちがわざわざそう教えてくれたから。
『本当はね、あなたにこう名前をつけたかったの。――シリウスって』
どことなく響きは似ているから、母が言ったその希望をきっと父がねじ曲げて、俺の名前は"セルウス"になった。
『シリウスにはね、光り輝くもの、焼き焦がすものって意味があるのよ』
最初の意味はともかく、二つ目は少々不穏な響きに聞こえた。けれど、母は笑う。その笑いの意味を、俺は未だに理解できていない。ただ、俺には不釣り合いに思えるほどの、強い名前をつけてくれようとしていたんだと、それだけは理解した。
墓標の前で手を合わせつつ、おれはポツポツとエイシアに話をした。いつもは賑やかなエイシアが、遮ることなく俺の話を最後まで聞いてくれた。
「セルウスって呼ばれるの、嫌だった?」
「そんなことないよ。どんな意味があっても、俺の名前だし。エイシアに呼ばれて嫌なわけがない」
「そ。ならいいわ」
神妙な顔をしたエイシアは、俺の言葉にニカッと笑う。うん、そういう顔の方がエイシアに似合ってる。それに、俺の言ったことも本心だ。
「多分さ、あの頃から思ってたんだ。その広い世界を見てみたいって。母さんのいた国も、それ以外の国も。色んな場所を見てみたい」
他の誰にも言ったことがない、俺の望むことだ。
「それが俺のやりたいことなんだけど、エイシアはどうする……」
「あんたにしては面白そうなこと言うじゃないっ! 嫌だって言ってもついてくから、覚悟なさいっ!」
俺が最後まで言い切る前に断言された。ビシッと指を指されて、俺は苦笑した。
「あーいや、言うだけなら簡単だけど、メチャクチャ大変なことを俺言ってると思うんだけど」
「だからなにっ!? あんたと私がいれば、大抵のことは何とかなるわよっ!」
「だからなんでそんなに自信満々なの……」
本当にエイシアは相変わらずだ。でもそれが頼もしくて嬉しい。俺は手を差し出した。
「エイシア、一緒に来てくれる?」
「当たり前でしょっ!」
元気な手が、俺の手を握る。
「ずっとどこまでも、一緒に行くわ。――シリウス」
呼ばれた名前に、目を見開いた。イタズラが成功したような顔のエイシアを見て、本当に敵わないなと思う。
繋がれた手が温かくて、離しがたくて。俺たちは手を繋いだまま、宿へと戻っていった。
*****
隣国の軍が国境を越えた頃、幾度となく魔物から人々を助けてくれていた、"赤の魔剣士"と"銀の雪姫"と呼ばれた二人の姿を見ることがなくなった。
色々な憶測が飛び交うものの、どれも推測に過ぎず、やがて話題に上ることもなくなった。
また、軍を率いて来た隣国の第二王子が「逃げられましたね」と言って笑っていた、という話もあったが、それが誰のことを指していたのかどうかは、不明である。
ーーーーー
(後書きっぽいものを)
これでいわゆる第一部的なものが終わりになります。次、閑話休題的な話が入って、第二部になります。
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