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第2章 黄金の瞳は語る【case1:精霊猫】
ep.14 霧雨の中、飛び交う
しおりを挟む「ふ、副団長っ……!? 焔天の方たちに怪我なんてさせたら大問題ですよっ!?」
喧嘩したのが団長にでもバレたら、流石にお咎めなしじゃ済まない気がする。
「喧嘩を売られたのはコッチなんだが?」
いやいや、煽って最終的に向こうの火をつけたのは、貴方でしょうが……!
せせら笑う副団長を焔天の団員たちが囲ったかと思うと、一斉に副団長へと走り込んで行った。
「あぁもう……」
ハラハラしながら見ていると、隣でふんわりと浮かんでいたニアに、ポムッと肩を叩かれた。今のニアは精霊の姿だから、触られた感覚はないのだけども。
『大丈夫よ、メル。精霊動物達は、団員同士の喧嘩に手を貸すことはないから。そこまで派手な喧嘩にはならないと思うわ』
「へ?」
『精霊騎士団員をパートナーに持つ精霊動物には、強い矜持があるのよ。ましてや今はシルヴァ1人に対して、複数人が相手してるでしょ? 普通に考えて、シルヴァが不利な状況に置かれているのに加勢するような精霊は、まずいないの』
喧嘩騒ぎを始めている団員達を挟んで、私たちとは反対側にいる精霊動物達の様子を垣間見れば、威嚇こそしているけれど、魔法を使う素振りは全く見せなかった。
全然関係ないけど、ブルドッグ犬をはじめとして、可愛いもふもふがいっぱい整列してる……動物パラダイス……
『それにほら、団員達は皆、剣を抜いてないでしょう?』
派手な喧嘩にはならないってニアは言ってたけど、十分に大乱闘といえるだろう騒ぎの真っ只中である。でも、確かに皆さん手と足しか使ってない。勿論うちの副団長も。
「う~ん……いくら剣は使わないっていう縛りがあっても、王宮所属の騎士団員だよ? 皆さんそれなりに訓練してるだろうし、打ちどころによっては……ねぇ?」
医務課所属の私としては、怪我は怪我以外の何ものでもないので、心配の方が勝ってしまうのだ。
あ、副団長、今すっごく綺麗な顔で笑いながら、焔天の団員を思いっきり殴りました。
「いやー、ムカつくけどやっぱアイツ強いわ……」
焔天の団員の1人が、ヘロヘロの状態でこちらにやって来た。戦闘不能だと自分で判断したようで、ギブアップしたらしい。塀に寄りかかるように座り込んだので、私はその前にしゃがみ込んで怪我の状態を確認させてもらう。
「えぇと、怪我は大丈夫……じゃなさそうですね」
「まぁな。きっとこれ、明日には筋肉痛もプラスされて苦しむ事になるわ……こっちが悪いとは思うけど、ちっとは手加減しろよなって感じ」
私は持っていた鞄の中から、救急キットを取り出した。水の入った小瓶と塗布薬、ガーゼと包帯が数枚しかないけれど、応急処置くらいなら出来る。
「うちの副団長がすみません……」
「俺らも血の気の多い団員と、一緒になって悪ノリしちゃったから、お互い様だと思うわ」
「副団長、普段はもっと冷静な対応をしていると思うんですけどねぇ……」
なにぶんあんな風に冷たく怒りを表しながら、戦闘狂になる姿をはじめて見たもので。
そう話しながら、私は団員の手の甲に出来ていた擦り傷に小瓶の水を軽くかけて、薄く薬を塗布しガーゼで保護する。
「黒夜だとそうなのか? でもシルヴァ・ステラって、入団試験の模擬戦でもずっとあんな感じだったけどなぁ? 常に冷静沈着で、他人に興味がない感じでさ。だけど模擬戦になったら、まじで死神かよってくらい人をなぎ倒していってたな……木剣が大鎌に見えたのは初めてだったわ」
「あの、そういえばさっき、ステラ家の死神っておっしゃってる人がいましたけど……それって何なんですか?」
私には、あの言葉が副団長の理性ストッパーを外したように思えたんだけどな。
「あぁ……あれは貴族の間じゃ有名な話で……ん? ていうか、俺、今自然な流れで手当てを受けちゃってるんだけど、いつもこういうの持ち歩いてるのか?」
「? はい。なんなら必須アイテムですね」
「しかも君……よく見たら剣も持ってないし……え?」
「あ、騒ぎになっちゃって、結局言えてませんでしたっけ? 私、黒夜の団員は団員なんですけど……」
言いかけたところで、副団長のいる所がやけに騒がしくなった事に気が付き、振り返った。
「なぁ、もう諦めろって。結局俺らじゃ勝てねぇんだって……」
「うるせぇっ……! 一発でも決めねぇと気が済まねぇんだよっ!!!」
既にほとんどの団員が手足を地面につけており、事実上の降参となっていた。未だ立っているのは、副団長と最初に喧嘩を吹っ掛けた団員だけ。
その団員が、自棄になったのか路地裏に積まれていた古い木箱を、手あたり次第に思いっきり投げ始めたのだ。その内の1つがこちら側、しかも私めがけて飛んできたのである。
「うわ……!? おい! 黒夜の子、避けろっ……!!!」
「あんの、筋肉馬鹿っ……!」
一緒にいた団員は咄嗟に私を庇ってくれようとしたのだけど、既に疲労困憊の身体は、あのスピードに対応出来ないだろう。
私を庇ったら、この人が怪我しちゃう。
そう直感した私は、腰に下げていた警棒を引き抜いていた。座り込んでいた体勢から、咄嗟に片足だけを膝立ちにし、踏み込むような姿勢に変える。
「え?」
「ごめんなさい、一応顔は伏せておいてくださいね……っと!」
私は飛んでくる木箱を見つめたまま、回転する木箱が正面を向いた瞬間をめがけて、警棒を振り投げた。
腕力が自分に足りないのは分かっていたから、1番力が不要で、尚且つスピード重視の投げ方で木箱に当てる事にしたのだ。
ヒュン、と高く風を斬る音が鳴る。
霧雨の中、木箱と警棒が一瞬だけ宙を飛び交ったように見えたのは、木箱の真ん中を警棒が貫通したからだった。
「嘘だろ……? 木箱が……空中で砕けた?」
砕け散った弊害で、木の屑が多少頭に降りかかるが、木箱がそのまま落ちてくるよりかは可愛いものである。
「私、医務課所属の非戦闘員なんです。だから、誰も怪我させたくないんですよ」
ふぅ、よかった。
安堵のため息をつきながら振り返って微笑むと、焔天の団員は何故か顔を赤くしたまま、ポカンと私を見つめていた。
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