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2.似合わないドレス
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第三王子殿下、もとい、クアントリル殿下。
年齢は、私と同じ十三歳。
王位継承権は、王太子殿下に続く第二位。
第三王子なのになぜ二位なのかというと、第二王子殿下は母君の身分が低いため、王位継承権がないからだ。
今度開かれるパーティーは、王太子殿下の誕生日パーティーらしい。
当然ながらクアントリル殿下も参加される。
である以上、婚約者である私もパートナーとして参加しなければならない、という訳だ。
一応知識としてパーティーでの礼儀作法は学んだけど、実践とは別物だから不安だ。
ついでに、クアントリル殿下とは初顔合わせ。
……普通は、婚約者と決まった時に顔くらい合わせるものじゃないんだろうか。
今さらながらに、その事実に気付いたのだった。
*****
「……きれい、です。姉上」
そう言ってくれたのは、私の弟イアン。
全然知らなかったのだけど、生まれていたらしい。
父と母とは全く顔を合わせず、使用人たちは形だけは丁寧に、必要最低限のことしかしてくれない。
非常に居心地の悪い屋敷だけど、この弟だけはなぜか私に懐いた。
休めない私に、イアンが「姉上と一緒にお食事したい!」と言ってくれたおかげで食事にありつけた、なんて数え切れない。
食事の時にはベールを取るから、目も見られてる。最初はマジマジと見られたけど、その後は至って普通なものだから、私の方が拍子抜けしてしまった。
その弟が、第三……じゃなくて、クアントリル殿下が贈って下さったドレスを着た私を見て、何とも複雑そうな表情で言ったのだ。
「お世辞は入らないわよ、イアン。似合ってないって素直に言いなさい」
私の髪の色は、目の色と似たり寄ったりの色。
顔立ちは、十人並み。
祖父母はよく「可愛い」と言ってくれたけれど、これは親の欲目ならぬ、祖父母の欲目だろう。
そんな私に、真っ赤なドレスなんぞ似合うはずもない。
同じ赤でももう少し落ち着いた赤なら、まだ良かったんだろうけど。
「そ、そんなことないです。……似合ってはないけど、きれいです」
「無理に褒めなくて良いから」
イアンの言葉に、私は大きくため息をついた。
このドレスが届けられたとき、私は使用人に聞いてしまった。「これ、着なきゃダメなの?」と。
しっかり告げ口されたらしく、両親に怒られた。
「クアントリル殿下が贈って下さったドレスだぞ! それを着たくないとは、何事だ!」
着たくないとは言ってないけど。
まあ、意味は変わらないか。
この屋敷に来て、まず初めに“諦め“という言葉を学んでおいて良かった、とこの時にしみじみ感じた。
「ちょっと僕呼んできます!」
誰を? と聞く前にイアンが出て行った。
どうしたのかと思ったら、連れてきたのは侍女たちの長をやっている人だ。
「普通、こういうドレスって侍女の人たちが着せるんでしょ。姉上にもちゃんとやって」
「し、しかし、イアン様……」
「似合わないドレスで王宮に出かけたら、バレー伯爵家の恥になるでしょ。やって」
幼いながら、さすが跡継ぎの長男。有無を言わせないあたり、すごい。
でも、違うドレスを着られないし、やってもらう必要ない。
――なんて思ったけど、そうじゃないことを知った。
バレー伯爵家の恥、という言葉に反応したのか、侍女たちはちゃんとやってくれた。
髪型を変えたり宝石をつけたりした結果、ずいぶんマシな格好になって驚いた。
「ありがとう」
だからお礼を言ったのに、侍女たちは顔も向けず、何も言わない。
やっぱり、居心地が悪い。
――ドクン、とまた私の中の何かが反応した。
年齢は、私と同じ十三歳。
王位継承権は、王太子殿下に続く第二位。
第三王子なのになぜ二位なのかというと、第二王子殿下は母君の身分が低いため、王位継承権がないからだ。
今度開かれるパーティーは、王太子殿下の誕生日パーティーらしい。
当然ながらクアントリル殿下も参加される。
である以上、婚約者である私もパートナーとして参加しなければならない、という訳だ。
一応知識としてパーティーでの礼儀作法は学んだけど、実践とは別物だから不安だ。
ついでに、クアントリル殿下とは初顔合わせ。
……普通は、婚約者と決まった時に顔くらい合わせるものじゃないんだろうか。
今さらながらに、その事実に気付いたのだった。
*****
「……きれい、です。姉上」
そう言ってくれたのは、私の弟イアン。
全然知らなかったのだけど、生まれていたらしい。
父と母とは全く顔を合わせず、使用人たちは形だけは丁寧に、必要最低限のことしかしてくれない。
非常に居心地の悪い屋敷だけど、この弟だけはなぜか私に懐いた。
休めない私に、イアンが「姉上と一緒にお食事したい!」と言ってくれたおかげで食事にありつけた、なんて数え切れない。
食事の時にはベールを取るから、目も見られてる。最初はマジマジと見られたけど、その後は至って普通なものだから、私の方が拍子抜けしてしまった。
その弟が、第三……じゃなくて、クアントリル殿下が贈って下さったドレスを着た私を見て、何とも複雑そうな表情で言ったのだ。
「お世辞は入らないわよ、イアン。似合ってないって素直に言いなさい」
私の髪の色は、目の色と似たり寄ったりの色。
顔立ちは、十人並み。
祖父母はよく「可愛い」と言ってくれたけれど、これは親の欲目ならぬ、祖父母の欲目だろう。
そんな私に、真っ赤なドレスなんぞ似合うはずもない。
同じ赤でももう少し落ち着いた赤なら、まだ良かったんだろうけど。
「そ、そんなことないです。……似合ってはないけど、きれいです」
「無理に褒めなくて良いから」
イアンの言葉に、私は大きくため息をついた。
このドレスが届けられたとき、私は使用人に聞いてしまった。「これ、着なきゃダメなの?」と。
しっかり告げ口されたらしく、両親に怒られた。
「クアントリル殿下が贈って下さったドレスだぞ! それを着たくないとは、何事だ!」
着たくないとは言ってないけど。
まあ、意味は変わらないか。
この屋敷に来て、まず初めに“諦め“という言葉を学んでおいて良かった、とこの時にしみじみ感じた。
「ちょっと僕呼んできます!」
誰を? と聞く前にイアンが出て行った。
どうしたのかと思ったら、連れてきたのは侍女たちの長をやっている人だ。
「普通、こういうドレスって侍女の人たちが着せるんでしょ。姉上にもちゃんとやって」
「し、しかし、イアン様……」
「似合わないドレスで王宮に出かけたら、バレー伯爵家の恥になるでしょ。やって」
幼いながら、さすが跡継ぎの長男。有無を言わせないあたり、すごい。
でも、違うドレスを着られないし、やってもらう必要ない。
――なんて思ったけど、そうじゃないことを知った。
バレー伯爵家の恥、という言葉に反応したのか、侍女たちはちゃんとやってくれた。
髪型を変えたり宝石をつけたりした結果、ずいぶんマシな格好になって驚いた。
「ありがとう」
だからお礼を言ったのに、侍女たちは顔も向けず、何も言わない。
やっぱり、居心地が悪い。
――ドクン、とまた私の中の何かが反応した。
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